1年 第1学期 3週目

 


 月曜日の午後、ピシリと制服を着た女性が教卓に立っていた。


企業Qǐyè管理系guǎnlǐ xì一級的yījí de同學tóngxuémen ,大家好dàjiāhǎo!【企業管理科1年の皆さんこんにちは】」

教官Jiàoguānhǎo!【こんにちは、教官】」


 そう教官だ。


 臺灣の高校や大学には必ずいる教官。軍から派遣されている本物の軍人である。

 学校になんで軍事がいるのか――

 その歴史は長く、簡単に説明すると、日本が戦争に負け臺灣から撤退した後、中華民國が臺灣を支配し始めた、制限されているものが多く、日本統治時代より扱いも治安も悪くなったらしい。その最中、闇タバコを販売していた本省人女性に対し、取締の役人が暴行を加える事件が起きた。これがきっかけで、民衆の中華民國への怒りが爆発し、市庁舎へ抗議のデモが起きたのだが、そのデモ隊に憲兵隊が屋上から銃弾を浴びせ多くの市民が死傷する「二・二八Èrèrbā事件shìjiàn」が起きた。

 そこから蒋介石率いる国民政府(後の中國國民黨(國民黨【国民党】って普段は呼ばれている))の弾圧が始まり、戒厳令がしかれ、日本統治時代に高等教育を受けた役人とか医者のエリート集団が、逮捕や投獄そして拷問されて沢山の人が殺害されたり、臺灣人同士に密告を推奨し互いの事を疑心暗鬼にさせたりする恐ろしい時代の事を「白色テロ」って呼ばれてる。当時の臺灣人に日本語や臺灣語を禁止され、軍事が学校に駐在し、学生に対して軍事訓練や思想教育を行なったのが教官が、学校にいる始まりなんだって、監視役ってことだね。このニ・ニ八事件や白色テロの悲惨な歴史を忘れないために、紀念館に当時の資料が残っている。臺灣では二・二八事件が起きた2月28日を和平Hépíng紀念日jìniànrì【平和記念日】として祝日にしている。


 因みにこの時代の学生は、男子はみんな坊主頭で、女子は耳から2cm上のボブカットだったらしい(雰囲気は、サザエさんのわかめちゃんより短め)



 戒厳令が解除された後は、学生や校舎内の安全を守るのと、臺灣は今でも男性には徴兵制があって、軍訓課Jūnxùnkè【軍事教育】(男子のみ)の授業を行うためにいる。海外から来た女性の私には直接的に関係はあまり無いんだけど、学校内で見かけたら「教官Jiàoguānhǎo!」って挨拶はきちんとしないといけない。相手は軍人さんだからね。


 何故今教官が来ているのかと言うと、災害時の避難場所についての説明のためだった。これがね……

 地震などの災害が学校にいる時に起きた場合、最終的な集合場所が「中正Zhōngzhèng紀念堂jìniàntáng」って言われたのよ。この場所自体は広いから問題ない。ただね私達の学校から歩いて11〜12分はかかる。問題なのがそこまでいく道のりが、普通の道だって事。


(そこに向かうまでに、怪我とかしそう下手したら死ぬよ)


 私は心の中で盛大に突っ込みを入れていた。

 仮に地震だったら道脇に止めてあるバイクが倒れてたり、店の看板とかなんなら室外機落ちて来たら、怪我で終わらない。下手したら死ぬじゃん!他にないの避難場所!!である。めちゃめちゃ突っ込みたいんだが……

 クラスのみんなは、普通に話聞いてるだけだし……


 異世界で異国人が突っ込むのもなんかなぁって、結局私のモヤモヤは、後日お姉さんに全て話してスッキリしました。お姉さんには、その時の私の顔が見たかったと笑われたけど、多分すごい顔してたよ。


中正Zhōngzhèng紀念堂jìniàntáng」は蒋介石を追悼するために建てられたんだって、因みに「國立Guólì國父guófù紀念館jìniànguǎn」は国父である孫文の生誕100年を記念して建設されたもの。この2つと「忠烈祠Zhōngliècí」には、日本の旅行雑誌にも良く取り上げられる。衛兵の交代式が見られる。この衛兵になるのにも条件があって、身長は最低でも178cm以上とそれに見合う体重がいる。6キロする銃を持ったり投げたりするからそれなりの身体が必要ってこと。

 後よく見かける台座に立ってる衛兵と記念撮影する観光客が、よろけて衛兵に当たったり、台座に触れたりして、ドン!と台座に銃を打ち付けられている人、「ビックリしたー」って言ってるけど悪いのはあなたです。記念に写真を撮りたいのは分かるけれどあちらは、40分間動かずに立つことが仕事なのだ。写真を撮るときは10cmくらい間を開けるとか、斜め前に立つとかして、よろけても台座に触れないように配慮してあげるのがマナーだと思う。



 ここ最近の私はもう1つ悩みがある。それは食事だ。

 私の大学があるのが、善導寺駅ここには、日本の雑誌やテレビでも取り上げられた。華山Huàshān市場shìchǎngの2階に阜杭Fù háng豆漿dòujiāngっていう朝ごはんの店がある。しかしながらちょっと未来の話まですると私は大学にいる間一度も食べずに終わった。

 何故なのか、朝の7:30に駅に着いたときにはもう行列出来てるんだもん。回転率は速いって聞いたけど、並んでいたら授業に間に合わなくなるから行かなかった……

 善導寺駅の周辺はオフィスや学校、政府機関もあるので、美味しいご飯屋さんが沢山ある。

 じゃぁ何に悩むのか、漢字の発音が分からないから注文が出来ないのだ。


 大学の地下に縦に細長い学生食堂があるんだけど、左からドリンクスタンド、朝ごはんの店、麺類の店、韓国風海苔巻き(キンパ)の店、自助餐Zìzhùcān【セルフ式食堂】、コンビニ、滷味Lǔwèi【臺灣式おでん】の店があるんだけどね。


 牛肉Niúròu【牛肉】、豬肉zhūròu【豚肉】、雞肉jīròu【鶏肉】とか、湯麵tāngmiàn【汁有りの麺】と乾麵gān miàn【汁なし麺】とかメニューは何となく分かるのよ。問題は発音出来ないから注文出来ないである。セットメニューに番号振ってくれている朝ごはんのお店とかファーストフード店は番号言えば注文できるので大変有難いのだが、普通のお店には基本番号なんて書いてない。注文の紙が置いてあるときは食べたいものにチェックマークを入れればいいのだが、ない時は本当につらい。近くに友達とかいれば頼めるが、一人の時は心の中で泣くしかないのだ。

 今のとこ練習したのが、「肉燥Ròu zào乾麵gān miàn【肉そぼろ乾麺】」だ。日本で臺灣肉そぼろで、出してる店多いけど、実際は豚バラ肉を細かく切ったものを醤油で煮込んだもの(魯肉飯Lǔròu fànに乗ってるお肉よりもう少し細かいかな)と小松菜が入っているだけのシンプルな乾麺。醤油の甘いたれがとても美味しい。因みにこれは辛くないよ。そもそも私は辛いものが苦手です。臺灣の料理は辛いってイメージあるけど、勿論唐辛子とかが入っているやつとかあるけれど、基本的には胡椒辣Hújiāo là【胡椒が辛い】のである。ビックリするくらい胡椒って思ったものがある。

 あと臺灣に来て思ったのが、麺料理が多いのと麺が白い、日本でいううどんとかきしめんの間くらいの太さの麺をよく見る。もちろん他の麺もあるよ!

 同じメニューでも店によって少しづつ味付けが違うから食べ比べるのも楽しい。


 ここ3週間のお昼ご飯、朝ごはんの店かこの麺を交互に食べていた。

 味に飽きたら黒酢を足せばまた味が変わるんだよ。この黒酢も甘酸っぱい味がする。

 そしてここ数日よく言われるのが「見かけによらずすごい食べるね」である。私が今食べている乾麺実は大盛なのだ。学食の肉燥Ròu zào乾麵gān miànは35元、大盛は45元。


 臺灣の通貨は、臺灣元Táiwānyuán【臺灣ドル】 「yuán」って言うが、紙幣や硬貨には「Yuán」と書かれている。

 硬貨は、1元、5元、10元、20元、50元なのだが、20元はあまり見ない

 紙幣は、100元、200元、500元、1000元、2000元で、こちらも200元と2000元はあまり見ない

 その時のレートに寄るけれど、1元が日本円では3円~4円の間くらい。


 普通にご飯食べる分なら50元以内。100元過ぎるとまぁまぁなお値段になる。

 臺灣の1000元は、日本の1万円みたいに結構な大金である。

 学生の私にとって抑えられるところは押さえたい、安くて量が多いなら願ったりかなったりである。


 お腹がいっぱいになるのってとても大事なことなんだよ。


 大学始まった当初は、緊張とかで食が細くなっていたんだけど、授業が始まれば、朝ごはん食べているのに、1時間もすればお腹がすく、自分が思った以上に頭を使っているらしい。


「その体のどこに吸収されているのやら」夢玲Mèng língがここ数日私に言うセリフだ。

 ある日は、朝ごはんの店でハンバーガーにホットドッグのセットを頼んで食べていたら。クラスの子に驚かれたくらいだからね。パン一個じゃ午後を生きていける気がしないんだから仕方がないのだ。


 その証拠に――

 私は週に一度、日本にいる家族とSkypeで会話をする。国際電話は高いし、Skype同士だとお金が掛からないからね。


「和音大学どう?ご飯は……心配しなくても食べてると思うけど……」

「ご飯食べてるか心配してよ」

「あんたご飯だけはちゃんと食べるでしょ?」


 家族にまで言われる私って――


「最近ね。クラスメイトの子に胃袋ブラックホールって言われたよ」

「お姉ちゃんそれ女子としてどうなの?」

「その子があんまり食べない子やから私が異常みたいに言われてもなぁ……」

「クラスには馴染めてるみたいね?」

「授業には全然ついていけてないけどね……もう意味が全然分からん」


 私の近況報告という名の弱音大会。疲れた、しんどい、嫌だとかは家族になら気兼ねなく言える。

 言って気持ちをリセットさせるにも丁度いいしね。「あんまり根を詰め過ぎたらあかんよ」母親にはそう言われてしまった。


 電話が終われば、また予習復習に戻るのだ。


 3週目までは1年生の初めだからなのかゆったりめだったらしい……


 4週目から地獄の報告スケジュールが始まってしまった――



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