第17話(番外編5)二人きりのバースディ
0:夜9時、居酒屋にて
玲奈:有希ーこっちこっち
有希:お待たせーごめんね遅れて
玲奈:先に飲んでたから気にしないでー
有希:ホントごめんねー会議長引いちゃって
玲奈:仕事お疲れ様。何飲む?
有希:ビール
玲奈:言うと思った。(店員に)すみませーん、ビール一つ。あとモスコミュールおかわりでー(有希に)久しぶりだね
有希:ほんと久しぶり。2年ぶりくらい?
玲奈:そうかも
有希:今日真澄ちゃんは旦那さん?
玲奈:そ、預けてきた
有希:もう5歳だっけ?
玲奈:6歳よ
有希:そっかそっか。子供の成長は早いわね
玲奈:早い早い。特に女の子はませてるわよーもういっちょ前に大人の顔するもの。今日なんか「ママ行ってらっしゃい、パパのことは私に任せてね」って送り出してくれたんだから。ちょっとくらい寂しがるかと思って身構えてたのに拍子抜けよ
有希:嬉しいような寂しいような?
玲奈:まーねぇ
有希:(お酒届いて)あ、ありがとうございます。…じゃあ乾杯しよっか
玲奈:うん。じゃあ久しぶりの再会に、カンパーイ
有希:乾杯
0:グラスの重なる音
有希:(ビール飲んで)あー…生き返る
玲奈:(笑って)最近どう?仕事大変?
有希:まあね。まあ前よりはやりやすくなったけど
玲奈:前言ってた、意見のコロコロ変わるクライアントはどうなったの?
有希:あーあれね…無茶ぶりばっかりする上司にぶつけてみた
玲奈:えー?
有希:有害VS(バーサス)有害にしたら、打ち消し合って平和になったわ
玲奈:なにそれ。すごい対処法
有希:玲奈は?仕事どう?
玲奈:順調だよ。去年まで時短だったけど今年からフルタイムになったの。真澄も小学校入ったしね。残業一切無しのホワイト企業でよかったわ、ちょっと給料少ないけど
有希:ちゃんとお母さんしてるねぇ
玲奈:してるよぉ。(ちょっと間をあけて)有希は?
有希:ん?
玲奈:いい人、誰かいないの?
有希:んー…いい人ねぇ…
玲奈:何その反応。バッサリ切らないってことは、さては誰かいるなー?
有希:うーん…いるって言っていいのかどうか
玲奈:なにそれ。どういう状態なのさ
有希:玲奈さ、友弥くんって覚えてる?
玲奈:友弥?どこの友弥?私の知ってる友弥って名前は、さとにぃのとこの友弥くらいだけど
有希:その友弥くん
玲奈:え?は?さとにぃと美樹の子供の?
有希:その友弥くん
玲奈:なんでここにあの子の名前が出てくるの?
有希:私ね、彼に好かれてるみたいで
玲奈:え、それはライクではなくラブい意味で?
有希:みたい
玲奈:えええ…歳の差いくつよ
有希:22
玲奈:すごっ
有希:ね
玲奈:いつから?
有希:わかんない。でも、彼が小学生の頃に告白されてからだから…かれこれ8年は
玲奈:8年!?なっが!
有希:長いよねー私も今口に出してみて改めて驚いたわ
玲奈:有希があの子のカテキョしてるのは知ってたけど、マジで?そんな前からあの子、有希のこと好きだったの?
有希:みたい
玲奈:マジかー
有希:最初はさ、ほら、幼稚園の時に「先生好き」って懐いてるような感覚だと思ってたんだけどねぇ…結構本気らしくて
玲奈:…どうするの?
有希:どうしようね
玲奈:まさかぐらついてるの?22個下の高校生相手に?
有希:ないない。さすがに対象外だって
玲奈:だよね
有希:だけど、今のところ自分から男漁りはしない、みたいな約束っぽいことしちゃって
玲奈:え?
有希:その、待っててあげるからちゃんと大人になった時にそれでも好きだったら告りにおいで、みたいな
玲奈:それ有希、律儀に待ってるの?
有希:待つと言うか、流れに身を任せてるって言うか
玲奈:いつから?
有希:2年くらい前から
玲奈:(おっきな声で)マジで!?
有希:ちょ玲奈、声おっきい!
玲奈:あ、ごめんびっくりして
有希:もう。…まあ、口に出しちゃったし、ちょっと待つくらいいっかなって
玲奈:えええ…有希お人よしすぎでしょ。絶対ちょっとなわけないじゃん。友弥確か来年大学生でしょ?っていうかあの子、ちゃんと大学受かったの?
有希:あ、それは大丈夫。無事第一志望の学校受かったって連絡来てるから
玲奈:そっか
有希:大学受験の時もいろいろあったのよ
玲奈:えー?
有希:友弥くん、最初は「すぐにでも働いて迎えに行く」とか馬鹿なこと言いだしてさ、慌てて叱ったって。やりたいことも見つかってないのにわざわざ学歴捨てるなって。生涯年収ってどうしても学歴判断大きいし、それが私の為だけの決断だったら冗談じゃないって。行ける環境があるなら行くべきよ、大学で色んな事学んで世界も人脈も広げて欲しかったしさ
玲奈:でもいいの?大学ってホントに楽しいことだらけだし、可愛い子だってたくさんいるんだよ?心変わりだって普通にあり得るよ?
有希:その時はその時よ。ご縁が無かったってことで
玲奈:その時って…有希、貴重な30代をそんなことに使っちゃってよかったの?あと3時間で終わっちゃうんだよ?
有希:言わないでよ、今日だって鏡見て老けたなーって思いながら来たんだから
玲奈:ようこそ、こちら側の世界へ!
有希:既婚子ありに言われても重みが違うっての。でもありがと、40歳の誕生日、一人で迎えたくなかったからさ
玲奈:どーんと送り出されてきちゃったし、今日は終電気にせずに飲んじゃうんだから!盛大にお祝いするわよ
有希:ありがと
玲奈:でもそう、友弥がねー
有希:そうなの
玲奈:ぶっちゃけ、友弥に可能性はあるの?
有希:んー…どうなんだろ。可愛いとは思うよ、もちろん。美樹と先生の子だし昔から懐いてくれてるし。でも、恋愛対象として見たことなんてなかったから。というか見れるわけないし
玲奈:だよねぇ…
有希:ただ、ほんの少しだけあの熱が嬉しくもあるの
玲奈:え?
有希:30超えてさ、駆け引きも計算も何もなしに、ただがむしゃらに「好きです」って、それこそいつぞやの美樹みたいなダイレクトアタックされることなんてほぼ無いじゃない?傷つきたくないから良くも悪くも相手の出方(でかた)を伺うし
玲奈:まあね
有希:あんなどでかい直球の好き貰ったら、嬉しくはなっちゃうわよどうしても。拙(つたな)くても幼(おさな)くても、あんな熱量もうきっと他の人からは向けられないと思うし…私も多分、向けられないし
玲奈:でも、貴重過ぎる2年だったよ
有希:うん?
玲奈:私にとってさ、あの子は一応、従甥(いとこおい)に当たるわけよ
有希:あー…先生の子供だから、そっか
玲奈:うん。だからさ、美樹の子供ってことももちろんあるけど結構身内なわけで、年始に顔合わせることもあるし、そうするどどうしても幸せになれーとは漠然(ばくぜん)と願うわけね
有希:そりゃね
玲奈:でもさ…私にとっての優先順位は有希の方が上なの
有希:玲奈
玲奈:私さ、今ちょっとだけ友弥に怒ってる。私が怒る筋合いは全く無いし、それこそお門違いなんだけど…有希の貴重な貴重な30代を、よくも待ちぼうけで引っ張ったなって
有希:あ、いや、そんなに積極的に待ってるわけじゃ
玲奈:だって有希って割とバカ真面目なんだもん
有希:バカ真面目って
玲奈:そんな口約束忘れてさ、がむしゃらに自分の幸せ追ってよかったんだよ?待ってる必要も義理もなかったの。なのに律儀に守って…これでもし友弥が心変わりなんかしたら、目も当てられないじゃん
有希:いやだから、そんなに真剣に待ってないって
玲奈:(遮って)友弥は30代の、30代後半の女を待たせることがどれほど罪深いか、絶対分かってない!
有希:玲奈、また声デカくなってるわよ
玲奈:(トーン落として)私、結構婚活頑張ってたでしょ?
有希:頑張ってたね
玲奈:婚活市場って、年齢が一個上がるだけでハードルグーンと上がるの。32歳と33歳の婚活はステージが違う。男はいいんだよ、年収さえあれば何歳だって若い子と結婚できる。でも、女はそうじゃないの。見た目よりなにより若さがもてはやされる
有希:まぁねぇ。子供ってファクターもあるからねぇ
玲奈:まだ大学生にもなってない友弥に自分の人生、全ベットするなんて大博打もいいとこじゃない
有希:それは言えてる
玲奈:就活だってうまくいく保証無いし、そもそもストレートで大学出られるかもわかんない。お金もない、地位もない、何もかもが未知数、何年待たされるか想像も付かないのに、それでも待つの?優しすぎでしょ
有希:だって…待ちたくなっちゃったんだもん
玲奈:有希
有希:さっきはどうなんだろって言ったけど…正確に言えば、もうちゃんと、好きになっちゃってるのかも
玲奈:グラってんの?
有希:そ。情けない大人よね、犯罪者一歩手前よ
玲奈:思うだけは自由よ
有希:ありがと
玲奈:…怖くない?
有希:え?
玲奈:好きになっちゃった後で、要らないって言われたら
有希:(間を空けて)すっごく怖い。だから認めたくなかった
玲奈:有希
有希:縋(すが)りたくない、要らないって言われたらちゃんと離してあげたい、これは本心。だけど、心のどこかでいつか本当に迎えに来てくれるって信じちゃってる自分もいる
玲奈:…あいつ、罪深すぎでしょ
有希:ホントね
玲奈:私、有希が待つって決めたならいいと思うよ。友弥一発ぶん殴りたいし、心変わりなんかしたら八つ裂きの刑!とか思っちゃうけど…でも、それは違うもんね
有希:うん、違うの。どんな形になっても、この時間を恨んだりしないわ
玲奈:有希
有希:さ、飲も飲も?私の貴重過ぎる30代最後の時間、一緒に楽しんでくれるでしょ?
玲奈:もちろん!今日はとこっとん飲むからね!
有希:おう!
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