第二部 第四章 彼の計画(2)

 事業の補助金の申し込みには、自身と同居人の見込み年収と年金受取額が必要事項として挙げられていた。そのため、彼は母親にその金額を聞いてみた。

 「なあに?そんな金額を教えなきゃいけないの?少なすぎて恥ずかしいわ」

 「少ない方が逆に助かる」

 「あら、そうなの?年収はパートの収入で月7万円くらいかしら。だから年間だと84万円になるかしら。年金は2か月に一回13万円くらい支給されるかしらねぇ。だから78万円くらいになるわね」

 「そうか。わかった。申請書にも書いておくよ」

 彼はHPにその金額を書き込んで、全体を修正後申請を行った。

 申請から1か月後、市役所から電話がかかってきた。

「はい」

「N市役所の地域産業振興課の後藤と申します。先日申し込まれた事業案の補助金申請についてなんですが」

「ええ、何か問題でも?」

「事業案や事業年収見込み額などは問題なかったのですが」

「何かでひっかかりましたか?」

「ええ、お母様の年金受取額の申請額がこちらの金額データより少ないんですよ。ですのでもう一度確認して確認していただけませんか?」

「それは構いませんが、年金の受取額ってどうやって知ることができるのでしょう?私は年金を受け取っていないので確かめ方がわかりませんが」

「それなら年金機構から送付される通知はがきに書いてありますので、それで確認してください」

「そうですか。承知しました。後程修正してお送りします」

「はい、お願いいたします」

 電話の後、彼は母親に年金の通知はがきの件を話した。

「はがき?はぁ、そんなのあったかねぇ」

「役所の人が通知はがきに書いてあるっていってた」

「2か月に一回振り込まれるんだから通帳の金額でいいんじゃないの?」

「それと役所で把握してる金額が違うんだって」

「知らないわよ。私は振り込まれてくる金額だと思っているし」

「だから通知はがきってのを見せてくれよ」

「そんなの、いちいち取っておかないわよ」

「それは困る」

「私の年金とあなたの生活と直接は関係ないじゃない。何の問題があるの?」

「いま、事業の補助金申請をしていて、親の収入も申請しないといけないんだよ。だから、あなたの年金額も証明しないといけないわけ。その年金のはがき見つけておいてくれよ」

「だからないわよ、そんなもの」

「ない訳ないだろ?役所の人が年金額を証明するはがきだって言ってるんだから」

「どうしても必要なの?」

「そりゃそうだよ。親の年収を証明しないと補助金の審査に通らない」

母親はそれから沈黙を続けた。






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