[5] 2回目

「配信2回目~」

 オープニングが終わって画面が切り替われば、私室っぽい背景にアッシュブロンドに紺色の瞳の少女カナミが映る。

「ぱちぱちぱち~」

 沙夜が間の抜けた声でそう言うと、カナミの右肩あたりに浮いてる、丸っこい鳥のようなものは羽をぱたぱたさせて上下した。


 初配信から1日あけて2回目の配信、時刻は前回と同じ20時スタート。

 その1時間前に唐突に沙夜が「今日も私しゃべる予定なんだけど、それなのに画面上にカナミちゃんだけ表示されててもわかりにくいから、香波ちゃん今すぐにちゃちゃっとなんか描いちゃって」とかなんとか言いながら、横に線が入ってる普通のノートと普通の鉛筆を香波に渡してきた。

 『なんで私がそんなことを』と思ったけど、音楽に浸ってるところだったので片手間でぱぱっと3分で描いてやったら、それを沙夜がスキャンしてなんやかんやの作業して(隣で見てたけどよくわからんかった)、30分後には鳥っぽいやつがカナミの横でぱたぱたしてた。

 技術の進歩すごい!


 大きく丸描いてちょんちょんで目をつけて三角のくちばしつけて両脇にぴょこぴょこっと羽を生やしたらそれで完成というめっちゃいい加減な代物。さっきは3分と書いたがそんなにかかってない、1分でぱぱっとすませたやつ。

 もとがノートだから横向きの罫線がしっかり残ってるし、沙夜の切り取り方も雑だから余白も多い。あきらかな落書きでやっつけ仕事感がぷんぷん漂う。並んでるカナミのクオリティとは段違い。「逆にこれが味があっていいよね」と沙夜が納得してたので、香波としては特に異論なかった。


「見て見て、カナミちゃん、視聴者増えてるよ」

 沙夜は余計なことを言う。香波としてはあんまり気にしないように見てなかったというのに。

 52人。言われて思わず確認してしまっていた。前回より増えて10倍ほどになっていた。

「え、なんで増えてんの? なんかあった?」純粋な疑問。

「私がちゃんと宣伝したからだよ」そう言えばそんなことを言っていた。

「ってことは今日いるのほとんどsayoのファンってことね。そういうことならあとはあんたに任すわ」

 妙に誇らしげな沙夜が癪にさわったので言い返す。別段悔しかったわけではない。

「すねないでよー」

 いやほんとにそういうのでなく、楽できるならできる限り楽したいだけだ。ほんとのほんとに。


『初回配信アーカイブで見ました』『初回おもしろかった、アーカイブですが』『カナミちゃんの声も聞きたいな~』

「ほらたくさんコメントきてるから、カナミちゃんもちゃんとしゃべって」

「はいはい、わかりましたよー」

 なげやりな口調でつぶやいておく。つんとつまらなそうな表情をカナミはしてるがそれもかわいい。あと自分で描いたけど変わらずふよふよ飛んでるsayo鳥はなんかむかついた。

 さすがに残り時間無言ですごすのは無理らしい。それでも基本、sayoに興味がある連中が集まってるんだから、省エネ進行でやってけばいいや、と香波は思った。


「ということで私のこととかカナミちゃんのこととか、いろいろ気になってる人も多いだろうから、今日は事前に募集した質問に私たちで答えてこうと思います」

 司会進行とついでにPCの操作は沙夜に任せている。

 ちなみにおおよそ何をやるのかは聞いていたが質問の詳しい内容を香波は確認していない。単純に面倒だったので。

 まあ恐らくそんなんでもなんとかなるだろう。なんとかならなかったとしたら、それは事前に確認しておくようにきちんと言わなかった沙夜が悪いのだ。


「最初の質問はこちら。『お2人はどういう関係なんですか?』」

 沙夜が画面に表示させた質問を読み上げる。

 これは簡単だ。特に考えることもない。香波はさらりと答える。

「友達。以上。次の質問行こう」

「待って待って。それはその通りなんだけどもうちょっとなんかないかな。私たち付き合ってもう10年たつよ」

「まじで、もうそんな経つんだ、びっくりした。じゃあ長年の友達に格上げしとくわ」

 確かにそっか、中学校入ってすぐに出会って未だにつづいてるから、今がちょうど10年ぐらいか。出会った当初はこんなに長い関係になるとは思ってなかった。なんかちょっと感慨深いものがある。


 沙夜は納得いってないようだったが、それ以上つっこんでも無駄だと思ったのか、しぶしぶといったふうに香波の答えを受け入れた。

「カナミちゃん友達いないし私が唯一無二の存在だしそれでいいや」

「はあ、何言ってんのあんた、友達いるし。風説の流布やめろ」

「え、だれ? 私が知らない友達なんていないよね」

「わざわざこんな配信見に来てるんだからここにいる人全員私の友達みたいなもんでしょうが」

 売り言葉に買い言葉でついつい思ってもいなかったことを香波は口走ってしまう。でも苦し紛れに出てきた言葉にしては当たらずとも遠からずといったようなところに落ち着いた気がした。

『俺らは友達だった……?』『友達って何』『これからも友達としてよろしくお願いします』

「うんまあカナミちゃんがそれでいいんなら私はいいと思うよ」

 なんか憐れまれたようじ感じたので、隣に座ってる沙夜を直接攻撃しようかと香波は思ったが、そこはぐっと我慢しておいた。せめてやるとしても配信終わってからにしよう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る