第15話(番外編3)欲しかったのは、これ一つだけ

友弥:(N)恐らく自分がモテる部類の人間なんだと気づいたのは、中学2年のバレンタインの時。受け取ってほしいと差し出されたチョコは1つや2つではなく、どれも手作りや可愛いラッピングのそれで、多分全部本命チョコだった


0:学校から帰宅後の友弥


美樹:おかえり、友くん

友弥:ただいま、母さん

美樹:ん?何その紙袋

友弥:なんかもらった

美樹:えー?もしかしてバレンタインチョコ?この紙袋の中全部?

友弥:みたい

美樹:みたいって(ニヤニヤしながら突いて)どれだけもらって来たのよ~このこの!

友弥:うっさい。それ全部母さん食べていいよ

美樹:食べていいよって、バレンタインのチョコよ?

友弥:うん

美樹:…ダメよ友弥、こういうのはちゃんと一つ一つ丁寧に扱わなきゃ。全部、くれた子の気持ち、そのものなんだからね

友弥:だって、一人もらったら他の子断れなくなって、半ば押し付けられた感じだし

美樹:何そのモテ男のセリフ。今全世界のモテない男子を敵に回したわよ、あなた

友弥:対象に聞かれてないからいいの

美樹:んもう、ああ言えばこう言う。友くん絶賛反抗期でしょ

友弥:それ本人に確認するんだ


0:悟登場


悟:おかえり友弥

友弥:ただいま、父さん

美樹:あ、聞いて聞いてさとる。友弥ったらこんなにチョコもらって来たのよ

悟:…すごいな。いくつ入ってるんだ?

友弥:わかんない。なんかもう後半から、僕に渡す、じゃなくて僕の紙袋にいかに押し込むかのゲームっぽくなってたし

悟:どんな状況なんだそれ

美樹:我が息子がこんなにモテモテだなんて知らなかったわ~ねえねえ、どの子が本命なの?

友弥:母さんうざい

美樹:ちょっと友弥、親に向かってうざいは無いでしょう?

悟:今のは美樹が悪い

美樹:ええー?さとるまで!

悟:コーヒー淹れてくれ

美樹:はいはい、わかりましたよーだ。…友くんは?ココア作ろっか?

友弥:うん、おねが(言葉を止めて)あ、やっぱ僕もコーヒー頂戴

美樹:えー?…ふふっ、了解

友弥:何その笑い


0:美樹退場


悟:あんまり母さんにつっかかるなよ?

友弥:母さんが絡んでくるんだよ

悟:美樹はお前が可愛くて仕方ないんだよ

友弥:可愛いって、僕もう中2なんだけど

悟:子供はいつまで経っても可愛いものなんだよ。…そう言えばお前、この間の期末テスト学年3位だったんだっけ

友弥:母さんから聞いたの?

悟:「私の子とは思えない!」って大興奮で教えてくれたぞ。頑張ったな

友弥:別に…たまたま覚えてたとこが出ただけだし

悟:伊藤さんも褒めてたぞ

友弥:え…有希さんが?

悟:「私の生徒とは思えない!」って母さんと同じような喜び方してたな

友弥:そう…なんだ。へー

悟:そんなに嬉しいなら本人に直接結果伝えて「褒めて」って言えばいいのに

友弥:言わないよ、そんな子供じみたこと。って言うか父さん、有希さんにいつ会ったんだよ

悟:3日前、だったかな?カフェでばったり

友弥:父さんばっかりズルい

悟:WI-FI難民は遭遇率が高いんだよ。それよりお前、学生服着替えてきたらどうだ?窮屈(きゅうくつ)だろ

友弥:…今度有希さんに会ったらもっと早く教えてよね


0:友弥退場、入れ違いに美樹登場


美樹:はい、コーヒー。友弥は?

悟:サンキュ。着替えに行った

美樹:ふーん。二人で何の話してたの?

悟:ん?この間伊藤さんとばったり遭遇したって話

美樹:有希と?あー有希ならもうすぐ家に来るわよ

悟:え、今から?なんで

美樹:ついさっき連絡があってね、旅行土産渡しに行っていい?って聞かれたから…もうあと20分くらいで来ると思うよ

悟:…教えてやるか

美樹:え?

悟:あーあとこれも。…美樹、お前友弥が学校でチョコもらって来たこと、伊藤さんにべらべら話すなよ?

美樹:え、なんで?

悟:なんでも


0:紙袋を手に2階に上がる悟。扉の前で


悟:おーい友弥

友弥:なに、父さん。もう着替え終わるからそっち行くよ?

悟:伊藤さん今から来るぞー

友弥:え、有希さんが!?なんで!?

悟:旅行土産持って来るんだと。着替え直すなら今のうちだぞー。あと、お前のもらって来たチョコ、部屋の前に持って来たから隠すなり見せるなり判断しろー

友弥:っ…ありがと父さん!


0:扉の中でガサゴソ聞こえる音を聞いて


悟:(独り言)甘いな、俺も




0:20分後、玄関にて


有希:こんばんわー

美樹:いらっしゃーい

有希:ごめんねー急に。はいこれお土産

美樹:ありがとー!どこ行ってきたの?

有希:熊本!温泉巡りしてきちゃった

美樹:わーいいないいなーあ、上がって?お茶淹れるから

有希:ありがとーお邪魔しまーす


0:リビングにて


悟:こんばんわ、伊藤さん

有希:先生!友弥くんも、こんばんわ

友弥:こんばんわ、有希さん

有希:あ、友弥くん聞いたよ?この間のテスト、学年3位取ったんだって?すごいじゃん!

友弥:ありがとうございます

有希:なんで教えてくれないかなー金曜日にカテキョした時にはもう結果返ってきてたんでしょー?

友弥:すみません

有希:(笑って)はい、これどうぞ

友弥:え、なんですかこれ

有希:3位のご褒美!くまモンチョコ!可愛いでしょ?ラスいちだったのよー?

美樹:あ、かわいー

有希:でしょでしょー?

美樹:よかったね、友くん。ちゃんとお礼言いなさい?

友弥:あっ、ありがとう、ございます

有希:どういたしまして。こんな優秀な生徒で私も鼻が高いわ。あ、美樹写真見るー?黒川温泉のライトアップすっごいよかったのよー

美樹:ええー!見たい見たい!


0:キャッキャしてる二人フェードアウト。友弥と悟


悟:嬉しそうだな、友弥

友弥:うん

悟:美味そうだな。一つもらっていいか?

友弥:ダメ、あげない

悟:なんだよケチ。…賞味期限守って食えよ、飾るなよ

友弥:へへ

悟:あっちはバレンタインにチョコやった、なんて感覚微塵もなさそうだぞ

友弥:でも、いいんだ。もらったのは事実だもん

悟:確かに。あー…あと、一つ言っとくけどな

友弥:?

悟:受け取れない気持ちはもらってくるな。断るのも優しさだ。取捨選択しろ

友弥:あ

悟:それ以外、要らないんだろう?

友弥:…うん、要らない。わかったよ、父さん

悟:わかればいい。まーもらって来た以上、お返しはちゃんとしとけ。来月の小遣いちょっと増やしてやっから

友弥:うん。…ありがと、父さん

悟:おう

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