EPISODE 2
あいつがいなくなって数時間が経っているように感じた。
「足痺れたよぉ」
「まだ四十分も経ってないよ」
「兄さん時間がわかるの?」
この部屋には探したけれど時間の確認出来るものは見当たらなかった。天の国には時間なんてないのかもしれないけど。
それに仮にあったとして、兄さんには時計を見ることが出来ない。
「体感でわかるんだ」
「さすが兄さんだね。飽きてきちゃったし、なんか面白い話をしてよ」
「バクは俺よりも沢山読書をしているから、知っている話ばかりだと思うよ」
「じゃあなんか暇つぶしになることをしてよ」
そうだな、と顎に手を当てる兄さんの横顔を見上げる。
魔法陣なんて、正直超怪しいと思った。死神は僕らが用済みになって消すつもりなのかもしれないとも。
なのに、兄さんときたらどんどん魔法陣の方に行っちゃうんだもん。…けど、兄さんと一緒なら別に消えてもいいと思ったから僕も魔法陣に立ったんだ。
僕にとってたった一人の兄さんを一人で得体のしれない魔法陣に立たせるわけにはいかなかったし、それに、僕らはいつ死んでもおかしくないほどに重い罪を背負った存在だから、死を恐れることすらおこがましい。
「そうだ、天体観測はどうかな」
「天体観測?。でも星なんてどこにも…」
「大丈夫。死神様はいないね?」
兄さんは数万年ぶりの無邪気な笑顔を見せた。途端、辺り一面に星が浮かび上がった。
「わあっ、きれいだね」
「昔バクと図鑑で見たっきりだから、正確ない地とかは無視しちゃったところはあるけど」
僕らを囲むのは小さな天体。
「そんなの全然気にならないよ。凄いや、どうやったの?」
「俺とバクにはかろうじて同じ血が流れてる。俺が強く思い浮かべた物を、血液を介して共鳴させているんだ。小天体がそこにあるんじゃなくて、実際には幻覚だよ」
眼前に輝くこれが幻覚だっていい。なんて美しいんだろう。
「兄さん見て、あの星って…あ」
指をさしても、兄さんには見ることが出来ないのだ。
「同じものを思い浮かべているから、俺にもわかるよ」
「っ…なら、あの星の名前の由来についての話をしてよ」
「あの星の名前はギリシャ神話に基づいていて――」
足の痺れも忘れ、楽しい時間を過ごしていた。
壁が一面鏡なのも相まって、天体が広がって小さな宇宙にいるような幻想的な景色。
絶えず天体の話をしていたら、足元がじんわりと発光し始めた。
突然の変化に思わず息を呑む。
「どうしたバク」
「魔法陣が光り出した」
顔を上げると、鏡には僕と兄さんが写ってる。その姿にはっとした。
「僕らの姿が…」
信じられない。まさかそんな、そんなことがあっていいのか。
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