第10話 3月、ホワイトデーの隠し事
0:ショッピングモールで待ち合わせる3人
玲奈:美樹!こっちこっち
美樹:玲奈!お待たせ、待った?
玲奈:んーん、今来たとこ。有希ももうすぐ来るってさ
美樹:オッケー
玲奈:あ、美樹が有希に会うの、お正月以来だよね?
美樹:うん
玲奈:じゃあびっくりすると思うよ
美樹:なにが?
玲奈:それがさ~
0:有希登場
有希:お待たせ~
玲奈:お、噂をすれば
美樹:え…有希!?
有希:そうよ~
美樹:髪切ったの?バッサリショートヘア!
有希:ふふ、30センチは切ったかな、友達にカットモデル頼まれちゃって。あとちょっとわかりにくいけど色も入れたのよ、ほら…透かすと若干青みがかってるでしょ?
美樹:ほんとだ、すごい…思い切ったね
有希:似合う?
美樹:すっごく!
玲奈:似合いすぎて最初、どこのイケメンが来たのかと思ったわよ。髪切ってからボーイッシュな服着るし
有希:この短さだとキャップ被りたくなるんだよね~そしたら男物の方がしっくりくるようになっちゃって。買い物する店ガラッと変わったわ
美樹:あ、じゃあ男性物の服屋さんとか詳しくなった?
有希:詳しいって程じゃないけど、何軒か知ってるよ
美樹:じゃあお財布扱ってる店無いかな?
有希:男性物の?知ってるけど、なんで?
美樹:先生がもうすぐ誕生日だからプレゼントにいいかなって
有希:へぇ、そうなんだ。先生の誕生日っていつ?
美樹:3月15日!
玲奈:え?14日でしょ?
美樹:え?
玲奈:あいつの誕生日、ホワイトデーよ。確か
美樹:え、あれ…ウソ
有希:なんで玲奈が先生の誕生日を知ってんのよ
玲奈:まーね
有希:まーねって、あんたいつもそれね
美樹:あれ、でも前に誕生日聞いたときは15日だって
玲奈:多分なんだけど、生徒に「ホワイトデーが誕生日」って言うの何となくイヤだったんじゃない?こそばゆいって言うか
美樹:えぇ…?私一年の頃からずっと15日に「おめでとうございます!」って言い続けてたのに
玲奈:あーそれは余計に訂正しにくいわ。今更過ぎるし…それか、仕事に忙殺されて日付感覚無くして、言われるたび普通に受け取ってたか
美樹:なんか…ちょっとショック
有希:まあまあ。生徒に個人情報握られるのイヤだったんじゃない?先生きっちりしてたから
美樹:でも…今は付き合ってるのにー
玲奈:だよねぇ…あ、そうだ
美樹:なに?
玲奈:ちょっと美樹そこ立って。こっち向いてる状態で
美樹:え?
玲奈:有希は美樹の前、こっちに背を向けて
有希:(意図をくみ取って)はーん?りょうかーいカメラマン!
美樹:え、え?
玲奈:有希、頼んだわよ
有希:オッケー!美樹、にらめっこしよっか
美樹:にらめっこ?
有希:行くよー?笑ったら負けよ、あっぷっぷ
美樹:え?
有希:ん~?(笑わかせて)
美樹:ぶっ…!ちょ、有希!その顔は反則っ
有希:ふふっ(玲奈に向かって)どう?撮れた?
玲奈:バッチリ!
美樹:いきなり何なの~?
玲奈:見て見て、これ。美樹の浮気現場
美樹:え?
有希:あ~これ見たらコバセン、焦るかも。距離近いし、美樹すっごい笑ってるし。後ろ姿じゃ私、まるきり男の子だし
美樹:なんでこんな写真
玲奈:これを…「美樹が男の子と歩いてたんだけど!?」っと…はい送信!
美樹:え、送信って…先生に送っちゃったの!?
玲奈:彼女に誕生日偽った罰よ。ヤキモキしたらいいわ
有希:これ見た先生の顔…想像するだけで面白い
美樹:先生が妬いたりするかなぁ
玲奈:美樹って鈍感だよね
有希:ねー
美樹:ええ?
0:数分後
美樹:あ、先生から電話かかってきた
玲奈:マジ?
有希:出て出て、うちら黙っとくから
美樹:う、うん
0:電話に出る美樹
美樹:もしもし、先生?
小林:(小声で)よかった
美樹:え?
小林:その呼び方ってことは、今伊藤さん達と一緒にいるでしょう
美樹:あ
小林:美樹の浮気現場の写真が送られてきたんだけど、あれ伊藤さんかな?随分イメチェンしたね
玲奈:(美樹に)なんてなんて?
美樹:(玲奈に)全部バレてるみたい
玲奈:え~?
有希:なんだーつまんないのー
玲奈:カップルの電話聞いてても胸焼けするだけだわ、私ちょっとあっちの服見てくる
有希:じゃあ私も~
美樹:もー二人とも
0:玲奈&有希、退場
小林:それで?あの浮気写真の理由はただのイタズラ?
美樹:あれは玲奈が勝手に…あ、でも先生、誕生日嘘ついてたでしょ、3月15日って。ホントはホワイトデーなのに
小林:あー…そっか、訂正してなかったか
美樹:そうだよ!私、今日玲奈に聞いてショックだったんだから
小林:ごめんごめん、誕生日がホワイトデーってなんか、生徒に知られたくなくて
美樹:からかわれるから?私そんなことしないのに
小林:美樹はそんなことしないだろうなって思ってたけど、他の生徒にも3月15日って答えてたから
美樹:他の子にも聞かれてたの?
小林:何人かね
美樹:女子でしょ
小林:女子もいたかな
美樹:ふーん?先生モテてたもんね
小林:俺を慕ってたのは美樹くらいだよ
美樹:鈍感
小林:そうかな?
美樹:そうだよ!まあ、先生が鈍感でいてくれたおかげでライバル減ったんだけど
小林:でも、少し意地が悪いぞ
美樹:え?
小林:一瞬本気で焦ったんだからな、本当に他の男とのデートだったらどうしようって
美樹:焦ってくれたの?
小林:くれたってなんだよ。普通に焦るよ、そりゃ
美樹:(嬉しそうに)ふふ、えへへ
小林:何喜んでるの
美樹:あ、バレた?
小林:声が弾んでる
美樹:嬉しいなって
小林:俺が焦るのが?
美樹:うん。先生がヤキモチ妬いてくれることなんてほどんどないから
小林:そうか?俺は結構やきもきさせられてると思うぞ?(小声で)主に伊藤さんのせいで
美樹:え?
小林:なんでもない
美樹:あ、それより先生
小林:そろそろ呼び方戻そうか、「近藤さん」
美樹:っ…はい
小林:美樹って、俺が「近藤さん」って呼ぶの好きだよね
美樹:好きって言うか…弱いの。高校生の頃に戻ったみたいでドキドキしちゃって
小林:ふぅん、それなら…「近藤さん」
美樹:はいっ
小林:今更よその男のとこ、行かないでくださいね。あなたはもう僕の彼女なので
美樹:っ…そ、その「先生」モード解除してください!
小林:俺を妬かせた仕返し
美樹:仕返しが大きすぎるよ!
小林:はは。でもほんと、あんまり妬かせないで。俺、心狭いから
美樹:私がさとる以外の人のとこ、行くわけないじゃん
小林:うん、知ってる。でもそれでも(囁いて)俺の彼女は可愛いから時々心配
美樹:っ…電話越しに囁(ささや)くのは反則だよ
小林:反則でもなんでも使えるものは使うよ。だって、女は心変わりが秒なんでしょ
美樹:それ卒業式の時の
小林:大石くんみたいなイケメンがいたらすぐに乗り換えられちゃうんだっけ?
美樹:あれは物の例えで…って言うかよく覚えてるね
小林:覚えてるよ。あの日のことなら全部
美樹:それはちょっと恥ずかしいかも
小林:(声色変えて呼びかけて)美樹
美樹:なに?
小林:俺は「若いうちに他も見て遊んでおいで」とか言える器じゃないから、理想と違ったらごめんね
美樹:え?
小林:10も上のくせに余裕無いからさ。久しぶりに出来た可愛い恋人、誰にも盗られたくないし…盗られたら多分泣くね
美樹:泣くの!?
小林:泣くよ。だから俺を泣かせないで
美樹:意外。さとるがそんなこと言うなんて
小林:付き合う前に言ったでしょ、俺は彼女にはとことん甘えるタイプだって
美樹:言ってたけど
小林:嫌になった?教師の仮面外したらこんなもんだよ
美樹:意外だけど…嫌じゃないよ
小林:ほんと?
美樹:うん。むしろ嬉しい
小林:嬉しいの?
美樹:だってそれって、さとるが私のこと好きだっていう証拠でしょ?そんなの嬉しいに決まってるよ!あ、でももっともーっと好きになってもいいからね!
小林:(小声で)これ以上どうやって好きになるんだよ
美樹:ん?なぁに?ごめん今の、電話が遠くてよく聞こえなくて
小林:なんでもないよ。あと、誕生日偽っててごめんね。毎年「おめでとう」って言ってくれて嬉しかったよ、ありがとう
美樹:もう!今年は14日に言うからね!
小林:うん
美樹:今年だけじゃないよ!これから先もずっと言うよ。私はもう、さとるの彼女なんだから
小林:…うん、期待してる
美樹:あ、それじゃあ私そろそろ二人のとこに戻るね
小林:ああ。あ、伊藤さんに「覚えといてくださいね」って言っといてね
美樹:ん?うん、わかったー
0:通話終了
小林:ホントにわかってんのかね。伝言の意味も、これから先もずっとの意味も…全く、勘弁してくれよな
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