18.今なんと?③


「カルミーユ君。大丈夫かい?」


 静かに揺れる馬車の中、カルミーユは苦笑しつつ心配そうな顔をしているカマドに答えた。

 

「本音を言えばまだ驚いています。実感が湧かなくて……」

「決まっただけだからねぇ〜これから顔合わせとか始まれば変わってくると思うよ」


 しみじみと言ったカマドに、カルミーユも小さく頷いた。


 結論だけを言えば、陛下の影になるこもだけでは終わらなかった――



 ***

 


 壁際に控えていた近衛も総動員して調べる事半刻――


「ダル……今年武器の申請はしとらんぞ」

「確かに、軍部からの申請書には入っていないな」

「宰相様。各部署の申請品目と実際の予算申請が合っていません」


 王宮内では物を申請する際、各部署が必要な物を書き出し、それを物流課に申請する。物流課は国の物流の流れを管理したり王宮全体の在庫も管理している。彼等が申請された物から在庫を確認し足りない物を財務部へと申告、財務部は予算を計上し購入の許可を物流課に出す仕組みを取っている。これは税の大部分を国の復興に割り当てたいので、無駄な購入物を減らす為に管理体制を分けた為である。


「物流課か……」


 シオンは呟くと膝を軽く2度叩く、すると何処から入ったのか音もなくシオンの前に2人現れる。


「「お呼びでしょうか?」」

「物流課の横領が無いか洗ってくれ」

「しばしお待ちを――」


 カルミーユが2人が居なくなった場所を見つめているので、カマドが扉を指し示す。部屋を出たという事らしい。


「今の2人は王宮に居る影だよ。あの2人は武にも秀でているから普段から気配を消して陛下の近くに居るんだ」

「そうだったのですね」

「影の中にも色々別れていてね。私や君もだけど情報を得る事が主だ。彼らは暗部寄り――いざという時は、陛下を守るのも役目の1つなんだ」


「内密の話を……」と言われ近衛を側から外されることもある。そこで命を狙われたり――と戦時中は日常茶飯事だったらしい。影として情報を探るのに気配を消す事に長けた者が静かに側に控え王を守っていたそうだ。


「まぁヒイラギが居る時は、影も情報を集める事だけに集中しているがな」


 シオンの言葉にカルミーユがヒイラギを見れば、困ったような顔をした。


「此奴が本気で気配を消したら気づく者は居らん」

ですか?」


 首を傾げるカルミーユに、横に居たローダンがケイジュを手のひらで示し

 

「隊長が規格外ですので……」

「それで納得しても大丈夫なのでしょうか?」

「近衛はそれで受け入れました」

「いや……鍛えれば誰でも……」


 至極真面目な顔をしてケイジュが言えば、近衛が一斉にケイジュを見る。

 

「隊長それは無理だと何度も言いました。自身が人の理から外れた存在だと自覚を持って下さい!」

「「「そうだ!そうだ!」」」

「私は人だと言っとるだろうが!」


 何故か子供みたいな言い合いが始まり、どうしたものかと眺めていると、隣で他の申告書を確認していたカマドが若干呆れたように言った。

 

「カルミーユ君あの人達は放っておいて良いよ。いつもの事だから」

「仲が良いですわね」

「近衛の人達はね。他の騎士達はここまで仲良くないよ。権力振りかざして裏でいびったりしてるみたいだし」


 カルミーユは目を瞬いてカマドを見上げる。

 

「そういった内容も入ってくるのですか?」

「力関係のバランスを知っておいた方が、情報や噂の真偽を見極めるのに役立つからね。本来なら君にはまだまだ早すぎるはずの内容もあるけどね」

「我が家の事もご存知ですわよね?大抵の事には驚かなくなりましたわ」


 事もなげに言うカルミーユに、カマドは困ったような顔になる。

 

「物分かりが良すぎるのも問題だってよく分かったのと……今すごく君の従者達に同情するよ」


 カルミーユがどういう意味だと首を傾げれば、気にしなくて良いとカマドに頭を撫でられる。それが少しくすぐったく感じたが、お互い直ぐに目の前の資料に向きなおる。


(そういえば、横領するにしたって表向きは使という証明がいるわよね?)


 ただ予算を計上するだけでは証拠がない。カルミーユが告発した中で、関与している商業ギルドには裏帳簿ある事は調査済みだ。だが小さな村で手にするには金額が大きいのが謎だった。


 (私が他にも関連があるのだと疑ったのも裏帳簿の額の大きさなのよね。商業ギルドは商人達の統制を保つ為の機関の1つ……基本的にはギルドと商人とのやり取りで成り立っているわ。ギルドと商人、物流課……)


「センリョウ様。購入した物の領収書は保管してありますか?」

「待って下さいね――こちらです」


 センリョウから受け取り机に置けばスッと紙とペンが差し出された。


「有難う御座います。タルロ様」


 (流石は陛下の側近。流れる様なアシスタント。見習いたいわ)


 悲しい事に、この場には「だからミーユお嬢様は何処を目指すのですか!?」と突っ込む者はいない。


 カルミーユは領収書に書かれている品目と商会を確認し目当ての物を紙に書き出していた。王宮に提出する物は全て事細かに品目が書かれてあるので、確認を取らなくても目的の物を探す事が出来た。


「カルミーユ君。君が書き出しているのはどういう意図だい?」

「例えばこのレティシュ商会で、主に取り扱っているのは宝石です。宝石を加工したジュエリーも取り扱っていますが、ジュエリーの素材に重要な貴金属、主にゴールド、シルバー、プラチナです。他にパラジウム 、ロジウム 、イリジウム 、ルテニウム 、オスミウム の8種類のみが貴金属と呼ばれているのですが、それ以外の物が紛れているのはおかしいと思いませんか?」


 他にも幾つかの商会で取り扱っている筈のないものが紛れている。普通に見ただけではそこに違和感は感じないが、見る人が見れば分かるのだ。商会は顧客との関係だけではない。商会同士の横の繋がりも大切だ。「経営に携わるのなら最低限の知識として覚えて置きなさい」と母ミモザが絵本を読み聞かすように、カルミーユに叩き込んだ知識が今ここで存分に活かされている。

 

「そういう事か……カルミーユ君書き終わったのを此方に」


 カルミーユの意図に気づいたカマドは、手渡された紙に小さく家名を書き足している。


「学園長それは?」

「学園内に通う全ての生徒は一応その親が何処と繋がっているのか確認しているんだ。万が一に備えてね。此処で役立つとは思わなかったけどね」


 カルミーユがあげた虚偽の申告をしている商会の横には、カマドが書き足したその商会を運営している人間から主な取引先の人物の家名が連なっている。


「多いな……」

「流石にこれは……」


 ダルマギク達が、言葉を濁すほどに疑わしい人物が多い。全て黒では無いと良いが、調べなければ分からない事だ。


「センリョウ様。この方は財務部に配属されて長いのですか?」

 

 カルミーユが確認者のサインが書かれている部分を指し示す。

 

「彼は2年目だね。それまでは王宮外で働いていて、やっと試験に受かったと言ってましたね。もしや彼も?」

「ここに挙げた商会からの領収書の確認者が全てこの方なのです」

「物流課の横領が明るみに出なかったのは、確認者が共犯という線があるな」


 既に幾つもの人によって確認されているので、2度、3度と財務部では確認を取っていない。そういった所を狙ってやっていたのだろう。確実にそして円滑に進める為に適切な配置をする。統率の取れ方が素人の者ではないのだ。


 (得体の知れない何が動いているようで気持ち悪いわ)


「レン、地図あるか?」

「唐突にどうした?」


 軍部の予算を確認していたケイジュは難しい顔をして更に言った。

 

「何かが引っかかる」

「嫌な予感とは言わないでくれよ?」

「分からんから地図が欲しい」


 何故か周りの近衛達が絶望的な顔をしている。カルミーユはカマドの袖を軽く引っ張ると、カマドがカルミーユの声が聞き取れるように屈んだ。


「どうしたんだい?」

「ケイ様の一言から近衛の皆様の様子が可笑しいのですが……」

「ケイジュ様の嫌な予感ってすごく当たるんだよ。戦時もその場所へ行くと敵兵が忍び込んでいたりとか色々あったからかな?近衛は厄介な案件になるのでは無いのか?って思ってるんだよ」

「確かにそれは嫌になりますわね」


 地図を広げたケイジュは、カルミーユの告発資料と先程学園長と書き上げた資料を手に取り、いつの間にか用意されていた駒を地図上に並べていく。


「ミーユは何処にスラム街が出来ているか知っているのか?」


 問われたカルミーユは、少し、ほんの少し背が足りないので、お行儀が悪いが椅子の上に膝立ちになり、地図を覗き込むようにして手を伸ばした。

 

「私の従者の話だとこの地方のこの一角ですわ。ただ此処を起点に数カ所確認出来ているみたいなので広がるかと……」

「問題のあるギルドがこの辺で、この商会がこの辺りだな」


 ケイジュが並べていく駒を眺めていると王都の少し外れである地方が駒で埋められている。


「陛下戻りました」

「どうだった?」

「物流課は、全員黒です」

「……」


 影の報告を聞き部屋が静まり返った。


「情け無い。欲に目が眩み手を出したか……シオン一掃しなければ意味がないぞ」

「分かっております。影を召集してくれ」


 また影が音も無く消える。


「陛下。証拠が出次第この辺りを封鎖致します。スラム街がこれ以上増えて仕舞えば、闇ギルドの餌食となります」

「そうだな。しかし何とかしなければ無実の民が飢え死ぬ」


 封鎖――ということは、全ての出入りを禁じられるという事。その間無実の人が自身達で(配給などはあるが)生き延びなければならない。スラム街が増えているという事は、土地が荒れ作物も育たず。窮困している者が多くいる。闇ギルドはそういった弱っている人達を言葉巧みに誘い込み自身達の都合の良い駒として利用するいわば捨て駒の様な扱いをしており、中々尻尾が掴めないでいる。被害者が加害者となってしまう。それを阻止する為にも早急に策を練らなければならない。


 重い空気が部屋に漂う中――シオンがふとカルミーユを見た。


「カルミーユよ」

「はい。陛下」

「封鎖した土地の復興を任せたい」

「私がですか?」


 並べられた駒を見ても封鎖される範囲はとても大きい。領地を持たないフォンテーヌ家からすれば未知の領域である。


「カルミーユが成人した際に、この土地一帯は正式にフォンテーヌ家の領地とする。荒れた土地の復興は厳しいだろう。こちらからも助力を惜しまない」

「陛下。土地の復興は私の判断で行えという事でしょうか?」

「そうだな。将来的にどの様な領地にしたいか考えながら始めればよい。報告を読む限り、そこに居た貴族は全員駄目なようだからな面倒な口出しが無くてやり易いぞ」


 領地を収める領主は、その土地に住む他の貴族達とも良好な関係を気づかなければならないが、関係者が一掃されるとなると残るのは苦しめられていた領民達だけだ。


「復興ともう1つ。我が息子のユリオにダルマギクが教えているのだが、手が足りなくてな。それも共に任せたい」

「殿下の教師役ですか?適任者が他にいるのではありませんか?」


 カルミーユの横にいるカマドなら誰よりも適任では無いか?と言う意味も込めての問いだった。

 

「ユリオだけで無くタルロの息子も居るのだが、信頼して任せることの出来る者が少ない。カマドにも教師として就いているが、この国の民の暮らしについて教える事の出来、商会等の仕組みにも明るい適任者は其方だと余は思う。ここらの復興にあの子達を使っても構わん。色々な角度から学んで欲しいのだ」


 中等部と高等部までの履修終了の資格があるとはいえ、まだ学んでいる身であるカルミーユは戸惑う。するとカマドが気まずそうにカルミーユを見て言った。

 

「カルミーユ君ごめん。実を言うと君が受けた卒業資格の試験……あれ他にも教員適正の試験と王宮の採用試験も紛れてて……」

「試験内容が多岐に渡っていたのは……」

「何の準備も無しに試験に挑んだ方が、君の実力を測るのにも良いと思って……あと、君自身を守る為に取っておいて損は無いと」

「試験の際、監督者の人数がすごく多かったのは……」

「王宮の使者も紛れていた」


 シオンから任務を言い渡されたのは、資格があるからこその話なのだろう。問題は当人が知ら無かっただけである。影、復興、第一王子の教師役――まさか1日で、役割が増えるとはカルミーユ自身も無論カマドだって思わない。「折を見て話そうと思っていたんだ」と謝るカマドにカルミーユは大丈夫だと告げた。

 それにこれは王命である。拒否権は無いが、カルミーユがもしシオンの基準に足りなければ、この話は初めから出て来なかっただろう。


 (陛下は私に期待して下さっている。私もその期待に応えたい)


 今やれる事を全力でやるだけだ。カルミーユの表情が変わるのを見たシオンは、小さく笑みを浮かべた。

 

「今一度言おう。国の為に其方の力を我に貸して欲しい」

「カルミーユ・フォンテーヌ謹んで承ります」

「自分の手が届く範囲からでよい。頼りにしている」

「あの……情報開示は何処までしても大丈夫でしょうか?」


 当主である事は成人まで伏せているのだ。影はさておきその他は1人で動くには厳しい物がある。


「其方の従者達であれば開示して良いぞ。影の事はあまり公にせぬ方が其方の為だ。復興に至っては領地を1から作るのだ。カルミーユが信のおける者を使うが良い。把握はしておきたいので報告は欲しいが、其方が良しとする者に当主の身分を明かしてもよい」

「宜しいのですか?」

「外との繋がりは作っておく方が良い。其方の従者達では、どれだけ信頼という関係が築かれようとも主と従者では、背負う物の大きさが違う。ダルマギク達と友人となったように、共に励み合う存在や頼れる存在などを探しなさい。判断に困る人物がいれば今までと同じように聞いてくれ」

「はい陛下。あと……事後報告なのですが、センリョウ様の息子ヤグルマギク様に、当主である事がバレました」


 シオンは小さく瞬きをして、不思議そうにカルミーユにる問いかけた。

 

「自ら明かしたのではなくバレたのか?」

「陛下……孫は、気になった物を調べ尽くさないと気が済まない子なのです。彼女とは同じクラスですし……」


 ダルマギクが良い感じにまとめているのを邪魔しないようカルミーユは、必死に表情が動かないように耐えるしか無い。途中センリョウと目が合い互いに苦笑した。息子が「ストーカー」紛いの行動をとるなど誰が想像できようか。表に言えないのだからバレた経緯を事細かく話す事が出来ない。


「センリョウの子なら心配は要らぬと思うが……周りには気をつけてくれ」

「はい」


 勘のいい人は気づくかも知れない下手に利用されないように警戒心は持つべきである。普段の振る舞いも見ている人は細かく見ているのだとカルミーユは改めて思ったのだ。


 

「あの……ダル様を初め皆様に領地について色々と教わりたいのですが……」


 当主陣を見ながら言えばダルマギクとルドベキアは1つ返事で了承と頷いた。


「我々の家系は代々王都にて王族に仕えておりますので、領地は持っていませんが……そうですね。時間がある時に王城へいらして下さい。どの様に陛下が国を動かしているのか間近で見るのも良いかと」

「有難うございます」

「軍部も覗きに来い。俺も領地は持ってないが、軍は一癖二癖ある奴が多いからなぁ。頭に入れて置くとちょっとやそっとじゃ驚かなくなる。後我らと話す時、もっと砕けた方が良いと思う。淑女は従順が良いとよく聞くが……女性同士ならそれでも良いかもしれんが、ミーユは当主だ。勝手が違ってくる。女や子供だと侮って下に見る奴が吐いて腐るほどいるからなぁ」

「ケイその説明だと分かりづらいですよ。ミーユはケイがどういった経緯で隊長になったか知っていますか?」

「巷でよく耳にするのは才を見込まれてなどですが……」

「間違っては居ませんが、ダルが無理やり引っ張って来たのがそもそもの始まりで、我が国が勝利したのはケイの功績です。問題となったのは戦後、平民から爵位持ちしかも序列も高い侯爵で、軍部の総括。伯爵達を初め自身の上となった事を気にくわない者達が「平民風情」や「マナーがなっていない」など本人への中傷やありもしない噂を流すなどやりたい放題なのです。嫉妬から来る愚行とでも言いましょうか」


 (王宮でも学園でも言うことはあまり変わらないのね)


「カルミーユ君。今、絶対貴族主義の子達と重ねたよね?」


 カルミーユは目を瞬きながらカマドを見た。

 

「よくお分かりで」

「学園で騒ぎを聞いた時と同じ顔してるよ」


 一年半様々な騒動を耳にしていれば、次第にまたかと呆れてくるのだから仕方がない。


「まぁ大人でも言うことはあまり変わりませんよ。子供はそれを真似している場合もありますし……裏で汚く動いてるか動いていないかの違いくらいですかね?両者の差は」

「ケイ様は今現在も言われているのですか?」

「俺だけじゃないな。ヒイラギも言われている。これでもレン達から及第点は貰ってるんだがな?実害的に問題が無いのは軍の総隊長の立場にいるからだ。力を誇示するのは好きでは無いが、あちらさんが勝手に怯えているならそれもありかなと、だが俺のせいで家族まで馬鹿にされるのはちと違うからなぁ。ミーユの場合、俺達が後ろ盾にいると示していたとしても俺達との間に距離感があれば――それこそ奴らはそこを突いてくる」


 人生の大先輩方で国を守って来た英雄達だ。カルミーユ自身が恐縮して遠慮すれば、友人だと言っても形だけだと捉える人は捉えてしまうとケイジュは危惧しているのだ。


「当主らしい振る舞い……」

「当主は俺より立派に勤めてると思うぞ?そうだなぁ俺達の前では肩の力を抜け、そこら辺にいる爺さんと接していると考えるのはどうだ?手始めに俺を呼ぶ時は様は要らん」


 カルミーユは固まった。呼び捨てで呼ぶなど流石に無理である。


「ケイ困らせるな」

「でもなぁ〜身内に様付けされるのは嫌なんだよ」

「それが本音だろう」

「そうとも言う」


 「何と自由な御仁なんだ」とカルミーユ思ったが、よく見れば周りも呆れ半分といった表情でその提案を止めるわけでも無い。


「あの!近衛の皆さんは何と呼ばれているのですか?」


 困り果てたカルミーユの問いに答えたのはローダンだ。


「隊内では隊長のことは大将って呼んでますね。副隊長達の事は私は呼び捨てですが、各々好きに呼んでますよ」

「ローダンさんは、呼び捨てなのですか?」

「役職に着く前から共に戦っていた戦友ですし、本当の事を言うと実力は認めていますが、それ以外では先程のように特に1名は暴走しやすいので尻拭いばかりさせられましたし、信用信頼はしてますが尊敬出来ないんですよね〜」

「「分かる。分かる」」

「仲が本当に良いのですね」


 自然とカルミーユの口から出た言葉だった。話している近衛達の表情は皆暖かいのだ。言われている本人は若干拗ねた表情をしている。


「ではケイ大将とお呼びしても?」

「気が向いたらケイ爺さんとでも呼んでくれ」

「どうしてそうなるのですか!」


 ついヤグルマギクに突っ込むように言ってしまいカルミーユはハッとしたが、ケイジュは楽しそうに笑みをこぼす。

 

「そうそう今の感じで、気楽に年寄りの我儘に付き合ってくれ」

「頑張ります」

「ついでに僕の事はルドさんと呼んでくれるかい?」


 まさかの2人目である。


「医務室に居たら先生って呼ばれる事の方が多いんだけどね。ルドさんの方が近い感じがする」

「我々のことは呼びやすいように呼んでくれていい」


 カルミーユの心中を察してかダルマギクとレンギョウは苦笑している。

 

「分かりました」

「あのカルミーユ嬢」

「何でしょうか?スノード殿下」

「私の事は公の場以外で殿下は付けなくていいですよ」


 先程まで静かに書類を見ていた王弟からのまさかの申し出である。


「公の場以外では、私は殿下と言うより医務室の人間なんです。カルミーユ嬢なら区別はつくと思うので、要注意人物達の前で以外はここに居る皆さんと接する感じで接して頂ければと」


 要注意人物とは第二王子を担ぎ上げようとしている保守派の事を指しているだろう。


「スノード様とお呼びしても?」

「そちらの方が気が楽です」

「スノード……」


 嬉しそうなスノードとは対照的にシオンは呆れた顔で自身の弟見ている。

 

「兄上顔が怖いです。私が貴族の駆け引き苦手なの知ってるでしょ?」

「苦手なのは駆け引きだけでは無いだろう?大体望み通り将来継承権が無くなったとて、公爵になるのだから貴族のままだぞ?」

「……」

 


 ***


 

「スノード様があの様に可愛らしい方とは思いませんでした」


 指摘された後、子供のように頬を膨らまして兄に無言の抗議をしているのに、違和感が無いのが恐ろしいくらいだった。顔がいい人は何をやっても似合ってしまうので不思議である。

 

「スノード様は陛下大好きブラコンなだけだよ。即位された時は、冷戦状態の国が多くいつ均衡が崩れるか分からないくらい緊迫していたのもあって陛下は休む事なく公務されていたのを見かねたスノード様が、タルロ殿の隙を見ては陛下を連れ出す事が多々あったねぇ」

「学園長はその時どちらに?」

「学園と城の行き来だよ。人がどこも足りなくてね。高等部に押しかけてきた宰相殿に


 (学園長がダル様を敵視してるのはここからかしら……)


 それだけ才覚が出ていたのもあるのだろうが、ケイジュの時といいダルマギクは目に適った欲しい人材を一体何人無有を言わさず城へと連れって行ったのだろか……


「大変でしたわね……」

「言っとくけど、カルミーユ君も目つけられてるからね?」


 カルミーユはサッとカマドから目を逸らした。


「ヤグルマギク君にも目をつけられていたね」

「学園長はご存知でしたのに報告しなかったのですか?」

「君達が図書室を避難場所として利用しているのは知っているよ。君に関しては、司書達から提示されたのだろう?」

「はい」


 カマドは優しく微笑みながら言った。


「彼等は、君の妹君のやり方に腹を立ててたのもあるけど、頑張ってる君を目にしているから手助けをしてあげたいとあそこを使うように言ったんだよ。学園の方針は自身の事は自身でするだからね。君の妹君にも反省して欲しいと思ってるはずだよ」


 (メイドに煽てられてやっと自分で課題をするようになったけれど、反省はしてないわよね)


 反省していたら毎日探しに来るなんてしないだろう。隙

 あれば、カルミーユに面倒事を押し付けたいのだが、周りにクラスメイトの誰かが常にいるので、遠くから拗ねたように睨みつけてくるだけである。


「妹は……先は長いかと」

「そうか……ヤグルマギク君との事だけど、彼は嫌でも注目を浴びているからね。君にとっても彼にとっても気を抜いて話せる友人が出来ればいいなぁって思ってるんだ。学生達の交流に大人が何でもかんでも口を出すのは違うからね。でも本当に困ったら言うんだよ?あの宰相様の孫だから……」


 言葉を濁しているが何を言いたいのかは分かる。ヤグルマギクは外では猫を被っているのだ。学園内で本来の彼を知っているのは今のところカルミーユだけらしい。


 (影の方も気づかないのだから筋金入りの猫被り外面ね)


「そういえば、陛下の護衛もありますし、封鎖するのは近衛の方ではありませんよね?」

「特務隊が動くと思うよ」

「特務隊ですか?」

「去年編成されたんだ。特務隊と影が行う事は結構似通っているんだけど、大きな違いがあるんだ。僕達影は陛下の命でしか動かない。影だと知っている人達とは情報の共有をする事もあれば共に動く事もあるけれども陛下の命以外では動く事はしない。その時の最前を臨機応変に判断するんだ。特務隊は軍部の組織の1つだから軍のトップである。陛下に加え、総隊長や副隊長の命で動く、動かせる人が違うのが大きいね。特務隊は国外と国内2部隊に分けてるけど、今回のような大規模な封鎖は両方が動くと思うよ。シュロ殿息子もいるし」

「軍部に入る噂は聞きましたが……」


 お陰で騎士学校は頭の中がお花畑な人が我が物顔で牛耳っているとの話だ。

 

「特務隊の配属だよ。2人とも優秀だから部隊長候補。今特務隊を率いているのは近衛の人だから」

「そうだったのですね」

「特務隊は、国内の汚職なども調べるから公平に見れるもの力関係に左右されない者が必要なんだ」

「派閥争いに巻き込まれたら公平性は無くなりますし、隠蔽や賄賂なども横行しますね」

「今回のようにね。だから特務隊を人選するのに通常試験中に適正試験がこっそり組み込まれているし、適性者の背後を影が調べて報告をあげているんだ」


 カルミーユの思った以上に影の内容が多岐にわたっている。


「難しく考えなくていいよ。影の基本は情報が正しいかそうで無いかを調べて陛下にお伝えする事だから。それにバディーを組むのだから互いに相談は必ずする事。判断が難しいような案件なら影に協力を仰げばいい。僕と後3人は少なくとも今君と距離も近いところにいる。普通に疑問にが出たのなら遠慮なく聞いて」

「はい。他にも色々と聞いても宜しいですか?」

「うん。どうぞ」

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