第18話(番外編6)もう、待てない
0:カフェで突っ伏す2人
有希:無理…推しが、推しが尊すぎる
亜香里:わかるっ!全力でわかるっ
有希:推しと同じ空気吸ってたのよね、私たち!?
亜香里:吸ってた!推しが目の前で息してたぁぁ!
有希:生きててくれてありがとう
亜香里:大石くんのお母様、大石くんを産んでくれてありがとう
有希:にしてもほんと、まさか映画公開記念の舞台挨拶チケット当てるなんて、亜香里ちゃんマジで神引きよ。しかもあんな至近距離でナマ大石くん見られるなんて…席良すぎない?
亜香里:私きっと一生分の運使い果たしたと思うんだ。当選メールが届いて信じられないくらい高い声出たもん。「ひぇ」って
有希:今日、誘ってくれてホントにマジでありがとうね!この恩は一生忘れないからっ
亜香里:えへへ、有希ちゃんには今じゃもう手に入らない大石くんのDVDいっぱい見せてもらったもん、還元しなきゃでしょ。それに、私のオタ活の大先輩だし
有希:でも、美樹も来たがったんじゃないの?
亜香里:まーね、でもお母さん仕事のシフト入ってたからさ
有希:看護師はそう簡単に代われないよねぇ
亜香里:有希ちゃんは連絡したら速攻休みもぎ取ってきてくれたけど
有希:ちょうど有給使えって言われてたとこだったからね…ま、言われてなくても絶対来たけど。こちとら20年以上の古参(こさん)ファンだもの!
亜香里:いいなぁ、ってことは若いころの大石くんもいーっぱい見てきたんでしょ?
有希:もち!かっこよかったよ~
亜香里:いいなぁ!私もあと20年早く生まれてたらなぁ!
有希:(笑って)亜香里ちゃんほんと渋いよね。私は同年代だしアイドル時代から好きだったからそのまま推してるけど…亜香里ちゃんからしたらもう結構なオジサンなのに
亜香里:40超えてあの肌のきれいさ、バケモンだと思わない?
有希:(前のめりで)それはそう。何食べたらあんなに奇麗なまま歳を取れるのか教えてほしいわよ。あれはもはや才能よね
亜香里:天性もあるだろうけど、それ以上に努力がすごい気がする。腹筋見た?バッキバキだったじゃん!あんなに仕上がった体、20代でもそうそういないと思うの
有希:うんうん、私思わず拝んじゃった
亜香里:私は息止まるかと思った(笑)あんな腹チラのファンサ備えてなかったからさー、一瞬マジで死ぬかと思ったよ!あの色気、やばくない?
有希:そうなの!アイドル時代もそれはそれはかっこよかったけどさぁ…今はなんか、エロいのよね。特にあの流し目
亜香里:流し目!そう!あの目がエロいの!エロスの権化なの!あー同年代にはないあの色気!大人の余裕!いいよね、大人の男って
有希:いやーまさか亜香里ちゃんがここまで大石くんに沼(ぬま)ってくれるとは!布教した甲斐(かい)があったわ
亜香里:こんな素敵な世界に連れてきてくれてありがとう、有希ちゃん
有希:こっちこそ沼ってくれてありがとう。ここまでの話ができる推し友いなかったからさ、めちゃくちゃ嬉しいわ、私
0:小休憩
有希:ところで亜香里ちゃん、大学のほうはどう?順調に単位取れてる?
亜香里:うん、今のところ計画的に。だいたいBとかC判定ばっかりだけど
有希:取れてるならいいわよ、判定なんて
亜香里:あー…けど、友弥の出来が良すぎてさ
有希:友弥くんの?
亜香里:そう。あいつ聞いたらAとかA+(エープラ)ばっかり取ってるって言うんだよねーこの前も成績優秀者の学内表彰されたって
有希:すごいね
亜香里:すごすぎるって。出来の良すぎる双子の弟を持つと肩身が狭いよ、ほんと
有希:亜香里ちゃんも頑張ってるじゃない
亜香里:そうだけどさぁ…でもあいつ、あの成績で院進(いんしん)は考えてないって言うのよねー
有希:え?
亜香里:ゼミの先生からも院に進んだら、って言われてるのに全然考えてないらしくて。ほんとその頭脳、お腹の中で私のほうに回してくれたらよかったのさー
有希:あはは、そうだね
亜香里:真面目な話、あれだけ頭よかったら進んでもいいと思うんだけどねー院。勉強するのが好きならとことんやればいいのにさー院の費用くらい出すぞってお父さんも言ってるのにー頑(かたく)なに就職希望なのよねーあいつ
有希:そう、なんだ…
有希:(M)それは、もしかして
0:数日後
友弥:有希さん!
有希:お待たせ、友弥くん
友弥:お仕事お疲れ様です
有希:ありがと。何飲んでる?
友弥:コーヒー、日替わりのやつ
有希:美味しい?
友弥:うん、有希さん好きそうな感じです
有希:へぇ。私もそれにしようかな
友弥:じゃあ僕買ってきます、有希さんは座って待っててください
有希:え、悪いよ
友弥:いいから
有希:じゃあお金
友弥:いつも言ってるでしょ有希さん、これくらい出させてって。ちょっと行ってくるから、待ってて
有希:わかった、ありがと
友弥:うん、行ってきます
0:友弥離席
有希:(M)また、ご馳走になっちゃった。いいのかなぁ、私のほうがうんと年上なのに
有希:(N)こうして出かけるたびに、友弥くんは私に何かをご馳走してくれる。申し訳ないなって気持ちよりと、それ以上に…大事にしてくれてるんだなっていう嬉しさが胸を満たす
0:友弥着席
友弥:はい、コーヒー
有希:ありがと、いただきます。(一口含んで)…美味しい
友弥:でしょ
有希:うん、私これ好きだわ
友弥:だと思いました
有希:(M)すっかり好み把握されちゃってるな
友弥:お久しぶりです、有希さん
有希:久しぶり。2週間ぶりだっけ?
友弥:20日ぶりです
有希:記憶力いいね
友弥:有希さんに会える日を指折り数えてましたから。会いたかった
有希:わ…直球だなぁ
有希:(N)「私も」って言ってしまいそうになって、慌てて誤魔化した。最近、どんどん気持ちが溢れそうになって困る。時折形のいい唇から目が離せなくなることがあって
友弥:有希さん、どうかした?ぼーっとして
有希:え、あ…なんでもない。そういえばこの間、亜香里ちゃんに会ったよ
友弥:ああ、大石くんの
有希:知ってたんだ
友弥:有希さん誘うんだって母さんと盛り上がってたから。楽しかったですか?
有希:もうすっごく!
友弥:そんなに?
有希:だって生で見る大石くん久々だったんだもん!アイドル時代はコンサートとか追っかけてたんだけど、最近はドラマとか映画の俳優業にシフトしちゃったから全然ライブとかなくてさ
友弥:いいなあ、大石くん
有希:あれ、友弥くんもファンだった?
友弥:そっちじゃなくて
有希:え?
友弥:僕、なんなら大石くんちょっと嫌いです
有希:なんでー?あんなにカッコいいのに
友弥:有希さんがカッコいいって言うからですよ
有希:え
友弥:好きな人の好きな人、好きって言えるほど器大きくないんで
有希:…バカねぇ
有希:(M)友弥くんはいつだって直球。眩しすぎるほど真っすぐに、「好き」を伝えてくれる。言われるたびに胸の奥が熱くなって、彼に対する気持ちがどんどん大きくなっていくのがわかる。だからこそ、間違えちゃいけない
有希:亜香里ちゃん言ってたよ、友弥くんの成績が良すぎて肩身が狭いって
友弥:肩身って、大学も学部も違うのに比べなくても
有希:それでも気になっちゃうんだって。…友弥くんは院には行かないの?
友弥:行きませんよ
有希:即答なんだ
友弥:はい
有希:なんで?興味ない?それだけいい成績取ってるなら、その分野の事学ぶの楽しいって思ってるんじゃないの?
友弥:就職します
有希:なんで?
友弥:なんでって…分かりませんか
有希:分かってるから聞いてる。なんで?
友弥:あなたを早く迎えに行きたいからです
有希:もし私の存在が無かったら院進してた?
友弥:それは
有希:私は文系だったから院に進む人そんなに多くなかったけどさ、理系は半分くらいは院進するものなんでしょ?もし友弥くんが勉強嫌いなら話は変わるけど、嫌いでそんなにいい成績取れないでしょ。前に会った時も、授業の話面白そうに聞かせてくれたじゃない
友弥:確かに授業は面白いです。教授もいい人だし、教え方も上手いし
有希:院進した方がトータルで生涯年収高いって知ってる?専門的な知識は力になり、力はお金になる。上手くすれば院に進んでた分の授業料なんて数年でペイ出来ちゃうのよ
友弥:だけど…また、待たせちゃうじゃないですか。僕はもう待たせたくないし、待ちたくない。待てない
有希:友弥くん
友弥:あなたに触れたいんです。ちゃんと恋人になりたい。早く就職して、早く一人前になって、有希さんを安心させたい。それが理由じゃダメですか
有希:(M)友弥くんの優先順位は常に私。私のことを一番に考えてくれて、欲しがってくれる。だからこそ、ここで引き下がっちゃダメ
有希:私は、私が枷(かせ)になることだけは絶対に嫌
友弥:枷なんかじゃなくて
有希:何度も言ってるでしょ、あなたには無限の可能性があるから、それを潰さないでって
友弥:可能性なんかより僕は
有希:私はあなたに何も諦めてほしくないの
友弥:僕が一番諦めたくないのは有希さんです!…確かに、今の分野の研究はめちゃくちゃ楽しいと思います。でも、院に進んだら卒業まであと2年も伸びる。それから就職してちゃんとした社会人になって…その間、僕はずっと茶飲み友達のままで、有希さんにはもしかしたらいい人が現れるかもしれなくて…僕、そんなの絶対嫌です
有希:友弥くん…
有希:(M)私のことだけがずっと好きで、こんなおばさんの私がどっかに行っちゃうって本気で怯えて震えて。彼が可愛くて愛おしくてたまらなくて
友弥:僕は就職します
有希:(M)もう…無理だ
有希:ダメ。あなたは進学して
友弥:有希さんっ
有希:その代わり、もう待たないから
友弥:え
有希:私も待てないの
友弥:(勘違いして絶望して)有希、さん…それって…
有希:(M)早すぎるってわかってる。何度も彼の未来を決定づけてしまっていいのかって考えて。だけど、どうしたって愛おしさが止まらなくて。彼が欲しくてたまらなくて、だから
有希:友弥くん…結婚しよっか
友弥:え…
有希:もうね、待てなくなっちゃった。あなたのファーストキスも最後のキスも、全部全部欲しくなっちゃったの
友弥:有希さん
有希:私があなたのこと大好きになっちゃったから、もう待つのやめる。迎えに行かせて。私と、結婚してください
友弥:有希さんっ
有希:あ、もしかしてファーストキス誰かにあげちゃった?
友弥:あげてない、誰にもあげてないっ
有希:じゃあ私がもらっていい?その代わり、私の最後のキスあげるから
友弥:いい、いいよ、もらって
有希:結婚しよ。友弥
友弥:うん、うんっ有希さんっ…
有希:もう、泣かないでよ、ここ喫茶店なのに
友弥:ごめん、みっともなくて
有希:んーん、みっともなくなんかないよ。待たせてごめんね
友弥:(かぶりを振って)有希さん、愛してる
有希:うん、私も愛してる。いい男になって…私の隣で。ずっと見てるから
友弥:なる、なるよ絶対。有希さんが選んでよかったって思う男になるから
有希:期待してる
勘弁してくれby小林 4人用台本 ちぃねぇ @chiinee0207
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます