第5話 十月二十三日は家族写真の日(伊藤家シリーズ)

 一般社団法人・日本おひるねアート協会が制定。

 撮(十)ろうファミリー(二十三)の語呂合わせが由来。



 土曜日の夜。今日は珍しく高校生の長男と中学生の次男が家にいて、家族四人でテーブルを囲み夕食を食べている。


「そう言えば、明日は家族写真の日なんだって。最近はこんなものまで記念日になってるんだな」


 俺はネットで読んだ明日の記念日の話題を、隣に座る妻に話した。


「家族写真の日って、今時そんなの撮る人いるの?」


 俺の前に座る長男が少し馬鹿にしたように言う。


「子供が小さいうちは良いんじゃないの。さすがに高校生以上の子供が居て家族写真は無いと思うけどね」


 次男も長男に同調したように言う。


「いや、良いんじゃない。子供が大きくても家族写真……。

 そうだ! 私たちも撮ろうよ。せっかく家族写真の日なんだし明日撮ろう!」


 俺たちの会話を黙って聞いていた妻が、急に目を輝かせて声を上げる。


「ええっ……」


 俺たち男三人は嫌そうな声を漏らした。


「家族写真ならリビングに何枚も飾ってあるだろ」


 長男が言っているのは、家族で行ったボーリングで、イベントに成功して撮って貰った写真のことだ。イベント発生の時間にストライクを取れば、記念品とグループの写真を撮ってくれる。子供たちはなぜかそのイベントに強くて、何度もストライクを成功させ、写真を撮って貰っていた。


「あんなイベントのついでで撮ったのは駄目よ。それに最近は撮ってないし、明日撮るよ」

「あっ、俺、明日は用事があるし」


 逃げ腰な次男が、妻に言う。


「あっ、俺も」


 長男も次男に乗っかる。


「朝撮れば良いじゃない。明日は早く起こしてあげるよ。みんなで朝食を食べてからね」

「ええっ……」


 俺たち三人はまた嫌そうな声を漏らす。明日は休みでゆっくり寝ていたかったのに。


 家は三対一位で人数的には男性が優位だが、実権は女性の妻が握っている。最終的には妻の決定に逆らえる者はいないのだ。



 次の日、俺たち三人は朝早くに起こされ、朝食を食べた後、玄関前に集合した。

 長男も次男も嫌がっていた割には、ちゃんと髪を整え、余所行きの服を着ている。かく言う俺も妻の指示で部屋着からお出かけ用の服に着替えさせられていた。


「はい、みんな並んで。お母さんの横にはお父さんが立つから、ちゃんと空けておいてくれよ」


 写真を撮ると言ってもスマホしかないので、脚立を持ち出して固定した。


「一、二、三、スタート」


 俺はセルフタイマーをスタートさせ、妻の横に並ぶ。

 数秒後にタイムアップし、無事家族写真が撮れた。


「じゃあ、みんなに送るぞ」


 俺は撮った写真を、ラインでみんなに送る。


「へえ、結構綺麗に撮れてるな」

「まあ、たまには家族写真も良いかもね」


 文句を言っていた長男と次男も嬉しそうに写真を見ている。

 写真の中の家族は現実と同じように仲良く見える。それがとても誇らしかった。


「じゃあみんな、この写真を待ち受け画面にしてね」

「ええっ……」


 妻の言葉に、またもや俺たちは嫌そうな声を漏らす。


 でも、文句を言いながらも、みんな妻の言う通り待ち受け画面にするのだろう。だってそれが、我が家族だから。

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