第二部 第五章 彼の計画(3)

 母親の正しい年金額を申請しなければ、彼の事業の補助金の審査さえ受けられない。そうなると、彼の目論見は足元から崩れる。彼は、現在実際に老齢年金をもらっている人に、はがきの件を確かめることにした。とはいえ、身近に老齢年金受給者が思いつかない。そこで、由梨に相談してみた。彼女は上京して一人暮らしだが、日暮里に叔母がいる。その叔母はもう80歳近いらしいから老齢年金は受け取っているはずだ、と由梨は言っていた。彼はその辺を確かめてもらった。

 すると、やっぱりその叔母さんのところにも年に数回、年金機構から通知はがきが来ると言っていた。やはり、老齢年金を受け取っている場合、通知はがきが来て年間の支給額が記載されているのだ。その年間(一年前)の老齢年金支給額は確定申告の申告材料となるため年末の手前、10~11月頃に通知が来るはずだ、と言っていた。

 となると、母親の言ってる事は辻褄が合わない。老齢年金をもらっている以上、支給額の通知はがきが来ることは事実なのに、それが来てないと言っている。役所の人は母親の年間の年金総受給額が少ないと言っているわけだから、老齢年金以外の年金の性質性を持った「何かしら」をもらっているという事になる。それを記載しないと彼の補助金申請はかなわない。彼は、母親にその件を問い詰めた。

「この前の年金の件だけど」

「またそのこと?だから言ったじゃない。はがきなんて来てないって」

「それは嘘だよ。知り合いにちゃんと確かめた。何でそんな嘘をつくんだ?」

「嘘なんてついてないわよ。何を言い出すの?私を疑ってるの?」

「別にあなたがいくら年金をもらっていようが俺には無関係だけど、俺には俺の都合ってのががある。その金額が分からないと補助金が申請できないって、何回言わせる気だ?」

「知らないわよそんな事。第一、事業って何よ?そんなバカみたいなことしてないでしっかり働きなさい」

「何を偉そうに。はがきの存在だってしらばっくれて。どういう事なんだ?一体!ちゃんと説明しろよ!」

 彼は思わず大きな声を出した。

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