EPISODE 3

「そ、そうですか。私そんなに子どもっぽいかなぁ」



そんな顔をしないで。

 ピオニーのこれからの人生のためにもこうするしかなかった。

このまま自分から遠ざけて…



「兄さん僕に内緒で誰と会ってるのさ」



足音のした先に目を向けると、バクが近くの木にもたれかかり息切れしていた。

近づいて来ていたことに全く気がつかなかった。



「バク、顔色が悪いよ。昼の薬を飲まなかっただろう」


「あれ美味しくないもん」


「薬は味わうためのものじゃない。症状をよくするためのものだよ」


「それに個数が足りなくて兄さんのこと探し回ってるのに見つからないし」


「…ごめん」



木を離れおぼつかない足取りでこちらへ来ようとするバクに歩み寄ると、背中から声がする。



「弟さんですか?」


「うん」



 バクがピオニーと会ってしまうのは想定外だったし、恐れていたことだった。

 しかし、よく考えてみればこれは好都合かもしれない。

これを機にこのまま自分はバクにそうするようにピオニーにも兄のように接し、彼女への気持ちをしまい込む。バクは歳の近いの友達が出来て、誰にも言わないという秘密を守ってくれているから自分たちのことを他の人間に知られることもない。

 悪いことなんてなかった。



「大丈夫?」


「だめかも」


「えっ…」


「嘘だよ」



不謹慎な冗談はやめろと叱ると、ちょっとからかっただけじゃんとバクは口を尖らせた。



「僕はバク。君は?」


「ピオニー」


「かわいい名前、いい名前だね」


「ありがとう」


「兄さんいつから僕に黙ってたのさ」



自分に言い聞かせるための言い訳を、バクにそのまま話すことは出来なかった。



「ごめんね」



ピオニーと会ったらきっとバクなら長時間話したあるし、それがバクの負担になることは事実だ。

だけど、俺に彼女と会っていたことを隠したい気持ちがあった以上、そんな言い訳をしたらそれは嘘になってしまうから。

バクは押し黙る俺を笑顔で見上げた。



「ピオニーと会ったら僕が無理をすると思ったんだね。大丈夫、無理はしないよ。約束するからピオニーとまた会わせて」



一瞬冷ややかな目で見られていた気がしたけれど、気のせいだったかな。



「わかったよ。だから今日はもう部屋へ戻るんだ。ちゃんと薬も用意するから」


「はーい」



バクは小説に出て来る〝友人〟というものを随分と前から欲しがっていた。だからピオニーと友人になれたことをとても喜んでいた。

 ピオニーと会うようになってバクはより明るくなった気がする。

得意の花輪の作り方を彼女に教えてあげているのを見たし、部屋では小説ではなく彼女の話を聞きたがった。

どんなところに住んでいるのか、自分以外にはどんな友達がいるのか、とにかく自分の知らない世界を知ろうとしていた。

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