ガザーリーの見解

ガザーリーが三人を再びテーブルに座らせて対面に座る。

「で、ききたい話というのは?」

「あなたがしらべている歴史のことです。『戦い』の歴史。」

ああ、とガザーリーは頷いた。

「『戦い』の神話では、宗教によって違うことが書いてるよね?かつての文献を比較してみて、僕が導き出した歴史があります。」


かつて、北の最果てには誰も住んでいませんでした。ただ、人間の中に、他よりも年を取りにくい種族がいました。その種族は長生きであるがゆえに叡智に富んでいましたが、またそれゆえに迫害をうけていました。

あるとき、人間の中で戦いがおこりました。長い長い戦争でした。長生きの一族──ここでは「穢れし血の民」と呼んでいますが、彼らは北の民、南の民のちょうど境界になる土地に住んでいたので、この戦いに巻き込まれることは必至でした。


「いや、そこに住んでいた、というのは推測です。しかし、私はあなたがた側の資料も研究しこの結論に到りました。つまり、彼らはネヒティアとワーネイアの境の山脈に住んでいた、と。」

それってつまりメティエ山の辺りかな?そこに神が住んでいれば近くてよかったのに、と自分が前に思ったことを、ルドヴィークは思い出した。

「それ、私が渡したんでしたっけね。…続けて。」

モーチェスが懐かしむように口を挟み、しまったと先を促す。


…当時、人々は皆同じ神を信仰していました。ここでは混乱を避けるために、その神を「大いなる者」と呼ぶことにします。


「それ、本当!?彼らもその神を信じてたの?」

ルドヴィークが食いつく。ガザーリーは肩をすくめた。

「話の腰を折らないでいただきたい。ちなみに、我々は今もその神を信仰していますよ。」

「アッリアール・サール・アヴェイラー…ですね?」

エミューナが暗唱した通りに口にする。ガザーリーは頷いた。

「そう、正しき唯一の神です。」

脱線させているのはガザーリーではないか、と思ったモーチェスが再び先を促す。

「ほらほら、神話を続けて下さい。」


…彼らはその「大いなる者」と契約を交わし、この戦乱を終わらせるために大きな力を得ました。しかしその力は正しくは使われなかった。彼らは先にやって来た北の民と結託し、南の民を排除しにかかりました。北の民は長い間、自分達の土地を奪った南の民達を憎んでいたのです。そうして北の民は自らの土地を奪い返し、そこに国を建てました。ネイト、つまりネヒティアがこれにあたります。

穢れ…いや、その長生きの一族は、勢いに乗り南の民の本拠地にまで攻め入りましたが、北の民は己の国を得たかと思うと急に掌を返したように彼らを見捨てました。結果、南の民に大敗を喫します。

彼らは北に戻り、北の民の王に面会しました。王は彼らの力を知っていましたし、その民族性…つまり精霊や大いなる者と近しい、ということで、彼らに恐れを抱きました。そこで、彼らを神とあがめることを約束し、北の最果てに閉じこめてしまいました。そして彼らの民族の下位の者を神官として己の国に置き、自分達が彼らを約束通り神として祀っていることを証明させるようにしたのです。

これが現在の、多神教の国と一神教の国、そして最果てという三者の構図のもとになった出来事です。


「長いよ~…」

「なんというか…、頭がぐちゃぐちゃします…」

ルドヴィークとエミューナが顔をしかめて音を上げる。この間語って聞かせた後輩もそんな顔をしていたな、とガザーリーは面白そうに二人を眺めながら、簡潔にまとめた。

「わかりやすくいうと、『神』なんてあがめている一族も、結局は人間の中の特異なもののひとつだってことだね。今のような『神』の姿は歴史のなせるワザかな。みんな利用するだけ利用してこわくなったんだね。」

「その恐れが今のように『神』に利用される事態へと発展した?」

モーチェスが眉をひそめる。『神』などいない方がシンプルだったのだが、神の民の上位存在として実在するようだ。ならば今のこの事態、ルドヴィークが推測したように、本当に『神』の仕業なのかもしれない。

「彼らは賢明な一族だ。『恐れ』と『信仰』をうまく結びつかせたんだ。」

ガザーリーが難しい顔で腕組みをする。こんなものを信仰する気が知れない、と彼は思っていた。利用しているつもりで利用される。人間というものはかくも愚かになれるものか。

「神すら…ボクたちにウソをついてたってこと?」

ルドヴィークが嫌そうな顔でガザーリーに尋ねる。モーチェスはその発言にルドヴィークの逆鱗を見た。事情を知らないガザーリーは気にせず答える。

「うーん、極端にいえばそうかもしれないね。」

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