[13] 射撃

 風呂入ったり飯食ったりで1時間ほど休憩。

 シンプルなきのこのパスタ食べつつ沙夜に「今日中に終わらせないとほんとにまずい仕事があるからあとは1人でがんばってね。ちゃんと配信は見てるから」と言われる。

 現時点では1時間に3人増えてるペース。このままだと1000人に到達するのはまだ10時間ぐらいかかる計算。冷静に考えたら今日中に終わらない、それは非常に面倒くさい。


「はーい、それでは耐久配信、再開しまーす、いえーい」

『いえーい』『わーわーわー』『ぱちぱちぱちー』

 ということで香波は無理矢理テンション上げて始めた。するとどういうわけかチャットの方もおかしなテンションで返ってきた。こいつらどうなってんだ?

 気にせず進行。配信上ではウェービーなアッシュブロンドで若干目元のきつい少女の隣に、ちょっとどころかだいぶ古臭いゲームの画面が映っている。

「sayoが買ってきた別のゲームやります、クエッタマン。結構古いゲームで操作はシンプルだからあんまりゲーム慣れしてない私にもできるって言ってた」

『そうかな』『そうかも』『そうだよ』

「ま、とりあえずやってみるわ、ゲームスタート!」


 クエッタマンは1人用2Dアクションゲームだ。飛んだり跳ねたりしつつ障害物を壊すなり避けるなりして右側を目指していくという、ゲームに詳しくない香波でもなんとなく見たことあるタイプのやつ。

 ボタンを押せば画面が切り替わって5角形の頂点上にそれぞれ怪獣の顔が表示された。いわゆるドットで描かれているためわかりにくいが、カエルとかヘビとか動物モチーフっぽいのがちらほらいる。

 最初は5つのステージがあってどれから遊ぶか自由に選択できる形式。ステージのボスを倒せばそのボスが使ってた特殊能力が手に入るという話だ。

 だいたいそのぐらいの説明をご飯食べながら沙夜に聞いた。それより詳しいことは聞いていない。コントローラーの左右を押せば、カーソルがぐるぐる動く。どいつから倒せばいいんだろうか――直感で選ぶ。


「1番目の犠牲者はこいつで。理由は何か顔が間抜けで弱そうだから」

 ステージを選択すればでかでかとそのボスの名前が出てきた。カエルマン。二足方向の柔道着を着たカエルが空手っぽい構えをとっている。やっぱり間が抜けている、強そうに見えない。

『あ……』『なるほど、そう来たか』『確かにボスは弱そうに見えるけど』

 緑の多いジャングルっぽい場所、その中央にタイトルにもいた黄色い工事用ヘルメットをかぶった少年、クエッタマンが立っている。軽快なBGMが鳴り響く、時間制限は特にない。

 まずは操作確認から。左を押せば左に移動する。右を押せば右に移動する。Aボタンで真上にジャンプ。Bボタンを押したらぴょこっという音とともに前方に豆粒みたいのが発射された。

 以上、終わり。沙夜の言ってた通りに操作は非常にシンプルだ。


「簡単じゃないの。これなら私でもクリアできそうね」

 意気揚々とクエッタマンは右へと進軍を開始する。ほどなく前方に段差発見、一段高いところに草むらがあってそこからウサギが1匹飛び出してきた。

 まっすぐこちらにむかって突進。ばしっという効果音とともにクエッタマンは後ろにのけぞった。

「え、ちょっと待って、いきなり何なの? どうすればいいわけ?」

 ひとまず左に逃げる。一旦安全な場所に戻ろう。ウサギは草むらのあたりをぴょんぴょん跳ぶばかりで追いかけては来ない。なんだ、あれはびっくりしたな。

『敵です』『倒すか、避けるかして進んでください』『ショット使って』


 チャットの方を見て冷静さを少し取り戻す。ライフゲージが少し減ってた、ウサギとぶつかった時ダメージを受けたということだろう。すぐには死なないがダメージを受けつづけたらまずい。

 このまま左側に逃げてばかりでは進めない。倒すか、避けるか?

 香波は敵を倒すことを選ぶ、そっちの方が性にあっているから。そのための武器は持っている。

 Aボタン連打。その場でクエッタマンが小刻みにジャンプする。間違えたBボタン連打だ。3連続の豆粒ショットが画面右へと飛んでいく。

 弾は――当たらない。段差の上にいるウサギの下を通りすぎていった。

『ジャンプしてショットで当たりそう』『近づいたら向こうから下がって来てくれるよ』『さっきのショット前のぴょんぴょん跳ねてたの何だったんだろ?』


 ジャンプしてショット、難しい。Aボタン押してから急いでBボタン押すけど間に合わない。地面に着地してから発射してるからさっきと変わらない。

 それなら次の策で。こっちから近づけばまた相手は跳びかかってくるはず。そこを狙い撃つ。

 ちょっとずつ右ボタンを押してじりじりと間合いを詰めていく。ウサギの動きに集中する。さあ無謀にも跳びこんで来なさい、返り討ちにしてあげるから――

 動いた! その場でショット連打する。初めの2、3発は外れた。飛び跳ねたウサギの下側を通過する。

 問題ない。空中のウサギは自動的な運動で自ら弾幕へと突っ込んでくる。その顔面にありったけの豆粒を叩き込んでやる。

 ばしゅん。そんな軽い効果音とともにウサギは消滅した。勝った!


「見た、見た、今の見た?」

『さすが』『天才』『スーパープレイ』

「いえーい!」

 そのまま文字通りに賞賛を受けとっておく。確かにそれは大きな進歩だったのだから、例えステージの序盤の序盤の最初のザコ敵を倒しただけだったとしても。

 ただし沙夜のコメントだけは別だ。同じこと書いててもあの娘のだけは本人の顔が浮かんで明らかに煽られてる気分になる。後で特定の人のコメントだけ消す方法を当の本人に聞くことにしよう、と香波は思った。

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