1年 第1学期 2週目

 

 (ゲームみたいに自動翻訳して欲しい)


 授業中……私が切実に思った事だった。


 まず会計学、老師Lǎoshīが「初級Chūjí會計kuàijìはやっている人が多いから中級Zhōngjí會計kuàijìから始めるね」と先週言ったのだ。クラスでもブーイングが起こったのは言うまでもない。

 簡単に言うと、初級Chūjí會計kuàijìは会計の基礎。中級Zhōngjí會計kuàijìは会計の専門的な分野。


  商業系の高校を卒業していれば基礎は習って入るが、大学から初めて習う人からしたらたまったもんじゃない……しかし抗議の声は老師Lǎoshīから見て少数だったらしく中級Zhōngjí會計kuàijìからになった。

 私は商業高校出身だけど、日本の簿記しか知らない。簿記科目がそもそも違う書き方なので、一から照らし合わせるところから始まる。


 例えば 

 資本金→股本Gǔběn

 買掛金(商品を仕入れた時に後日支払い約束をした取引の事)→應付Yìngfù帳款zhàng kuǎn

 売掛金(商品を売り上げた際に相手方が後日支払う約束をした取引の事)→應收Yīng shōu帳款zhàng kuǎn


 この様に違いがある。先週分かる範囲で調べたが、まだまだ覚えるに至っていない。書き方も国によって多少なりとも差があるので、全部一から覚える必要がある。しかもこういった分野の内容はこれまたかなりの専門的な言い回しが多いので、中国語2歳児の私が現実逃避をしたくなるのも察していただけるだろうか……


 微積分に至っては教科書は原文だから英語で、授業は中国語で行っているが、私は高校で数学のⅠ・Aしか習ったことがないので、そもそも微積分の微の字も触っていない、まず高校数学をパソコンで探して勉強することが一番の課題になった。


 やらなくてはいけないリストがどんどん増えてくる。


 〈やることリスト!〉

 ・会計 項目の内容と書き方の流れを覚える!

 ・微積分 高校数学から勉強 教科書の大まかな和訳(なんで英語)

 ・経済学 専門用語を日本語で調べる!

 ・商事法・企業概論 日本と違うとこがあるから分からない単語を調べる あとはひたすら暗記

 ・英語 教科書の和訳→中訳両方(死ぬ)

 ・国語 授業でやる内容の和訳を探す。中訳は授業の板書 中古文→中訳→日訳(死ぬ)

 ・クラスのみんなと話せるようになる!

 ・中国語覚える!


(やばい時間が足りない。とりあえず、下の2項目から)


 休み時間、私はまず私が座っている場所から2席後ろにいるグループの所へ行く。


同學Tóngxué我想wǒ xiǎng要跟yào gēn你們nǐmen説話shuōhuà,泰文tàiwén聽不懂tīngbùdǒng,請你qǐng nǐjiǎng中文zhōngwén……【みんなとお話ししたいんだけど、私タイ語が分からないから中国語で話して】」


 そう私が声を掛けたのは同じクラスのタイ人3人だ。初日に休んでいた子は2日間だけ来てまた休んでいるので、今日もいないのである。同じ海外から来たメンバー仲良くしたいんだけど、同じ国の子がいるとついつい母国語で話してしまうので、クラスの子たちも遠巻きに見ているだけだったのだ。その点私はクラスで一人の日本人ましてや友達は今から作るのだ。目指せ友達100人!このクラスだけで50人いるので、夢じゃない!

 私が意を決して、ねぇねぇと話しかけると向こうも笑いながらごめんごめんと謝った。

 話をすると二人はタイで中国語を勉強していたらしい。ただし簡体字なので繁体字が難しいって言ってた。

 あと学校が厳しいって、全部に点呼ってどういう事?ってそれは私も思ったけど……

 外国人4人がワイワイ話していると、みんな寄ってくる。


我也Wǒ yě可以kěyǐ跟你們gēn nǐmen聊天嗎liáotiānma?【僕も君たちに混ぜてもらっていい?】」


 今学期私たちのクラスの副班長になった男の子だ。

 そこから授業が分からないとか半分愚痴と気になることの質問とかをした。もちろんお話ししたメンバーの名前を聞いたからね。名前みんな同じに聞こえるって言ったら笑ってたよ。


 私がもう1つしたことと言えば、授業中老師Lǎoshīの板書が達筆過ぎて、どう書くのか分からない文字が出てきたのだ。私は勇気をもって手を挙げた。


老師Lǎoshī【教授】」

怎麼了Zěnmele日本Rìběn同學tóngxué【どうしたの?】」

看不懂kànbùdǒngcóng左邊zuǒbiān第三個dì sān gè的下面dexiàmiàn第二個dì èr gè的字de zì是怎麼shìzěnme寫呢xiě ne?【左から3個目の下2個目の書き方が分かりません】」

Shì這一個zhèyīgèma?【この字ですか?】」

對對Duì duì【それです】」


 老師Lǎoshīは私の言葉を頼りに黒板の字を指し示す。私は大きくうなずいた。

 他の文字の読み方が分からないので、何個目と言ったのだが、それが面白かったのかクラスの人たちが笑っていた。


我幫你Wǒbāngnǐ寫大xiě dà一點yīdiǎn我們Wǒmenyǒu海外的hǎiwài de同學tóngxué,老師Lǎoshī也要yě yào字要寫zìyàoxiě漂亮piàoliang一點yīdiǎn才行cái xíng【じゃぁ大きめに書くね。海外からの生徒もいるから、先生も字を奇麗に書かないとね】」

謝謝Xièxiè老師Lǎoshī【有難うございます】」

如果Rúguǒ其他qítā還有hái yǒu的話de huà要講喔yàojiǎngō!【もし他にも読めないものがあれば言ってね】」


 私は他の教科でも同じような質問をしていたり、分からない単語が出た時に隣の子に質問したりした。

 たまに私の質問をどう説明するのか老師Lǎoshīも含めて考えたりと、授業の進行を止めるのは申し訳なかったが、私が真面目に聞いているので、みんな一生懸命説明してくれる。とても有難いと思った。


 授業の時に小さなメモが回ってきた。私宛らしい


天野Tiānyě同學tóngxué,你有nǐ yǒuFBma?【天野さん、Facebookある?】」


 臺灣でFacebookの事をFBと略していう。日本ではまだTwitterの方が主流だった時だったので、臺灣に来てから作ったアカウント名を書いて、その子にメモを返した。

 後々このFacebookに、クラスのグループが作られ、学校の連絡事項等はここに書かれるようになった。グループ報告も他にグループ作って、学校以外ではここでやり取りをする。なので、朝と夜寝る前に確実に1回は確認することが日課になった。


 休み時間夏の間から仲良くなった友人、夢玲Mèng líng


「repeat after me……Gà「A ~~你在nǐ zài教什麼jiàoshénme天野Tiānyě,不要學bùyàoxué這是zhè shì髒話zānghuà不好聽bùhǎotīngde【あ~何教えようとしているの!天野、これは汚い言葉なの、良くないことだから覚えなくていい】」


 そう英語でいう「F〇〇K!」とかそのあたりの意味合いを持つ言葉をまぁ面白がって教えたがるという……それを周りが止めるという構図が、何度も繰り返されているのだ。

 だが悲しいかなそういった言葉に限り、発音しやすかったりするのだ。しかも結構な頻度で使っている子がいるので、他の中国語より先に自然と覚えてしまったのだ。会話の内容からなんとなく区別がつくので、自分は言わないように覚えるのであった。


 それに加えて、中国語は英語と同じで動詞が先に来る。

 例えば

  「我去Wǒ qù學校xuéxiào」を直訳すると「私行く学校」になる。

 無意識に話すとつい日本語の「私は学校に行く」みたいに「學校xuéxiào」って言ってしまう。

 そしてそのたびに大爆笑されるので、慣れてくると私は、ムスッとした顔を隠さず、正しい言い方を教えてっと笑う子たちに聞くのだ。

 勉強中なのだから間違っても仕方がないのだ。ただ人によっては笑われるととても傷つくので、頑張っている人を笑うのはやめよう。自分がされたら悲しいしね。


 昼休み先輩が教室に入って来たかと思うと、水曜日の夜に歓迎会でクラブに行くという。いわば飲み会だ。

 誘われたのだが、「日本でお酒は20歳になってからだから行かない」と断ると「臺灣は18歳から飲めるよ」と返ってくる。「私キリスト教で、私の教会ではそういったのはダメだから」ともう1つの理由を出して断った。嘘は言ってない。18歳から飲めるなら飲めばいいのにって思うでしょ?けどここは言葉の通じない海外で、私を護れるのは私だけ。酒は飲んでも飲まれるな。知り合いの大人が飲みすぎて潰れているのを見たことがあるのだ。自分の限界を知らないならなおさら行くべきではないし。何かあっても自己責任である。家族にも心配かけるのだ。

 結局クラブでは、飲みすぎて潰れた子。吐いた子。泣き上戸に怒り上戸などなど――

 中々の地獄絵図だったらしい。お酒は飲まなかったが雰囲気だけ見に行った子が言っていた。行かなくて正解だよと……


 私が今の所授業で唯一楽しいのが体育だ!

 だって言葉要らないんだもん。初めはバレーボールからだった。

 私の学校ではバレーボールは屋外。学校の中庭にバレーボールとバスケットボールのコートがある。

 外暑いんだけどね。あと学校の規定で体育の時はクラスTシャツを着てないといけない。このクラスTシャツが3週間後に届いたのだが、ライトブルーなのだ。しかもものすごく濃い。私の学科が青色を学科の色にしているんだけど、青は青でもなぜこの色にしたと私は心から思った。

 臺灣は原色カラーや派手な色合いを好む……臺灣なら違和感ないんだよ。日本じゃめちゃめちゃ目立つとだけ言っておこう。うん……


 あと体育は、日本で運動苦手な子でも臺灣では英雄になれる。

 臺灣は小中高ともちろん体育の授業はあるが、そこまで力を入れていない。何なら他の教科の先生がテストしたいから体育の時間をテストに変更することも多々あるのだ。ここも国にって違うんだなぁと思ったところだ。

 自分たちで、遊びで身体を動かしたりする人や体育専門の学校に行っている人もいるから運動神経抜群な人も勿論いるけれども、普通の文系の大学の体育は基礎が出来ればそれでいいのだ。基礎は日本で嫌でもやっているのだから自然と出来る。すると周りから「教えて!」と言われたりする。私は、球技はそこまで得意ではなかったが、クラスでは出来る方に入れられてしまった。



 夏の1ヶ月と2週間を過ごして分かったことがもう1つ、これは海外あるあるだが、海外は曖昧な言い回しを好まない。言いたいことがあるならはっきり言えである。自分の意思や意見はしっかりと言葉にしなければ伝わらないし、日本みたいに雰囲気で察しては勿論分かってもらえない。だから海外の人に良く言われるのは、日本人って何考えてるのか分からないである。同じ日本人でも分からないのだから海外の人からすればもっと分からないだろうなとは思う。

 日本の曖昧な表現は一種の美徳だけれども海外の人と接するときは、もっと意見を言おう。でないと言いくるめれば、従うと思われていることも事実なのだ。特に政府とかね~臺灣のニュースとか見ていると結構如実に分かる。どこの国だって自分の国を悪く言う内容の報道はあまりしないけれど、海外ではここが駄目だとかここが良かったとか結構正直に報道されている。まぁたまにあることない事言っている時もあるので、そこは両方見つつである……自分の国の欠点を見直すためにも海外のニュースは見た方が良いんだなと思った。臺灣の場合全部に中国語字幕が付いているので、他の国のニュースを見ることも出来る。日本の最新のニュースは日本の物を見た方が早いけどね。



 気が付けば2週間なんて私があたふたしている間に終わった――




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