27. DANS SA CHAMBRE

 白い肌に、マゼンタのビキニがピッタリと張り付いている。というか……


 芹奈って、着やせするタイプだったのか?


 思ってたより胸のボリュームがある。浅いけれど、ちゃんと谷間も見えているし……


 それに、意外に下半身の肉付きがいい。太ももからヒップにかけてのラインが、くびれたウェストをさらに際立たせている。


「な、なにか言ってよ……いいとか……ダメとか……」


 恥ずかし気に芹奈が言う。ダメだ。尊すぎる。尊死不可避だ……


「すごく、いいと思う……けど、芹奈は本当にビキニでいいの?」


「うん……すごく恥ずかしいけど、ワンピースはやっぱり露出面積が小さくなるから……でも……フローレンスさんはマイクロビキニだったらしいんだけど、さすがにそこまでは私は無理……」


「……」


 つか、マイクロビキニなんて売ってなかったし。アダルトなお店だったらありそうだけど。


「それじゃ、これにするね。私もこれが一番好きだから」


 そう言って、芹奈が笑った。


    ---


 夕食も、モール内のフードコートのそば屋で摂ることにした。僕の家で彼女の手料理……っていうのも考えられたけど、今からそれをやっていたら、例のタイムリミットに間に合わなくなりそうで、やむなく断念したのだ。


 芹奈はマイタケの天ぷらもりそばを選び、僕はかけの肉そばを注文する。長野はそば処なので、フードコートのそばでも十分美味しい。僕もキノコのそばにしようか、と思ったのだが、芹奈が「マイクロバイオームがなるべく違ってた方がいいらしいから、キノコじゃない方がいいかも」と言うので、いつも食べてる肉そばにした。


 それにしても……


 彼女との初めての買い物デート。これで、明日の作戦がなければ……どんなに楽しく、幸せなことだろう。そして……この後に待ち構えている、大仕事……


 彼女と結ばれる。それだって、とても幸せなことのはずなのに……気が重い。でも……たぶん、彼女とそういう状況になったら、それも吹っ飛んでしまうかも……


    ---


 食事の後、僕らはモール内の薬局に寄った。


「なにか、お薬でも買うの?」と、芹奈。


 うう……無邪気だ。天使すぎる。そんな彼女に、告げるべきだろうか。


「え、ええと……大事なもの、買わないといけないから……」


「大事なもの?」芹奈はキョトンとする。が、ようやく意味が分かったのか、顔を真っ赤にして俯いてしまった。


「そ、それじゃ、ちょっと待ってて!」


 慌てて僕は店の中に飛び込む。


    ---


「……」


 とうとうアパートに到着してしまった。彼女と一緒に。


「おじゃまします……」


 芹奈が玄関からキッチンに上がる。引き戸を開けて、僕の部屋に。


 時刻は20時過ぎ。もうタイムリミットまで余裕がない。しかし……


 どうしたらいいんだ? このまま彼女を押し倒すのは、たぶん最悪だろうし……


 とりあえず、灯油ファンヒーターを点ける。春とはいえまだまだ寒い。それに……これから僕らは、服を脱がないといけなくなるから……


「あ、あのさ、芹奈」


 僕が言った瞬間、芹奈の体がビクンと跳ねた。


「な、なに?」


「初めて……だよね? 大丈夫? 怖くない?」


「……ちょっと怖いけど、大丈夫だよ」


「あの……本当に芹奈は、僕で……良かったの?」


「どうしてそんなことを聞くの?」


 芹奈は少しだけ、心外だ、というような顔をした。


「いや、僕も初めてだから……その、上手くできないかもだし……」


「そんなの関係ない。私は……真『で』いいんじゃなくて、真『が』いい。真が好き……だから……真なら私、全部……許せるよ……」


 そう言って、芹奈が微笑む。


 ……!


 ヤバい。尊みがヤバすぎてヤバい。思わず語彙力が崩壊するほどにヤバい。


「芹奈!」


 思わず僕は彼女を正面から抱きしめてしまう。が、


「きゃっ!」


 彼女の悲鳴にすぐに我に返り、手を放す。


「ご、ごめん!」


 しまった。カオ姉からも、「くれぐれも優しくね」って言われてたのに……


 だが。


 突然、正面に柔らかい圧力。


 芹奈が僕の胸に飛び込んできたのだ。そしてそのまま僕を抱きしめる。


「芹奈……」


 おずおずと彼女の背中に手を伸ばし、僕も彼女を抱きしめた。あったかい。


 そう言えば、彼女とハグするのもこれが初めてだ。これだけでもかなりマイクロバイオームの交換になっているような気がする。だけど……


 僕らは、さらに先に進まなくてはならない。


 腕の力を緩め、僕は彼女を自分の体から少し離す。彼女も僕の意図を察したのか、顔を上げて僕を見つめた。そして……潤んだ両目を、ゆっくりと閉じる。


 唇を重ねる。お互いファーストキス……だと思う。そのまま僕は彼女の口の中に舌を差し入れた。


「!」


 二人の舌が絡まり合う。芹奈の鼻息が荒くなった。たぶん僕もそうなんだろう。これも口内のマイクロバイオームを交換し合うために必須の行為……なのだが……


 なんというか……エロい。エロすぎる。これだけのことなのに、かなり劣情が刺激されるのが分かる。


 やがて。


 どちらからともなく僕らは唇を離した。唾液の糸って、本当に引くんだ……


「服……脱ごうか……」


 僕が言うと、芹奈も


「うん……」と小さくうなずく。


 こういう時、彼女の服は僕が脱がせるべきなのかもしれないが……女の子の服なんて脱がした経験はない。それに、普通は行為の前にシャワーを浴びるから、その時に自分で脱ぐわけだが、今回はマイクロバイオームを洗い流さないために、シャワーを浴びずにしてくれ、と橘先生から注文されていた。


 ”人間の匂いはほぼ全てマイクロバイオームが作っているんだ。だから、少し臭いかもしれないが、それはそれだけマイクロバイオームが活発ってことだから、申し訳ないが我慢してくれ”


 先生からそんな風に頼まれると、さすがに従わざるを得ないが……昨日風呂に入ってるし……そんなに臭くない……よな?


「あ、灯り……消してくれる?」と、芹奈。


「あ、ああ」


 シーリングライトのスイッチを切る。LEDがフェードアウトすると、カーテン越しに外の明かりが窓を照らし出した。電車のレールが立てる軽やかな音が周期的に聞こえてくる。


 背中合わせになって、僕と芹奈は服を脱いだ。かすかな衣擦れの音。彼女はしゃがんで脱ぎ終わった衣服をきちんと畳んでいるようだ。やがてその音が止み、彼女が立ち上がる気配がした。


「もう振り向いても……いいかな」


「ええ」


 二人とも、少しだけ声が震えていた。

 僕は振り返り、再び芹那と向かい合う。


 窓灯りに浮かび上がる、芹奈の体のシルエット。暗闇に目が慣れてきたのか、うっすらと彼女の顔と乳房の形が分かる。


「芹奈……いい?」


 正直、ダメと言われてもここから引き返せる自信はなかった。それでも、これが最後の問いかけだ。


「ええ」


 僕をまっすぐに見つめ、彼女ははっきりとうなずいた。


「わかった」


 僕は彼女の手を引き、ベッドに誘導して体を横たわらせる。そして……ゆっくりとその上に自分の体を重ねた。

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