第21話 ブランデー
ブランデーはワインを蒸留したスピリッツだ。米焼酎は日本酒の蒸留酒、ウィスキーは(ホップなし)ビールの蒸留酒、そしてブランデーはワインの蒸留酒となる。
蒸留直後は無色透明だが、ウィスキーと同様にオークの樽に入れて熟成させることで濃い琥珀色になる。
名前については、最初はノルウェー語で「Brandeviin(焼いたワイン)」と呼ばれていた物が、オランダ語で「Brandewijn」となり、英語に伝わって「Brandy-Wine」となり、最終的にwineが取れてBrandyとなったという。
「焼いたワイン」とは詩的だが、特徴をよくとらえた言葉だ。
ブランデーが本格的な産業になったのは17世紀の半ばから。
中世後期から地球は小氷期に入っていたので、ヨーロッパの気候は寒冷化して凶作がたびたび発生した上にペストも大流行し、英蘭戦争や三十年戦争のせいであちこちがしっちゃかめっちゃかになっていた。
後に17世紀の危機と呼ばれるこの混乱では、寒い上に経済も政治もめちゃくちゃになっているので、ブドウの生産もワインの品質も低下してしまっていた。
フランスが輸出していたワインも一定の品質を維持して安定供給するのが難しくなっており、品質低下を避けるために蒸留して輸出するようになった。
この蒸留したワインがおいしいと評判になり、特にフランスのコニャック地方から輸出される物がオランダで好評を博したことから、焼いたワインこと「Brandewijn」がブランデーとして発達することになったのだという。
また、この時代の酒税はアルコール度数ではなく酒の量自体によって計算されていたので、高アルコールなブランデーの方が節税にもつながったことが、流行った理由の一つでもあったらしい。
現代ではコニャックは高級ブランデーの代名詞ともいえる名前になっており、フランスのコニャック地方で作られて基準を満たしたブランデーだけが名乗れる。
同じく高級ブランデーのアルマニャックも、フランス南西部のアルマニャック地方で作られた物のみが名乗ることができる。
他のフランス産ブランデーは、フレンチブランデーとしてひとくくりにされる扱いだ。
ブランデーにするワインは、普通に飲まれるテーブルワインとは異なる「ベースワイン」という物から作られる。
ベースワインの原料にするブドウは、普通のワインに使われるブドウよりもかなり酸っぱく、甘みが低い物が使われる。
コニャックの場合、「ユニ・ブラン」(イタリアではトレッビアーノと呼ばれる)という品種の白ブドウが原料だが、これで作られたワインは酢のような酸っぱさだという。
この酸が香りを作る物質の原料となるので、ブランデーの原料となるブドウは酸度の高さが重要になる。
同時に糖度が低いことも大切で、糖度が低い=ワインの度数が低い→度数を高めるために強く濃縮する→香りの成分が凝縮される、という理屈となっている。
ベースワインを作ってから蒸留する際は、2段階のプロセスを経る。1回目では余分な水と固形物をある程度取り除いて、度数が25~30度の濃縮ワインを作る。そこからもう一度蒸留することで、ようやくブランデーとなる。
ただ、現代では連続式蒸留器でベースワインから一気にブランデーにしてしまうこともあるようだ。
その後はオークの樽に入れて熟成すれば出来上がり。オーク樽での熟成をするようになったのは、ウイスキーと違って密造ではなく、長距離輸送の際に樽に入れていたことが由来のようだ。
ブランデーの原料はワインなので、ワイン生産国であればブランデーを作っている国は多い。
イタリア、キプロス、ギリシャなどの地中海の国々、ペルーやチリなどの南米西部、アメリカのカリフォルニアなどの北米西部、アルメニアやモルドバ、ルーマニアといった東欧のブドウの原産国。
しかし日本で目にすることができるブランデーはほとんどがフランス原産だ。
ちなみに日本にブランデーの作り方が伝わったのは19世紀末だが、実際に作られるようになったのは1950年代に入ってからとのこと。
他の果物の果汁を発酵させたものを蒸留した酒にブランデーの名前が付くこともあり、リンゴ、スモモ、サクランボ、アンズのブランデーもある。
梅酒の原料として興味があったが、適当なものが全然見つからなかったので今回はあきらめた。
ブランデーとはやや異なるが、ワインのためにブドウから果汁を取った後の搾りかす(ポマースという)を発酵させ、それを蒸留して作る「ポマース・ブランデー」という蒸留酒もある。
イタリアの「グラッパ」やフランスの「マール」などが有名だが、それ以外にもワインの産地ならば、名前が違うだけでおおよそ同じ物が作られている。
これもブランデーと共通している。
日本ではあまりなじみが無いが、それでも酒屋で探してみるとひっそりと置かれているのが見つかる。
また機会があれば、こちらを使って梅酒を作っても面白そうだ。
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