第一部 第四章 彼の出会い

清掃の仕事は女性が多いことが常である。そこに彼は飛び込んだのであるが、前職でも女性社員は居たし、アルバイトという身分は世間的には軽んじられる反面、気は楽であるのが利点だ。

 アルバイト出勤の初日、彼は軽い挨拶をすることになった。しかし、人前で話すのが大の苦手である。ましてや女性が多い職場で挨拶をする事にプレッシャーを感じていた。

 清掃現場の責任者の紹介が終わると、彼の挨拶になった。

「は、初めまして」と言い出したものの、次の言葉が出てこない。集合した清掃要員の面々もざわつき始めた。顔が真っ赤になる。落ち込みかけたその時、

「まぁ、挨拶なんてさ、この現場じゃ大して関係ないし。この子も今日から私たちの一員になったわけだからさ。かわいがってやろうよ」

 周囲は笑いに包まれた。彼は事なきを得てほっと胸をなでおろした。その後、要員たちは各々の持ち場に向かった。

「私、ここの纏め役をしてる千堂由梨って言うの。これからよろしくね」

 彼は頷くことしかできなかったが、とても友好的に見えたのは確かだった。風貌からすると彼より2,3歳年上だろうか、結構大人びて見える。

「じゃ、まずは仕事を覚えてもらわないとね」

 勤務場所は地上15階建ての商業ビルである。会社もテナントとして幾つか入っている。彼のバイト先はこのビルの清掃全般を請け負っているようだ。

「あなたには階段の清掃を担当してもらおうかな。比較的簡単だし」

「はい」

「でも、15階建てのビルだから、一口に階段清掃と言っても結構なボリュームよ?大丈夫?」

「昼間に配送の仕事をしているので体力はあります」

「え?うちの他にもバイト?Wワークってやつ?すごいわね」

「そんなことないですよ」

「じゃ、うちでも頑張ってもらおうかな」

 こうして彼の2つ目の仕事が始まった。

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