ままならない夢

「それでは、持ちもの検査をはじめるぞ〜」

おっさんが教卓でニヤリと笑う。

「ええっ、ここ学校?!っていうかあいつが先生!?」

アンゼはガバリと飛び起きた。机に突っ伏して居眠りをしていたのか。おっさんがアンゼの前の席の男子に難癖をつける。

「おっと田中〜学校にこんなもの持ってきていいと思ってるのか?」

「すっすいません。つ、つい…。」

「没収だ!」

おっさんは小脇に抱えた袋に田中のナイフを入れた。うーん、いたよねそういう中二病こじらせた奴。あの髪ツヤのいい田中がそんな子だったとはなぁ…田中って誰?

「さあ、つぎはお前だ!何だ、この思わせぶりな袋は?」

アンゼの前におっさんが立つ。

「ええっとそれには…」

なーーーんにも覚えがない。下らない夢だと分かっているのに冷汗が出る。

「はは〜ん、さてはパンツだな?」

「言ってね〜」

っていうか夢なんだから、そういうこと言わないでほしい。連想すると本当に出てくるかもしれないじゃない。

「おっと、そんなこと言うから先生ちょっとドキドキしてきちゃったぞ。よし、深呼吸。スー、ハー、プッ」

「何!?最後の音何!?」

「よし、あけるぞ!そりゃっ!」

中からブリーフが出てきた。アンゼとおっさんは二人してがっかりした顔になった。

「何だこれは、期待させておいて!オレはこんなもんいらんからな!」

「あんたが勝手に想像してただけだろ!っていうか『いらん』って何よ!?」

没収したものを私物化するつもりだったの?教師のルール違反だと思うのですが。

「待て、これは『サトルのブリーフ』ではないか!どうしてお前…こんな貴重品を学校に持ってきていいと思ってるのか!」

「何すか、それ!?」

カバンからマッスルの神様が出てきた。アンゼは考えるのをやめた。

「君がおとしたのは①金のブリーフ ②銀のブリーフ

さあどっち!?」

「どっちもちがう!?」

「さあどっち!?」

「……①金」

「③番セクシーなブリーフを選んだ君は今ちょっとブルーな気分だな?」

「えらんでね〜」

「そんな君には黄ばんだブリーフをプレゼント!今なら僕のブリーフ、サトルのブリーフ二枚までついてくる!」

「い ら ね〜」


「ハァ…ハァ…」

何とか覚醒することができた。ベッドの上で体を起こす。

「大丈夫ですか?うなされてたみたいですが?」

隣のベッドで妹が心配そうにこちらの様子を伺う。

「ちょっとイヤな夢を見ただけで…あっ」

アンゼはブリーフ三枚セットを見つけた。

……

捨てた。

「起こしてゴメン……おやすみ」

「おやすみなさい」


エミューナは翌朝、元気よく隣のベッドに声を掛けた。

「おはようございます!アンゼさ…、いない?」

彼女は枕元に手紙を発見した。

『先に出かけます。アンゼ』

その先には行き先と日程、集合場所の予定がみっちり書き込まれていて、更に『予定は未定ですので、何かあったらワーネイア・ウイニア国境まで移動しておいてください』と念の入りようだ。エミューナはそれを畳んでベルトに差し込み、宿を出た。クリウスが宿の外で待っていた。

「アンゼさんは?」

「今日は出かけるそうです。」

「えっ、弱ったなあ…、どこで落ち合うの?」

「ここです。三日後の夜に。」

「そんな…、まったくもう……」

「クリウス様?」

「何?様なんてつけないで。」

「(フキゲンですね…)はい。」

「行くよ。」


その頃、アンゼは風魔法を使って街道を飛んでいた。独りのときの移動手段としては馬よりも早いが、自分が時折休息しないと続かないのが難点だ。

「ワーネイアの城下まで急いで半日…行きたくないけど、しょうがないわね。書庫から行くか、革命党から行くか…」


「もうすぐだから、心のじゅんび、しっかりして…」

ワーネイアの屋根たる中央マルク山岳地帯とウイニア国境山脈の間に位置する西の関所の手前で、クリウスがエミューナに声を掛ける。

「やっぱり深呼吸ですかね。」

「それもいいかもしれない。スー、ハー、プッ」

「(プッて何?)何が、あるんですか?」

「きびしい、かなり。しんどいかもね?」

クリウスはアンゼには絶対見せないであろう不安そうな顔をエミューナに向けた。エミューナはそれでも、と彼に頷いた。

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