第32話 テキーラ
テキーラはメキシコのテキーラの町周辺で作られるスピリッツだ。
原料は
メキシコではアガベと呼ばれており、日本ではアガベの中でも園芸用の物をリュウゼツランと呼ぶ、という形で分けていることもある。
アガベの仲間は150種類ほどあるが、その中でも酒の原料になる品種は、芋が根にデンプンを蓄えるのと同じように、茎にデンプンを蓄える性質を持つ。蓄えたデンプンは花を咲かせる季節になると一気に糖に変え、繁殖のための栄養として利用する。当然ながら、この糖は酒を造るのにも使える。
アガベは古代から現地の人々の食用にされており、糖を含んだ液体を自然発酵させた「プルケ」という酒も昔から作られ続けている。ヨーロッパ人がアメリカ大陸に来ると酒の蒸留技術が持ち込まれ、リュウゼツランを原料にした蒸留酒も作られるようになった。
リュウゼツランを原料にした蒸留酒は総称して「メスカル」と呼ばれ、その中でも規定された場所で栽培した特定の種のリュウゼツランを主原料とし、ハリスコ州のテキーラ村周辺で蒸留された物だけがテキーラと呼ばれる。これにはいろいろと細かい規定があり、これを満たさなければテキーラの名を冠することは許されない。シャンパンやコニャックなどと同じだ。
ちなみに現在ではメスカルの方にも各種の規定が設けられており、テキーラでもメスカルでもないリュウゼツラン由来の蒸留酒は総称して「アガベ・スピリッツ」と呼ばれるようになっている。なんだかそのまますぎてつまらない。
テキーラの原料になるのは、リュウゼツランの中で「アガベ・テキラナ・ウェベル・バリエダ・アスル(別名:ブルーアガベ)」という品種だけに限定されている。
(厳密にいえば、原料の51%以上をこの品種のリュウゼツランが占めていることが条件)
ブルーアガベを健康に育てるには、標高が600~1800mの標高、晴れが日は年間250日以上、平均気温20℃以上という条件が必要で、限られた地域でしか満足に栽培できない。
そうして育ったブルーアガベの見た目は、アロエの葉っぱの長さと幅をロングソードの刃に匹敵するほど引き延ばして分厚くし、それを切り株ほどの大きさの短い茎から四方八方へ突き出させた、とでもいうような物だ。巨大な緑色のウニとでも言えそうな、かなり攻撃的な見た目をしている。
栽培地ではこれを茶畑のような段々畑に植え、6~8年経つと収穫する。
ブルーアガベを栽培・収穫する職人はヒマドールと呼ばれており、スコップのような見た目をした鋭い刃を持つクワで葉を切り落とし、茎を切り取って収穫する。葉を落とされて収穫された茎の見た目はパイナップルや松かさそっくりで、そのまま「ピニャ(パイン)」と呼ばれている。
可愛い名前に反してサイズはかなり大きく、重さは小さい物でも30㎏以上、大きければ90㎏を超える。
収穫後はこれをオーブンで蒸すことで糖化する。蒸かし芋を作るのと同じ理屈だ。
糖化した後は砕いて水を加えて発酵させ、蒸留する。
蒸留するのは、メスカルの場合は1回だけだが、テキーラの場合は単式蒸留を2回以上行わなくてはいけないとされている。連続式蒸留器ではダメだ。
蒸留したては無色透明で、このまま瓶詰めした物は「ブロンコ(白)」と呼ばれる。
熟成する時はウィスキーと同じように600L入る大きな樽に入れ、熟成期間が2カ月から1年なら「レポサド」、1年以上3年未満なら「アネホ」、3年以上なら「エクストラ・アネホ」と等級がつく。
ブランコとレポサドやアネホをブレンドしたものは「ホベン」と呼ぶ……らしい。
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