[14] 難所
最初のザコ敵を倒してそのまま快進撃――とはいかずその後はあっさり穴に落ちてゲームオーバーになった。
「最後のずるいでしょ。穴の中からいきなり飛び出てくるとか。フェアじゃない。あんなの落ちるに決まってるじゃん。前もって注意表示しときなさいよ」
『今のはしゃあない』『まあかなり昔のゲームだから』『覚えて次にいかそう』
「もう一回よ、もう一回。次こそその面踏みつぶしてやるんだからね!」
カエルマンステージに再度突入する。先に比べればかなり順調。
ジャングルに潜むウサギやらトラやらを時にはかいくぐって、時にはぶっ殺して右へ右へと進んでいく。ミスって棘に刺さって1つ残機を失ったけどゲームオーバーになったところまで無事到着する。
なんてことないちょっと広めなぐらいの穴、けれども飛び越えようとすると下からトンボが飛び出してくる。そしてぶつかってそのまま穴に落ちていくという寸法だ。
ひとまず穴ぎりぎりまで移動して待ってみる。トンボが飛び出してきて穴に戻っていった。さらに待ってみる。また飛び出してきて戻っていく。
おそらく1匹ずつしか出てこない。タイミングをはかれば乗り越えられる。飛び出してきて戻る。飛び出してきて戻る。戻った瞬間に跳べ。
「ここ!」
次の足場に着地した後でトンボが現れて消えていった。よっし。
こうしてひとつひとつ障害をクリアしていく。一度は踏破した罠に再度ひっかかって死んでゲームオーバーになって最初からやりなおしたりその道のりは平坦ではなかったけれど。
ゆっくりではあるが着実に進んでいるという実感があった。
どういう仕掛けが来るのか、ぼんやり覚えているし操作も少しは慣れてきた。真上だけでなく左右にジャンプできるようになったし、移動したりジャンプしたりしながらショットも撃てるようにもなった。
「もしかしてだけど……私、結構ゲームうまい、かも?」
『そうだね』『多分そう』『実際よくやってる』『問題はここからなんだよなあ……』
多少自信がついてきたところでそれはやってきた。
「え、なにこれ?」
クエッタマンの前方には1人分しかないような狭い足場が並んでいる、高低差つきで。さらには右からはふよふよとチョウチョが飛んでくる。
「めっちゃすべるんだけど」
さらには足場がなんかぬめぬめしてると思ったら、その見た目通りに滑る。ちょっと移動しようと思っただけなのに勝手にそのまま落ちていった。
慎重に行こうと止まっていたら止まっていたでふよふよ弾を当てにくい軌道でチョウチョが襲ってくる。それをよけつつ滑るし狭い足場に乗り移って右を目指さなければならない。
あっという間に残機はとけてゲームオーバー。何なの? いきなり難易度跳ね上がりすぎでしょ。
「あんなのクリアできるの?」
『たいていの人は他のボス倒してからくる』『あるアイテムないと難しい』『一応どのステージからやってもクリアできるようになってる、はず』
言われてみればずっとカエルマンステージだけやってた。他のも選べるのに。
どうしよう? 後回しにして別のやるか? でもあれだけ進んだのに。ステージセレクト画面を睨みつけながら香波は迷う。あいかわらず間抜けたカエルマンがにやりと笑った、ような気がした。
「クリアできるってんならやる!」
このまま負けて引き下がるのは気に食わない!
ぬめぬめ足場地帯まで戻って死んで戻って死んでを繰り返す。
重要なのはスピードだ。あんまりたらたらしてるとチョウチョがまとわりついてきてうざったい。あいつらが集まってくる前にさくっと抜けてしまうのが一番いい。
20回ほど死んだらだんだんとコツをつかめてきた。
操作は繊細かつ大胆に。あんまりむやみにジャンプしてはいけない。敵はなるべくこまめに処理する。ただし後ろから迫ってくるものは無視、前だけに集中。
チョウチョは豆粒2発で倒れる。つづけざまに叩き込む。ナイスショット。
前方に残り2体、正面に1体とそれからやや上に1体。安全策をとるならそれらのうちせめて1体は処理しておきたいところ。だが後ろからもぞくぞく集まってくる。
「ええいままよ!」
ぎりぎり通れると見込んで跳びこんだ。名人は危ないところで遊ぶとかなんとか。挑戦することを忘れたら人はそこで停滞する。前方に待つ硬い地面に向かってクエッタマンは大きく飛び出した――
ゆっくりと机の上にコントローラを置く。それから深呼吸。やばい。まじ手が震えてるし心臓もめっちゃ激しく打ってる。一旦落ち着け。
ペットボトルの水を飲みこむ。その時になって喉が渇いていることに気づいた。
「やったーっ!」
両手を高く突き上げ叫ぶ。クエッタマンはぬめぬめ危険地帯を抜けて安全な大地に立っている。
『おめでとう』『88888888』『やっと抜けたー』『まさかアイテム使わず抜けるとは』『がち初見?』『最初のクソ下手プレイから見てるけど進歩がすごい』
喜びを存分に噛みしめたところでプレイ再開。見たことない扉が画面右にあったのでくぐっていく。
「これでクリア?」
『ボス戦だよ』『ボス戦があります』『忘れられたかわいそうなカエルマン』
「もうここでクリアでいいでしょー」
二重扉の先にはあのステージ開始時に何度も見た間の抜けたカエルマンがファイティングポーズで待ち構えていた。BGMが切り替わる、より激しく焦燥をかきたてるものに。バトルスタート。
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