[6] 質問
コメント拾いつつさくさくテンポよく質問に答えてく。
『初回聞いた感じだといっしょに暮してるんですか?』
「うん、同棲してるよ」沙夜がしれっととんでもないことを言う。
「言い方おかしいでしょ。ルームシェアってやつね」香波が訂正する。
「勝手に人の家に転がり込んできて家賃も食費も払わないのはルームシェアとは言わないと思う」
「ごめん。払った方がよかった?」
「いや別にそこは大丈夫、気にしないで」
『それ世間でいうところのひもというやつでは?』
「そうだね、ひもがあってるよ」
「ひもと違うし。家事とかやってるし」油断してると沙夜は勝手なことばかり言う。
「ご飯とか作ってるのは私だよ」それは確かにそう。
「そこは上手な人がやった方がいいでしょうが、適材適所ってやつよ」
『今までやってなかったのにいきなりVのデザインしてどうしたんですか?』
「これはじめてのやつなんだ」知らなかった。
「そうだよ。依頼は来てたんだけど断ってた。なんか自分でも作業しつつV見たりするから気恥ずかしくて」
「じゃあなんでまたこれはデザインしたの」
「ちょうどカナミちゃんがヒマそうにしてたし、せっかくだから自分の理想のVを作りたいなって思って」
「そんな理由でやらされてるの、私」完全に沙夜の欲望のままに踊らされてる。
「いいじゃん、お金貰えるんだから」
「お金貰えるんならいっか」深く考えるのはやめよう。
『ファンネームは決まってますか?』
「なにそれ」よくわかんない単語が出てきた。
「ざっくり言うと配信に来てくれるファンの人の総称、みたいなもの?」
「はいはい、なんとなくわかった。そんなもん決めてないわ」
「全員、カナミちゃんの友達なんでしょ」沙夜が余計なことを蒸し返してくる。
「そうね、カナミの友達、だからえーと、カナふれ?」
「いいけど、ちょっといかがわしい感じしない?」
「しない。あんたの頭がおかしいだけでしょ」
ちなみにこんな感じだけどファンネームは『カナふれ』で正式に決まった。香波本人は特に思い入れないので使うことないし、使わないからちょくちょく忘れるけどそれはそれとして。
ぽんぽんぽんと質問に答えてたら1時間ぐらいたっていた。視聴者数はちょこちょこ増えてって100人ぐらいになってる。思ったよりsayoは名が知れてるのかと香波はほんの少しだけ感心する。
「次が最後の質問だよ。正直あんまり触れたくないけど、あとあとばれるよりマシだから処理しとくね」
歯切れの悪い、若干ひっかかるところのある前置きをしながら、沙夜はその最後の質問を画面に表示した。
『顔と声は抜群にいいけど性格が終わってる友人は実在したんですね』
香波にはなんのことだかわからなかった。わからないということはつまり沙夜に関係のあることなんだろうなとは見当がついたがそれ以上のことはぴんとこない。
「全然意味わかんないんだけどなんのこと?」正直に聞く。
「申し訳ありません。今から説明させていただきます」
変に改まった口調で沙夜は話し始めた。
「えー、私、sayoはイラストレーターとして活動する傍ら、SNSでも日々の生活について定期的に発信していました。もちろんプライバシーにはきちんと配慮しており、私の認識する限りでは個人情報が漏洩する事態はありませんでした」
かたい言い回し使ってるが要するにtwitterでつぶやいてるけど特定されるような情報は今まで出してなかったよって話か。まあ当然だと思う。
「その日々のつぶやきの中で、高頻度で『顔と声は抜群にいいけど性格が終わってる友人』が登場しておりましたが、当の本人に対しては一切その話をしていませんでした。ここで謝罪をさせていただきます、本当にすみませんでした」
なるほどだんだん事情がのみこめてきた。沙夜はその『顔と声は抜群にいいけど性格が終わってる友人』についていい扱いか悪い扱いかさておきちょくちょく勝手に話題にあげていたというわけか。そこまではつかめたが、香波には肝心のところがわからなかった。
「それだれの話?」
その問いかけに対して沙夜は『え、こいつ何言ってんだ』って驚きを露骨に表情に出した。
ついでにチャット欄の方も『え?』『今の話の流れからすると……』『違うの??』『???』『よくわかんなくなってきた』とか似たようなコメントが並んでいる。
ちょっと間をあけてから恐る恐るといった調子で沙夜は再び口を開いた。
「……あの、カナミちゃんのことなんだけど」
「はあ!?」
香波は思いっきり大声を出してしまった。
100歩ゆずって無許可で人の話をしてたのは許そう。顔と声は抜群にいいというところについては照れるので触れないでおく。問題は――
「人の性格終わってるってどういうことよ」
「それはそのままの意味だよ、ごめんね」
「私の性格は全然終わってないんですけど!」
「カナミちゃんの顔も声も好きだけど性格はうーん……自分ではどう思ってるの?」
「普通よ、普通の性格でしょうが」
「そうだね、自分でも性格がいいとは言わないところは美点に数えられると思うよ」
この女は!
あえて深く息を吐きだした。だいぶ頭に血がのぼっている。沙夜は口が変にまわる。言い争ったところで勝ち目は薄い。
そもそも絶賛配信中でガチでケンカを始めるような状況じゃない。いやそのあたりのこともこいつは計算に入れているのか。ずるがしこいやつだ。
確かにちょーっとだけ気性が荒いことがあるけども普通の範囲内に入る、入るはずだと香波は思う。きっと沙夜のことだからそのあたりを誇張しておもしろおかしく話していたのだろう。
「明日、いいお肉買ってくるからそれでどうでしょうか」
「――許す」
「ありがとー」
別にちょろいわけではなくて、驚いて瞬間的には怒って見せたけど、落ち着いたらいつもの沙夜の範疇だなと思ったので、香波はその話はそれで終わりだという判断をした。性格がよろしくないなんて、沙夜がしょっちゅう言ってくることでしかない、うん。
最後にちょっとしたトラブルはあったけど概ねつつがなく2回目の配信は終了した。
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