第23話 ジン①

 ジンは大麦やライ麦で作ったアルコールに、植物由来の様々な香りをつけて作るスピリッツだ。香りの元とするための各種材料は「ボタニカル」と呼ばれている。

 

 麦芽の酵素で穀物のデンプンを糖化→酵母で発酵のプロセスを経た後、連続式蒸留で非常に高い濃度のアルコール原液を作る。

 この時点で元の材料の香りなどほぼ消えてしうので、そこにボタニカルを入れて単式蒸留する。

 原液が蒸気になる過程で、他の材料から抽出された香りの成分が合わさり、回収された物はボタニカルの香りが付いた酒となる。

 イメージでいえば、連続式蒸留という漂白剤でまっさらにしたキャンバスに、改めて単式蒸留という筆でボタニカルの絵の具を付けて、ジンという絵を描く、という感じだろうか。

 香りを付けた後は加水して瓶詰め→出荷だ。ウィスキーとは違って樽の中で熟成することはないので、基本的には無色透明のままになる。

 

 ボタニカルの内容はそれぞれのメーカーごとに異なっているが、ジュニパーベリー(セイヨウネズの実)が使われている点は共通している。

 ジュニパーベリーは「ベリー」と名前が付くが、めちゃくちゃに苦いのでそのまま食べることはできない。代わりに香りが強いので、乾燥させたものが香り着けや臭み消しに使われる。

 このセイヨウネズを表すフランス語の「Geniervre(ジュニエーヴル)」がジン(Gin)の由来になったとか。

 ジュニパーベリーは昔から薬として使われており、かの特徴的なペスト対策マスクのくちばしの部分にも浄化作用を期待して詰め込まれていたという。


 こうした理由から薬酒にも利用され、ヨーロッパでは麦芽から作ったモルトワイン(ビール的な酒)をジュニパーベリーと一緒に蒸留したジェネヴァーという蒸留酒が医薬品として使われていた。

 このジェネヴァーがジンの原型となっていることは言うまでもない。

 ちなみにジェネヴァーは現在でも作られている。原材料は大麦の麦芽とライ麦、トウモロコシなどで、オランダとその周辺で作られた物しかそう名乗ることは許されない。

 日本ではアサヒが有名ブランドの「ボルス ジュネヴァ」を輸入販売している。

 後にジュネヴァーはジュニパーベリー以外にアニスやコリアンダーといった他のハーブ・スパイス類も加えられて医療用に用いられ続け、17世紀ごろになるとイギリスでも「ジン」として作られるようになってきた。

 ブランデーのところで紹介した「17世紀の危機」において、ブドウが作れないイングランドではジンはブランデーの代用として流行るに至ったのだという。


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