STUDY
EPISODE 1
突如星々が豪雨のように荒々しい音を立てながら魔法陣の上に落下した。
「こんなもので遊んでいたとはね」
「…申し訳ありません」
戻って来たあいつは小さな太陽を細い指先で潰すと、不敵な笑みを浮かべた。
「謝らなくていいよサミエドロ。足の痺れにしびれを切らせたバクが煩くなる方が迷惑この上ない。賢明な判断だよ」
あんたのためにやったんじゃないっつうの。兄さんは僕のために綺麗な星を見せてくれたのに…って、待てよ。
「あんたにも見えてたの?」
「サミエドロがお前に見せてる幻覚なんて、簡単に覗くことが出来るよ。血が繋がっていなくてもね。死神なんだから」
無造作に散らばった星々は兄さんの笑顔と共に消えていく。
「それより今の感想は?」
鏡に映る二つの黒い影。悪趣味な黒いレースのついた装束。
ここから導き出される答えは一つしかないでしょ。
「おめでとう、君たちは今日から死神の仲間入り」
「えっ…」
一番動揺していたのは兄さんだったけど、死神の後ろで白く発光している若そうなやつも驚いていた。
「君たちには一生僕の奴r…失礼、部下として働いてもらうよ」
死神は形状の少しだけ異なる鎌を兄さんと僕、それぞれに手渡した。
「喜ぶといい、鎌だ」
「重い…」
「命の重さだよ」
「それってどういう」
「まあまあ、そのうちわかるから。せっかちなのはよくないよ」
いつもならすんなり引き下がる兄さんだけど、今回ばかりは違った。
「なぜ俺たちを、貴方と同じ死神にしたのですか」
「気分だよ。飽きたらまた元に戻すかもしれない死、また別の何かになってもらうかもしれない」
矢継ぎ早な質問に半分嬉々として答える。きっと兄さんの困った顔を見て楽しんでるんだ。
「性格悪いのこれ以上ひきれかさなくてもわかってるって。で、僕たち何すればいいの?」
「面倒な仕事を君たちに分担する。その為にはまず見習いとして登竜門を突破してもらおうと思って」
あありの態度の悪さに一発ぶん殴ってやろうかと思ったけど、兄さんに制された。
「その登竜門の内容とは、どのようなものなのでしょうか」
「説明するのは僕じゃない。だからこの子を連れて来たんだよ」
白く発光した若者は恭しく頭を下げた。
「人間の神だ。仕事の出来る秀才君だよ」
「どうかお手柔らかに」
兄さんは彼よりも深く頭を下げたけど、こいつ。
「僕より年下じゃん」
見た目こそ十歳かそこらのあどけない風貌のまま時が止まっているけれど、僕はここ何万年も生きて来た。
この神の見た目は僕より年上だけど、僕ほど長く生きて来た感じは嗅ぎ取れない。
「ええ。この中で一番年が近いバクさんとも数千年の年齢差があります」
バクさん、なんかいい響き。
「登竜門はそうだな、考えておくよ。死神として知っておくべき神の知識とか仕事内容とかは任せたから」
そう言うと、死神は煙のように姿を消してしまった。
「自由なお方だ」
「人間の神さん、…とおよびしたらいいでしょうか」
「そんな、サミエドロさんこそそんなに遜らずに私のことなど「お前」や「貴様」などとお呼びになってくださって構わないのですよ?」
「いやそれは…」
謙遜合戦でも開戦したのかな。このままだと話が進まないからここは僕が――
「ならお前は星くん。さっき見てた星と同じで白く光ってるから。はい、決まり解決」
拍子抜けしたように、バクを見ていた人間の神はふっと表情を柔らかくした。
「ご自由にお呼びくださいませ」
「では星さん、俺たちは何を」
「まずは少々お勉強をしていただきます」
鏡張りの部屋を出ると、雲とも霧ともつかない浮遊物が漂う開けた場所に連れて来られた。
「そちらにおかけください」
彼の言葉を聞いて集まって来たかのような動きを見せる雲に、恐る恐る腰かける。
見た目とは違い意外と弾力性があって、軽く腰が沈んで座り心地がいい。
さすが死神や神の
「まず初めに我々神についてお話したいと思います」
「神について、ですか」
兄さんが話に前のめりになる。
「神には大きく分けて二つ、死神とその他の神に分類されます。前提として、後者は生まれた時から神なのではありません。下界から死神によって選抜されます」
「選抜?」
「ええ」
「最初はみんな人間あるいは地球に住む生き物ということでしょうか」
星くんは微苦笑して続ける。
「それをお話ししなければなりませんね」
星くんと命名された彼は、眉をハの字にして説明を始めた。
サミエドロとバクがかつて生きていた地球の他にも、この世界にはいくつかの地球が存在していると彼は言った。地球にも階級が定められていて、
「貴方がたの知っている地球は、源星から最も遠い場所に位置しているので、階級は低く選抜大層にはなりません」
地球が何個もあるなんて馬鹿みたいな話と思ったけど、宇宙は広い。地球が一つと断定することは出来ないのかもしれない。
「では階級の高い地球から選抜してるということですね」
「概ねは。ですが死神様のご気分で地球以外の星から選抜することも多々あります。実際、私は神になるまで地球の存在を知りませんでした」
宇宙には沢山の星がありますからね、と興味深そうに相槌を打つサミエドロ。
二人の間でどんどん難しい話が進んで行き、一人全く話についていけていなかったバクが喚き出す。
「わーかーんーなーいぃ。地球が沢山?、他の星?、急にそんなことしれっと説明されても何が何だかさっぱりだよ」
星くんは目を瞠ると頭を下げた。
「すみません。この世界の在り方から説明しなけれないけませんでしたね」
すると懐から一つの絵巻を取り出し、丁寧に広げた。
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