10. TEMPO DE SER FELIZ
え、ええー!
手作り弁当? 森下さんの?
ヤバいよ。これもうガチでデートじゃん!
「マ、マジっすか……」
「はい。その……味は保証できませんが……一応、私は毎日自分でお弁当作って食べてますけど、死んではいないですし、お腹壊したりもしてないですから……こんなことくらいしか出来なくて、申し訳ないんですけど……」
味なんか二の次だ。女の子の手作り弁当なんて……これまでの人生で一度も食べたことなかったからな……
「いえいえ、嬉しいですよ! それじゃ、お弁当お願いしていいですか? 僕、楽しみにしてますから」
「あ、ありがとうございます……」森下さんの顔が、パァッと明るくなった。「あ、何か嫌いな物ってありますか?」
「そうですねぇ……特に嫌いな物って無いですけど、強いて言えば……シイタケが苦手かなぁ。あの匂いがダメなんですよね。まあ、食べられないこともないんですけど」
「わかりました。それじゃ、シイタケは止めておきます」
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てなわけで、今週の土曜日、再び僕らはデート(?)をすることになった。こんなにトントン拍子に進んでいいんだろうか。
あ、でも……
森下さんとの関係は、未だに微妙なまんまだ。友人……とは言えるかもしれないけど、どう考えても恋人同士とは言えない。告白したわけでもないんだし……
でも、ぶっちゃけ言うと、僕は彼女が好きだ。これはもう間違いない。
彼女との初めてのデート(?)で、その気持ちは確かめられたと思う。なんて言うんだろう、二人でいると、すごく居心地がいい、というか……
たぶん彼女も同じように感じていたと思う。だから今度もデート(?)の誘いに応じてくれたんだ。しかも、お弁当まで作ってきてくれる、というオマケ付きで。
どうしよう。これは脈アリと見ていいのかな。正直、僕としてはこれ以上の関係に踏み込みたい。けど……告白するような勇気は……ない……
とりあえず、焦る必要はないよな。同じプロジェクトでこれからも顔を合わせていくことになるのに、告白に失敗して気まずくなるのは避けたいところだ。だから……もうしばらく、この関係を続けていこう……
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とうとう土曜日がやってきた。前回と同じように、僕らは学校で待ち合わせて出発する。空は青く、日差しが心地よい。
森下さんの服装は、なんというか……ちょっとオシャレな感じだった。確かに、前回のように山歩きをするわけじゃないので、ジャージである必要はないのだ。だから僕もライトグリーンのシャツの上にライトブルーのジャケット、ホワイトのチノパンといった、寒色系のお出かけスタイルで決めている。
それに対して彼女は、イメージカラーのマゼンタのセーターの上にベージュのスプリングコートを羽織っていて、ボトムスはライトブラウンのパンツという暖色系のコーディネートだ。大学ではいつもパーカーを着ているし、こんなガーリーな彼女を見るのは初めてで、新鮮だった。
「そ、それじゃ、さっそく行きましょうか」
「はい」
そそくさと森下さんが助手席に乗り込む。心なしか、顔が赤らんでいるようだ。
なんだか、服装も含めて普通にデートっぽい雰囲気になってきた。しかも……今日の昼食は彼女の手作り弁当……やばい。やばすぎる。いくら事前に何度もシミュレーションしたからと言っても、実際にその状況になってみると舞い上がってしまって、何の役にも立たない。
とりあえず、運転が上の空にならないように、ってことだけは気をつけないとな……
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行きの車の中は、やはり「パソ娘」が話題に上るのだった。ちょうどイベント期間だったこともあって、話は尽きなかった……が、僕としてはもうちょっと、彼女のプライヴェートなんかに踏み込んで聞いてみたかった。もちろんそんな勇気は到底持ち合わせていないのだが。
とりあえず、最初の目的地の高田城址公園に到着。松崎先生の指示は、城内じゃなくてその周りの外堀に行け、ということだった。車を降りた僕らは、駐車場から外堀に向かって歩き始める。
「お堀に何があるんでしょうか」と、森下さん。
「さあ……何でしょうね」僕は首をかしげてみせる。「高田城址公園と言えば桜の名所なんですけど……堀に沿っても桜は植えられてますけど、もう散ってしまってますよね」
「そうなんですか」
そんな会話をしている内に、外堀に到着。水路というよりはちょっとした池といった風情だ。だが、その水面は緑の丸い葉で覆いつくされていた。
「ああ、そうだった」僕は遠い記憶をたぐり寄せる。小学校だか中学校の社会の時間に習ったっけ。高田城址公園は桜の名所であると同時に、
「この水面に浮かんでるの、蓮ですね。ここの蓮は東洋一とまで言われてるくらいなんですよ。よく知らないけど種類も色々あるらしいです。でも……今は花の時期じゃないみたいですね」
実際、外堀を見渡してみても、少なくとも見える範囲にはどこにも花は咲いていなかった。どうせなら花が咲いているときだったら良かったのに……なんで松崎先生は花が咲いてないこの時期に行けって言ったんだろう。
「……」
しばらく瞼を閉じていた森下さんは、やがて目を開くと眉根を寄せる。
「なんだか、困惑を感じます。あの、妙高の笹で感じたような……ただ、その時に比べたら弱いですけど」
「困惑……?」
うーん。どういうことなんだろう……
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とりあえず、僕らは外堀を歩いて一周してみた。堀の近くではどこでも森下さんは漠然とした困惑を感じるようだった。蓮の花が咲いてないか、と思って探してみたのだが期待外れだった。どこにも花は咲いていない。
空は相変わらず良く晴れている。だんだん気温が上がってきて、肌が汗ばみはじめた。だが、風が吹くとやはり少し寒い。
一周し終えると、ちょうどお昼の時間になった。僕らは内堀に移動し、高田城の建物が見えるベンチに並んで座る。待ちに待ったお弁当タイム。
「はい、どうぞ」
「あ、ありがとうございます」
森下さんが差し出した黄色いランチボックスを受け取り、さっそく開けてみると……ゲンコツ程度の大きさの海苔巻きおむすびが二つと、おかずが入っているらしい小さなタッパー容器があった。さらにタッパーを開けると、鶏の竜田揚げと千キャベツが入っている。ふわりとガーリックの香りが漂ってきた。思わずツバが湧いてくる。
「うわ、
「お口に合えばいいんですけど……」森下さんが苦笑する。
「それじゃ、いただきます!」
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