[18] 作業

 Vtuberはじめてから香波はヒマな時に他の人の配信を見るようになった。なんか参考にできたらと思って。そんな中、いろんな人がやってて、自分もできそうで、そんなに大変じゃなさそうな企画を見つけたので、沙夜に提案してみた。

「作業配信やるわ」

「え、何の作業を配信するの」

 自分から発案するなんて私も成長したなあと思っていたのだが、沙夜にストレートに聞き返されて速攻で言葉に詰まった。

 確かに!


 だらだら喋ってたら成立すると考えていたが、作業配信というからにはなんか作業する必要があるわけで、言われて初めて頭の中を探ってみたけれど、なんにも思い当たらなかった。

 だいたい作業ってなんなんだ?

「そこはあんたの考えるところでしょうが!」

 わかんないので沙夜に丸投げすることにした。

 何から何まで沙夜に考えさせるんじゃなくて、きっかけとなるアイディアを出しただけでも十分働いた。1を10にするより0から1を生み出す方が大変だという話もあることだし。

 沙夜はしばらくの間、黙って考えを巡らせてから

「……じゃあ自分でサムネ作るとかどう?」

 と言った。


 のんびりだらだらやろうと休日昼過ぎ配信開始する。

「というわけで今日は作業配信です。サムネ作ります」

 サムネとはサムネイルの略である。サムネイルとは直訳すると親指の爪のことである。

 そこまでさかのぼる必要なかった。要するに配信の表紙みたいなもので、ひと目でこういう配信だよってのがわかるように作ればいい、とは沙夜談。

「はじめて作るから1枚完成させるのが目標で。まあ私の手際がよくてするするするっと終わっちゃうかもしれないけど」

『はじめてって今まではどうしてたの』

「sayoが作ってた」

『あー』『なるほどね』『どおりでデザインいいわけだ』

「は? 私のが100倍センスいいし。サムネなんてちゃっちゃと作って目にもの見せてやるんだから!」

 今日も今日とて沙夜はイラストの仕事で別室作業中。

 事前にだいたいのやり方は聞いてあるので問題なし。途中でわかんなくなったらわかんなくなったで、気軽にチャットもしくは直接聞ける。


 何もないところから手をつけてくのは大変なので、参考にすべくこれまでのサムネ(沙夜制作)を眺める。

「こうしてみると私もいろいろやって来たのねー。初配信とか最早懐かしいぐらい。沙夜に消せって言ってんのになかなか消さないし」

『伝説の始まり』『消さないで』『残しておいてくださいお願いします』

「このサムネよく見たら背景が将棋盤になってるじゃない。戦型はなんだろ? 振り飛車対エルモ急戦? どっちがいいかは肝心なところカナミで隠れてて見えん。まあでも私は振り飛車持ちかな、居飛車わかんないし」

『ほぼ囲いしか映ってないからなあ』『駒ぶつかる前っぽい』『居飛車持ちで』

「何これ? 飲酒配信? こんなんやった覚えないんだけど。いや話してたら思い出してきた。やろうって私が言った気がする。でも結局やった覚えないしなんか事情あってやんなかったんでしょ。それでそのまま立ち消えになったけどサムネだけ準備してたってことかな」

『そうですね』『そうなんじゃないかな』『そうだったはず』


 思い出を振り返りつつ分析する。

 基本的になんか背景があって、半分がアッシュブロンド和風モチーフ美少女のカナミ、半分が配信の内容示してる文字、場合によってはさらにワンポイントでイラストが入ってくるみたいな感じらしい。

 サムネというのはむやみに使いまわせるものではない。内容にそって作られているものだから。だからまず何の配信のサムネを作るか考える必要がある。

「何の配信のサムネ作ればいいの?」

 沙夜に聞く。

『今週のはもう作ってあるから来週のだったらなんでもいいよ』

「来週何やるとかほとんど決まってないでしょうが』

『それも今考えて決めちゃって』

「てきとー」


 言われてから考えてみた。なんかやりたいこととかあったっけ?

「クエッタマンのつづきやる。残りのボス倒す」

『いーんじゃない。じゃあそれのサムネよろしく』

「まかせなさい!」

 結構古い2Dアクションゲーム。耐久配信でプレイした。全部で5体ボスがいてその時は1体倒したところでやめた。

 残り全部1度に倒すのは多分たいへんだ。そこまでやりたくない。1体倒すのに4時間か5時間かかったけどそれは初めてだったからで、次はそんなにかからないとは思う。操作にもいくらか慣れたことだし。

「次回の目標は2体で」

 これだったら多分いい感じの時間に終わると思う。サムネの文字はだいたいそのあたりを書いとけばいいだろう。


 次は背景だけどクエッタマンっぽい感じにしたい。設定を探してみる。

 クエッタマンは悪の秘密結社によって生み出された人造人間だ。食うことで相手の能力を手に入れる超能力を持っている。ちなみにクエッタと食えがかかっているらしい。くそみたいなダジャレ。

 クエッタマン、人造人間、ジャングルっぽいイメージ、いやそれはプレイしたのがそれだったからで他のステージは違うかも。

『ゲーム画面そのまま使ったら?』

 悩んでたら視聴者の人が案を出してくる。

「それってだいじょうぶなの、権利とかそういうの的に」

『ネタバレとかは避けた方がいいけど、おおむねだいじょうぶだよ』

 沙夜が補足。だいじょうぶらしい。

「じゃあそれ採用で」

 次やる予定のステージを背景にして、できればクエッタマンの姿もそれなりの大きさにしたい。跳ねてるところかショット撃ってるところか、かっこいいところにしよう。

 だいぶイメージが固まってきた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る