EPISODE 4
「お取込み中のところ水を差すようで悪いけど、ついたよ」
そこは黒く淀んだ光も、天国のような眩い光もない場所だった。地は砂漠の様だけど、死神曰くこれは砂ではなく全部生き物の骨粉らしい。
「バク、何が見える?」
「何もないよ。本当に何も」
「ここは地獄の最果てにある空間。ここを自由に使っていいよ」
「どういうことですか?」
死神は鎌をくるくると回しながらつまらなさそうに答えた。
「バクには僕が直々に必要な罰を下した。そのバクが生まれたのはサミエドロのせだから、君にもそれ相応の罰を与えた」
「俺は人を殺めています。その分の罰はまだ…」
「罰は乞う物じゃないよサミエドロ。その剣について罰は下さない。一生かけて悔み続けることこそ、君にとっては一番きついものだろうからね」
納得したサミエドロとは反対に、バクは死神に食い下がる。
「待ってよ。兄さんが殺したのは悪い奴らだよ?。別にそんなに後悔しなくってもよくない?」
「その答えは君の口から説明できるね?」
兄さんは僕の両肩に手を置いた。
「どんなに相手が悪党でも、命を奪うことは罪だ。それにその人達が死んで悲しむ家族がいる」
「ま、前者には賛同するよ。死神以外の存在が命を奪うなんて頭が高い。でも、サミエドロが生まれたのは人間のせいだから君に罪はない。悪いのは神という立場に胡坐をかき監視を怠った人間の神さ」
鎌を担ぐと死神は不敵に笑った。
「あいつは今頃消滅するとも知らず、他の神を見下しているよ」
使えなかったり問題を起こしたりする神は即消滅、とあいつは笑った。その鎌で神の命も取っちゃうのかな。
「僕は優しいから生かしてやっていた方ふぁと思うんだけど」
去ろうとする死神を呼び止める。
「結局僕たちはどうなったの?」
死神はゆっくりと振り返ると、静かに答えた。
「…死なない代わりに生まれ変わることもない。神によって創造されなかった想定外の二つの命は、ここで永遠に生きるんだ」
てっきりここが墓場になるものだと思っていたから驚いた。それは兄さんも一緒だったみたい。僕らの反応を見て、あいつは面白がっているように見えた。
「あんたからしたら、今後僕たちが何をしでかすかわからないわけじゃん。だったら今ここで消滅させちゃえばいいのにと思って」
僕なら危険因子は早めに摘み取る。
「それじゃあ君たちがあまりにも不憫だろう?」
さも同情するような声音で、心のこもていない言葉を並べた。だけどその横で兄さんは合点がいったように声を漏らした。
「俺たちを生かしておけば何かあった時に役に立ちますからね。貴方にとって俺たちの出来の良さは想定外だったんでしょう」
半分当たり、と適当に相槌を打つ死神。
「いつでも貴方のお力になります」
「こんな奴に忠誠誓っちゃだめだよ」
「だそうだよ?。サミエドロ」
兄さんは穏やかな表情で話しを続けた。
「こんな俺を活かしてくれているだけでなく、もう一度バクと生きる機会を与えてくれた。貴方には感謝してもしきれませんから」
あいつは失笑しながら近づいて来た。
「どうとでも思えばいいさ。だけど忠告だけしておくね。僕はサミエドロのように感化されない死、特段優しいわけでもない」
まるで自分のコレクションでも愛でるかのような眼差しで兄さんのことをじっと見据える。
「必要であれば君を明日消滅させるかもしれないし、もっと残酷な頼み事をするかもしれないよ?」
「それでも構いません」
あいつはため息を吐きながらも、どこか嬉しそうに微笑んでいた。
「哀れだな。どうなっても知らないよ」
気がつけばあいつはもう姿を消していた。
「残酷な頼み事が僕を殺せ、だったらどうするつもりだったわけ?。勝手に二人で話進めちゃってさ」
様子を窺いながらだけど、ちょっと強めに言葉をぶつけてみる。
「勿論その可能性を一番に考えたよ。その時は俺が死のうと思って…」
そっか、と素っ気なく答えてしまったけど、死神に忠誠を誓ってても一番大事なのは弟である自分なんだと嬉しくなる。
「これからは」
兄さんがこちらを向いて笑った。
「今みたいに何でも言ってほしい。俺も思ったことはなるべく言うようにするから」
今までお互いに何も言わなかったおとですれ違ってたこと、兄さんなりに気にしてたんだ。
僕は頷いて、兄さんに問う。
「これからどうする?」
「二人でゆっくり暮らそうよ。昔みたいに」
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