第14話(番外編2)友弥と有希の話

友弥:(M)僕がその人に恋をしたのは、僕が5歳の誕生日を迎えた日だった


0:5年前


有希:友弥くん、亜香里ちゃん、誕生日おめでとう!二人とも大きくなったわね!おばさんのこと覚えてる?私美樹の友達の有希って言うんだけど

友弥:(惚けている)……

有希:覚えてないよねー友弥くんと亜香里ちゃんがまだ小さかった頃の話だもん

美樹:有希、今日は来てくれてありがとね

有希:こっちこそ呼んでくれてありがと!先生は?

美樹:亜香里と一緒に駅に玲奈迎えに行ってる

有希:手伝うことある?

美樹:じゃあそっちお皿並べてくれる?

有希:オッケー


0:有希、キッチンへ


友弥:きれいなひと…

友弥:(M)一目惚れだった。こんなに綺麗な人がこの世にいるのかって思うくらい、一瞬で目が離せなくなった。虜になった。そして今も


0:現在、カフェにて


友弥:有希さん

有希:友弥くんお待たせ、待ったでしょ?

友弥:いえ、全然。それより今日もお仕事お疲れ様です

有希:あーもういい子!いい子過ぎる!疲れが吹っ飛んじゃうよぉ!

友弥:(M)いい子、ね…

有希:飲み物、注文した?

友弥:いえ、まだです。有希さんはホットコーヒーですよね

有希:うん、友弥くんは何にする?オレンジジュース?

友弥:あ、じゃあ…今日は僕もコーヒーにしようかな

有希:友弥くんコーヒー飲めるの?まだ10歳なのに

友弥:大丈夫です

友弥:(M)家で沢山練習した。正直何が美味しいのかさっぱりわからないけど、ミルクと砂糖があれば飲み干せる…多分

有希:そう…あ、すみませーん、注文お願いしまーす。(店員に)ホットコーヒーと…オレンジジュースで

友弥:え?

有希:私今日は疲れちゃったから、甘いものの気分なの

友弥:そうなんですか、珍しいですね

有希:もうほんと、くたびれちゃったんだもん

友弥:お疲れ様です

有希:社会人は大変よー?あーあ、私も子供に戻りたーい

友弥:僕は早く大人になりたいです

有希:そう?子供の方が楽しいこといっぱいよ?…って、この言い方は未来が怖いか、ごめんごめん。大人もそこそこ楽しい事あるよ


0:運ばれて来たコーヒーは有希の方へ、ジュースは友弥の方へ


友弥:(M)そりゃまあ、そうだよね

有希:(チェンジして)はい、どうぞ

友弥:ありがとうございます

友弥:(M)あ、砂糖とミルクがない、どうしよう。…でも大丈夫、多分。息を止めれば…(飲んで)……きっつ…やっぱ不味い

有希:…友弥くん

友弥:はい

有希:よかったら、コーヒーとこれ取り換えてくれない?

友弥:え?

有希:一口飲んでみたんだけど、甘くて甘くて。やっぱコーヒーがいいなぁって

友弥:あ

有希:飲みかけじゃダメかな?ストロー代えてもらうからさ

友弥:あ、いえ!そのままで大丈夫です

有希:ほんと?ありがとー

友弥:(M)…嘘だ。有希さんはコーヒーが大好きだけど、同じくらい甘いものも好きだ。それにここのジュースは甘さ控えめだし。…気を使わせたか

有希:んーやっぱ仕事終わりはコーヒーだわぁ

友弥:(M)大人だな、有希さんは。悔しいくらい。…でも、助かった。このコーヒーを飲みきるにはだいぶ時間がかかりそうだったし、それに…有希さんが口を付けたストロー…ああ、変態みたいだ、僕

有希:ごめんね、今日いつもより教える時間短めで

友弥:いえ、僕が無理を言ってるので気にしないでください

有希:ありがと、ホントいい子ね友弥くん!それで、今日はどこを教えればいい?

友弥:あ、この図形の面積の求め方を

有希:オッケー…うわぁ、これまた難しそうね。補助線、どこに引けばいいのこれ。ちょっと時間取っていい?

友弥:もちろんです

有希:最近の5年生ってこんな難しいやつ解いてるんだねー私らのころより難化してるでしょ、絶対

友弥:(M)ごめんね、有希さん。ほんとはこれ、中学受験用の問題から持って来てるんだ。だってあんまり簡単な問題でつまづいてるって思われたくない。それに…真剣な有希さんの顔、たくさん見られるから

有希:えっと…AC:ABの比が3:2だから…

友弥:(M)長いまつ毛だな…綺麗。あ、今日のアイシャドウちょっと紫がかってる?この間のピンクも可愛いけど、今日のも似合ってる

有希:うわーちょっとマジで難しいじゃんこれ。解けるかなぁ。先生泣かせだぞ~?

友弥:(M)しまった、難易度を間違えた。これでさじを投げられたらどうしよう

有希:あ、でももうちょっと待って、解けそう。ここが7:3だから

友弥:ゆっくりで大丈夫です

有希:やーんもう、いい生徒だなぁ。えっと、ここがこうだから…

友弥:(M)ごめんなさい、僕は悪い生徒です。だって、こんなの全部口実だもん

友弥:(M)どうしても有希さんに会いたくて、母さんに有希さんを家庭教師にしてほしいとせがんだのが今からちょうど1年前


0:1年前


友弥:母さん

美樹:なぁに?

友弥:僕、家庭教師を付けて欲しいんだ

美樹:え?友くん授業でわからないところあるの?いっつも満点ばっかりなのに

友弥:…もっと勉強したいから

美樹:すごい、私の息子とは思えない。偉すぎる!でも、勉強ならお父さんに教えてもらったらいいじゃない、現役の高校教師を使いたい放題よ、ね、さとる

友弥:……

悟:(うそぶいて)悪いが俺は小学生の勉強はわからないぞ

美樹:え?

悟:とうに忘れた

美樹:そんなぁ、先生なのに

悟:忘れたよ、人には得手不得手(えてふえて)があるんだ

美樹:そうなの?

悟:ああ

美樹:じゃあ私が教えてあげようか?算数以外なら大丈夫よ

友弥:…算数だから

美樹:ええ~そうなの?

友弥:ごめん

美樹:なんで友くんが謝るのよ

友弥:えと、それでその…家庭教師、有希さんにお願いしたいんだけど

美樹:有希?有希って私の友達の?

友弥:うん

美樹:そういえば友くん懐いてたもんね。…でも、勉強を教わるならちゃんとした先生のほうがいいんじゃない?それか塾に行くとか

友弥:有希さんがいいんだ

美樹:どうして?

有希:…算数、得意だって言ってたから

美樹:そりゃ有希は頭良かったけど、でも塾の先生に比べたらやっぱり

悟:それじゃ意味ないんだろ?

美樹:ん?

悟:だろ、友弥

友弥:…うん

美樹:でも、有希も仕事で忙しいだろうし

友弥:暇な時だけでいいから!有希さんの都合のいい日だけでいいから!お小遣いもお年玉も要らない、全部有希さんに払うから

美樹:ええ?そんなに?

友弥:お願い

悟:いいんじゃないか

美樹:え?

悟:滅多にわがまま言わないんだから、それくらい叶えてやれば。足りない分くらい出してやれるだろ

美樹:そりゃまあそうだけど…じゃあ一応有希に頼んでみるけどあんまり期待しないでね?

友弥:ありがとう母さん!


0:現在


友弥:(M)そうして僕は無理やり有希さんの教え子になった。2週に一度の金曜日にだけ会える、憧れの人。

友弥:(M)多分、父さんには全部バレてる。だって仕方ない。有希さんに一目惚れしたあの日から、僕と父さんによる母さん争奪戦があっさり終わりを迎えたから

友弥:(M)あの日から僕にはずっと、有希さんしか見えていない。だけど有希さんはどうしたって大人で

有希:できた!お待たせ友弥くん、解説していくよー!

友弥:あの、有希さん

有希:ん?

友弥:この後、何かあるんですか?

有希:え?

友弥:用事があるんですよね。いつもよりその…おしゃれしてるし

友弥:(M)本当は綺麗だって言いたかったけど、言ったってどうせきっと、いい子だって笑われるんだ

有希:すごいね友弥くん、聡くておばさんびっくりしちゃう

友弥:有希さんはおばさんじゃないです

有希:やだもーホントいい子!

友弥:(M)ほらね

有希:先生と美樹にいじめられたらいつでもうちに家出して来ていいんだからね!

友弥:(M)え

友弥:それ、ほんとうですか

有希:もちろん、友弥くんなら大歓迎!っと、解説始めていーい?友弥くんの読み通り、これから用事があって

友弥:デートですか?

有希:え?

友弥:母さんが言ってました。有希さんに…彼氏ができたって

友弥:(M)珍しく家庭教師の時間を短縮してほしいと言われたときから、そんな予感がしていた

有希:ええ?美樹から聞いてたの?恥ずかしいなぁ

友弥:(M)ああ、予想的中

友弥:どんな人なんですか

有希:ええー?…んー私もまだよくわからないの。告られてノリでオッケーしただけだし…ほら、私もう32歳でしょ?そろそろ結婚したいなぁとか思って

友弥:ノリで

友弥:(M)ノリ…この人はまたこんな簡単に先を行くんだ。ああでも、それが大人なのかもしれない。たった一つの事象でコロッと動いてしまう、それが大人。大人は、ずるい

有希:友弥くんに一つアドバイス。歳取れば取るほど選択肢減ってくからね!いいなと思ってる子がいたら先手必勝よ!キュンってしたら絶対逃しちゃダメ、じゃなきゃ大きくなった時絶対後悔するんだから!

友弥:(M)あなたがそれを言うのか。僕よりずっと大人で、恋だって結婚だって自由にしてしまう人。早くあなたに釣り合う大人になってこの気持ちを伝えようと思ってたけど、でもそれじゃきっと、遅すぎる

友弥:絶対逃しちゃダメ

有希:そう、絶対

友弥:(M)あなたがそう言うのなら

友弥:じゃあ

有希:ん?

友弥:(有希の手を掴んで)じゃあ…逃しません。絶対

有希:ん?

友弥:早く大人になります。10と32じゃ勝負にならないけど、30と52ならいっぱいいます。…いっぱいはいないかもしれないけど、でもいます

有希:え、友弥くん?

友弥:ノリなんかでどっかに行かないでください。僕の方が絶対、有希さんのこと好きです

有希:えっ

友弥:(手にキスをして)待っててって言いたいけど、流石にそれは出来ないってわかってます。だから、好きなとこ行ってていいですよ。大人になったら貰いに行きますから

有希:ちょ

友弥:それまで、誰にも本気にならないでくれたら嬉しいです。僕、手ぐすね引いて待ってますから。せいぜい楽しんできてください、デート

有希:……っ!

友弥:(M)叶う確率なんて億分の1かもしれない。それでも僕は、あなたがどうしようもなく

友弥:好きです、有希さん


0:数日後


有希:あ

悟:あ

有希:よく会いますね

悟:ここらじゃこのカフェしか

有希:(遮って)WI-FIが入らない?

悟:ご名答

有希:…あの

悟:(遮って)相席なら今日は無理ですよ

有希:え?

悟:その席埋まってます。トイレ行ってるんで、友弥が

有希:ふぁっ

悟:その反応、友弥に何か言われましたか

有希:~~っ先生、子供に一体どんな教育してるんですか!

悟:特に何も?子供の自主性を尊重して子育てしてるつもりです

有希:その反応!おおよその見当ついてますよね!?

悟:一目惚れの初恋ですか、どっかの誰かと同じことをしてますね、流石親子。どうですか、追われる気分は

有希:あんなにませた10歳がいていいんですか!?

悟:話をすり替えましたね。茶化すなって僕に言ったあなたが

有希:っ…というか!友弥くんは美樹じゃなくて絶対先生似です!

悟:そうでしょうか?

有希:そうですよ!ミニマム小林を作り出さないでください!

悟:何ですかその芸人みたいな呼び方は。というか彼は正真正銘小林ですが

有希:そういうことを言ってるんじゃありません!

悟:あ、もうすぐ戻ってくると思いますよ、友弥

有希:テイクアウトにします

悟:そんなことしたって10日後にはまた先生として会うじゃないですか。あ、よもや逃げたりしませんよね?美樹をけしかけて追いかけさせたあなたが、そんなことしませんよね?

有希:追いかけさせたわけじゃ

悟:ま、彼にはストーカーするならしてもいいが、迷惑は掛けないようにと釘を刺しておきますよ。…彼が大人になる前にどこかに逃げないと、きっと逃げられなくなりますよ伊藤さん。おそらく、あれは僕以上に粘着質ですから

有希:ご忠告どうも!


0:有希退場


悟:…聞いてただろ


0:友弥登場


友弥:うん

悟:伊藤さんには思うところがあるからな、アシストだけはしてやろう。でも、基本的には頼ってくれるなよ。あと、タイミングだけはどうしたってままならない。お前が大人になる前に逃げられたら、それはきちんと諦めろ

友弥:うん。分かってるよ、父さん。(ぼそっと)…逃がさないけどね

悟:(M)ほんと、これは僕より性質(たち)悪いですよ伊藤さん。勘弁してくれって次に泣くのは、貴方の番かもしれませんね

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