第12話 7月、プロポーズ。そして…
0:玲奈の家
小林:こんばんわー
玲奈:あ、さとにぃ。おこんばん
小林:お前いたんだ
玲奈:いるよそりゃ、自分ん家だもん
小林:まだ夕方だから帰ってないと思ったよ
玲奈:あたし今日2限までなの
小林:大学生は気楽だな。おばさんいる?
玲奈:お母さんならついさっき買い物に出ちゃったよ
小林:んじゃこれ、おばさんに渡しといて
0:手提げを受け取る玲奈
玲奈:この匂い…肉じゃがでしょう
小林:お前嗅覚すげえな
玲奈:へへ。上がってく?
小林:あー今日はいいや。仕事溜まってるし
玲奈:また持ち帰り仕事?
小林:どっかの誰かさん達みたいに今年もノート提出サボるやつがいてな
玲奈:とんだ悪ガキだね
小林:お前が言うか。あ、そだ。お前今日美樹と連絡とった?
玲奈:ん?美樹と?とってないけど、どった?
小林:いや、今朝のライン未だに既読にならないから、珍しいなって
玲奈:へぇ?毎日連絡取り合ってるんだ?仲がおよろしいことで?
小林:んじゃ、それ渡したからな。おばさんによろしく言っといて
玲奈:あ、ちょっと待って。うち今キャベツ3玉来てるからひと玉持ってってよ
小林:相変わらず野菜の届く家だな、ここは
玲奈:今取ってくるから
0:鳴りだす家電
玲奈:あれ、電話だ
小林:家電まだ残してるんだな
玲奈:(電話に向かいながら)滅多に鳴らないし鳴ってもセールスばっかだからそろそろ外そっかって言ってるんだけどね。ちょっと待ってて
小林:おー、しつこいセールスなら変わるからな
玲奈:もしもしー?…え、おばさん?お久しぶりです!
小林:(独り言)セールスじゃなさそうだな
玲奈:どうされました?電話なんて初めてですよね?…え?(心配そうに驚いて)ええ?それ、ほんとですか?…はい…はい…あ、ちょうど今一緒にいるんで
小林:ん?
玲奈:分かりました、すぐ向かいます!また後で!
0:電話を切る玲奈
小林:どうした?今の電話
玲奈:(遮って)さとにぃ!今からさとにぃん家行くよ!んで車出して!
小林:え?
玲奈:病院行くの!今すぐ!
小林:病院?
玲奈:美樹が大変なのっ!
小林:えっ
玲奈:美樹が、事故に遭ったって…!
0:病院にて
美代:小林先生、お待ちしてました。玲奈ちゃんもありがとうね
玲奈:おばさん、美樹の容態は?
美代:よく眠ってるわ
小林:なにがあったんですか
美代:信号無視の自転車に轢かれたみたい
玲奈:そんな
美代:心配しないで。怪我の程度は捻挫(ねんざ)と打撲(だぼく)くらいで、命に別状はないから
玲奈:でも入院になるって電話で
美代:一日だけ検査入院って形でね。事故直後、軽い脳震とうを起こしてたみたいで意識が無かったから、うちの病院に運ばれてきたのよ
小林:脳震とう
美代:でもすぐに目を覚ましたし、大きな外傷もこれと言って無し。警察の人の質問にも問題なく受け答えしてたから、ホントに心配はいらないわ。今は疲れて寝ちゃってるけど
玲奈:よかったぁ…!
美代:(笑って)玲奈ちゃん、悪いんだけどしばらく美樹のこと、見ててもらえる?もし目を覚ましたら教えてくれると助かるんだけど
玲奈:わかりました
美代:先生、ちょっといいかしら
小林:はい
0:病室を出た二人
美代:ごめんなさいね、急にお呼び立てして
小林:いえ、むしろ知らせてくださってありがとうございます
美代:ほんとは先生に一番に知らせたかったんだけど、美樹のスマホはロックが掛かってるし…まさか高校に電話して先生に連絡取るわけにもいかなくて
小林:お心遣い感謝します
美代:玲奈ちゃんと従兄妹なの、聞いておいてよかったわ。町内会の連絡先リスト、捨てずにとってあったから
小林:それで玲奈に電話を
美代:そう。まさかそのまま向かってくれるとは思ってなかったけどね。…それであのね、もし先生さえよければなんだけど
小林:はい
美代:連絡先、頂いておいてもいいかしら?
小林:え?
美代:【次にお会いするのは結婚の挨拶】なんて思ってたから、先生にコンタクトが取れなくて
小林:あ…
美代:この仕事してるとね、いつ誰がどこで命を落としても不思議じゃないって痛感させられるの。でも流石に娘が運ばれてくるとは思ってなかったから、来た時はみっともなく取り乱しちゃったんだけど
美代:(お茶目に)あ、これ美樹には秘密ですよ?あの子の前ではカッコいい母でいたいですから
小林:はい
美代:幸い、今回は大事には至らなかったけど…これから先、こういう事が起きないとも限らないでしょう?事故であれ病気であれ…私は親だから、あの子に何かあれば絶対に連絡が来るけれど…恋人にはその
小林:来ませんね、ただの恋人には
美代:そうなのよ、だからね
小林:すみません近藤さん、それ、少しだけ待っててもらっていいですか?
美代:え?
小林:順番が違うと思うので
美代:順番って…先生もしかして
0:玲奈登場
玲奈:おばさん、さとにぃ!美樹が目を覚ましたよ
美代:あらほんと?
小林:(何かを決意した目で)…
美代:(笑ってボソッと)ほんと、真面目な人ね。うちの人にそっくり
玲奈:え?
美代:玲奈ちゃん、下の売店で飲み物買うの付き合ってくれる?どうやら王子様は、お姫様に話があるみたいだから
玲奈:??
0:病室に入る小林
小林:美樹
美樹:さとる!来てくれたの!?
小林:うん、美樹のお母さんから連絡もらって
美樹:そうなんだ。ごめんね、この時期忙しいのに
小林:なんで謝るんだよ…むしろ俺はもっと早く
美樹:ん?
小林:事故、いつ遭ったの?
美樹:えっと…お昼前だったから11時位かな?
小林:そっか
美樹:…心配かけてごめんね
小林:え?
美樹:さとる、泣きそうな顔してるよ
小林:美樹…っ(美樹を抱きしめて)無事でよかったっ…!
美樹:わっ、さとる!?痛いよ
小林:あ、ごめん
美樹:んーん。心配してくれてありがとう
小林:当たり前だろ。俺はお前の
美樹:お前の?
小林:……美樹
美樹:なぁに?
小林:早すぎるかもしれないって、思ってはいるんだけど
美樹:ん?
小林:遅かれ早かれ、俺はこうなる未来しか見えてないから
美樹:さとる?
小林:近藤美樹さん
美樹:(きょとんと)はい
小林:……俺と、結婚してくれませんか
美樹:え
小林:美樹に何かあった時、一番に連絡が入る存在でいたい。親よりも誰よりも先に…その権利を、俺にくれ
美樹:さ、とる
小林:卒業とか就職とか色々待つつもりだったけど、でも…俺の知らないところで美樹になんかあって、それを俺だけが知らないってのは…
小林:早すぎるってわかってる、まだ事故のショックもあるだろうしそんなにすぐに返事はできないと思うけど、でも俺は
美樹:(了承の意味で)はい
小林:え
美樹:はい
小林:はいって、それって
美樹:私を、もらってくれますか
小林:美樹
美樹:私を、さとるのお嫁さんにしてください
小林:いいのか?
美樹:いいのかって、プロポーズしたのはさとるなのに
小林:それはそうなんだけど
美樹:私はもうずっと、ずーっと前からさとるのことしか見えてないよ。だから…私と、結婚してください
小林:(抱きしめて)幸せにする。絶対、絶対幸せにするから
美樹:うん、じゃあさとるのことは私が幸せにしてあげる。二人で幸せになろうね
小林:ああ…(涙ぐみながら)ああっ
美樹:もう…泣き虫だなぁ、私の旦那様は
小林:言ったろ、俺はカッコ悪いんだって。幻滅したってもう離さねぇから
美樹:しないよ。どんなあなたでも愛してる
小林:愛してる
0:ノックの音
美代:そろそろ入ってもいいかしら?
美樹:あ、お母さん
玲奈:飲み物買ってきたよー
美樹:玲奈!ありがとー
小林:…お義母さん
美代:え?
小林:後で連絡先、お伝えしていいですか
美代:あら!まあまあまあ!そう!もう…お父さん、泣いちゃうわね
小林:すみません
美代:先生、返品は無しですからね
小林:はい、生涯大事にします
美代:美樹、おめでとう。幸せにしてもらいなさい
美樹:うん
美代:あ、でも式はちゃんと卒業してからにしなさいよ?
小林:はい
玲奈:なになに、何の話?
美樹:あのね、実は
0:9か月後
0:披露宴会場の玲奈と有希。
玲奈:いやぁ~うちら中で一番先に結婚するの、やっぱり美樹だったか~
有希:にしてもびっくりよ。玲奈が小林先生の従兄妹だったなんて
玲奈:全くの偶然だったのよ、私もさとにぃの赴任先知らなかったし、向こうも向こうで私の進学先知らなかったから…担任紹介のとき、めっちゃ驚いたんだもん
有希:なんで言わなかったのよ
玲奈:だってあいつすっごいモサかったし、あと…友達が従兄妹に恋してるってなんか痒いじゃん
有希:わからんくもないけど
玲奈:何度か話してもいいかなと思ったことあるけど…でもやっぱり痒さが勝っちゃって!
有希:もう!
玲奈:でもでも!その代わり、私高校時代、従兄妹特権フルに使ってさとにぃに美樹のことプッシュしまくったんだよ~
有希:あら。じゃあ今日の式の立役者は玲奈?
玲奈:とか何とか言って。私だけじゃないでしょ
有希:え?
玲奈:有希が動くって決めたから、私乗っかっただけだもん。ホントは従兄妹の恋愛とか首突っ込むのかなり抵抗あったんだけどさ~まあしゃーないなって
有希:私は別に何もしてないわよ
玲奈:嘘おっしゃい
有希:…今日があるのはきっと、いろんな人がいろんなところでいろんなこと考えて動いたからよ
玲奈:え~?私は【小林先生を振り向かよう大作戦「外堀から埋めましょう」】が決行されたと思ってるんだけど~?
有希:ふふっ。議長の美樹が知らない作戦だけどね
0:場内に新郎新婦入場のアナウンスが流れ、二人はカメラを構えた。
玲奈:いよいよだね!
有希:同じ「式」だけどあの頃とは違う…今日は堂々と撮っとこ!二人のツーショット!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます