第9話 2月、ハッピーバレンタイン

0:電話にて


玲奈:やほー2週間ぶり~

美樹:初詣以来だね、元気してる?

玲奈:うん。そっちもさとにぃと順調?って聞くまでもないか。初詣も一緒に来てたもんね。神社で会うなんてびっくりしたよ

美樹:私も

玲奈:お邪魔だった?声掛けない方がよかった~?

美樹:もーそんなわけないでしょ、私は有希と玲奈に会えて嬉しかったのに

玲奈:ごめんごめん。最近どぉ?忙しい?

美樹:忙しいよ~授業も覚えることいっぱいで必死。もうすぐテストだし

玲奈:大変だよねー美樹の学校って看護だもんね。授業で血とか採ったり採られたりするの?

美樹:それはもうちょっと先、実習でやるみたい

玲奈:私には無理だわ、針先怖くて見らんないもん

美樹:私も得意ってわけじゃないけど、お母さん曰く慣れだって

玲奈:美樹のお母さんって看護師さんだっけ

美樹:そう。だから私も小さい頃から看護師になるのが夢なんだよね

玲奈:そのくせ数学苦手だったよね

美樹:だから大変だったよ…あの時は有希にも玲奈にもいっぱい助けてもらったなぁ

玲奈:一番助けたやつのこと、抜けてない?

美樹:先生のことでしょ?もちろん覚えてる。すごくお世話になったし感謝してる。…だけど

玲奈:けど?

美樹:先生と二人っきりの空間にドギマギしすぎて、効率は悪かったかも。心臓の音うるさくて話半分しか聞けてなかった気がする

玲奈:さとにぃが聞いたら泣くぞー

美樹:先生には内緒ね

玲奈:はいはい。あ、そう言えば聞いた?昨日恵理子おばさ、あー…さとにぃのお母さん、ぎっくり腰やっちゃったんだって

美樹:そうなの?

玲奈:うん、今朝うちのお母さんに連絡入ったの。結構ひどいみたいで2、3日入院するんだって。ほら、立花総合病院って知ってるでしょ?あそこに入院するみたい

美樹:立花総合病院?

玲奈:うん

美樹:そこって確か、お母さんの勤務先だったような…


0:病院にて


小林:じゃあ母さん着替えおいとくね。要るものあったらまた連絡して


0:病室を出たところで看護師とすれ違う


小林:どうも

美代:…先生?

小林:え?

美代:ああやっぱり。小林先生ですよね?

小林:あ、もしかして…近藤さんの?

美代:はい、近藤美樹の母です。昨年まで娘がお世話になりました

小林:いえ

美代:先生は記憶力がいいんですね。三者面談で何度かお会いしただけなのに

小林:そう、ですかね。そういう近藤さんも記憶力がいいですね

美代:先生だからわかったんですよ。美樹から事あるごとに先生の写真見せられてましたから

小林:あー

美代:うちの子、随分うっとおしかったでしょう?ごめんなさいね先生

小林:いや

美代:毎日毎日担任の先生追いかけて…まああの感覚、分からなくもないんですけど

小林:…あの、近藤さん

美代:はい

小林:今日って、どこかでお時間作っていただくこと可能でしょうか?

美代:え?…ええ、ちょうどこれから休憩に入るところでしたから

小林:あの、お話ししたいことがありまして

美代:はあ…じゃあ、食堂でもいいです?

小林:はい


0:病院の食堂にて


小林:すみません、お仕事中に

美代:構いませんよ。それでお話って?

小林:ほんとは、もっと早くちゃんとご挨拶に伺うべきだったんですが、こんな形でその

美代:?

小林:あの、実は僕今…近藤さんとお付き合いさせていただいてます

美代:…え?

小林:ああもちろん、近藤さんが卒業した後からのお付き合いです。在校中にどうこうはありません、誓って

美代:えっと…それはその、美樹と先生が交際してるってことですか?

小林:はい

美代:まぁ!

小林:すみませんっ…!教師の立場でありながら教え子に手を出すなんて

美代:手を出したんですか?

小林:あ…出したかと言われると出したとは言えるような言えないような(尻すぼみ)

美代:……

小林:あの、決して軽い気持ちで付き合ってるわけじゃ

美代:ふふっ

小林:え

美代:ああごめんなさい、あの子粘り勝ちしたんですね

小林:粘り勝ち

美代:ほだされたんでしょう、あの子に

小林:…はい

美代:あの子のどこを好きになってくれたんですか?

小林:感情表現が真っすぐでいつも直球で想いを伝えてくれて…くるくる変わる表情とか、どんなことにも真剣に取り組む姿とか、こうと決めたら意地でも貫き通す芯の強さとか

美代:可愛く思えてきちゃった?

小林:…はい

美代:ふふっ…小林先生って可愛いですね

小林:え

美代:美樹が可愛い可愛い言ってた理由が分かりました。それにとっても真面目なんですね

小林:いえ…もっと早くご挨拶に伺うべきでした

美代:あら、まるで結婚の挨拶みたいですよ。もうそこまで話が行ってるんですか?

小林:流石にまだ。このまま順調にお付き合いできればゆくゆくはとは思ってますが

美代:…本当に真剣に付き合ってくださっているんですね。卒業してからなら…まだ一年も経ってないのに

小林:元とは言え、生徒相手に生半可な気持ちで近づいたりできません

美代:ほんとに真面目なんですね。…親としては県外で一人暮らしさせてますから、そりゃ人並み程度の心配はするんですよ。変な虫がついたらとか、悪いお友達が出来たらとか

小林:はい

美代:だから、あの子の恋人が先生で安心しました。どうか末永く、娘と仲良くしてやって

小林:あの、近いうちにまた…ご挨拶に伺います。今度はご自宅に

美代:いーのいーの、次の挨拶はそういう挨拶でいいわ、楽しみに待ってるから

小林:でも

美代:美樹には言ってないんだけどね、私も担任の先生と結婚した口なのよ

小林:えっ

美代:だからそんなに構えないで、うちの人も何も言えないから。…嬉しい報告待ってるわね。あ、でも気負わずにね

小林:いつか、伺います

美代:ええ、楽しみにしてるわ


0:数日後


美樹:お母さーん、こっちこっち

美代:お待たせ、美樹。お腹空いたでしょう

美樹:うん、何食べよっか

美代:レストラン街行きましょ。…美樹と二人で出かけるのなんて、いつぶりかしら

美樹:そうだね。…ねえお母さん

美代:なあに?

美樹:食べ終わったらさ、行きたいところあるんだけど付き合ってくれる?

美代:どこ?

美樹:チョコレート売り場

美代:チョコ?…ああ、バレンタインの

美樹:そう。……あのね、その…私、実は今付き合ってる人がいるの

美代:あら

美樹:お正月に話そっかなーって思ったんだけど、タイミング掴めなくて

美代:そう。その人、どんな人?

美樹:すごく優しい人。大人で賢くてあったかくて…誠実な人。あとすっごく可愛い

美代:そう

美樹:あの、ね…その人ね、その…実は

美代:美樹、その人のこと好き?

美樹:え…うん、すごく好き。大好き

美代:そう。じゃあうんと美味しいチョコレート買わなきゃね。あ、お父さんの分も買ってあげてよ?あの人、拗ねちゃうから

美樹:…もっと聞かないの?

美代:え?

美樹:私の彼氏のこと…どこの誰?とか、写真は?とか

美代:美樹、今すごく幸せそうな顔したもの

美樹:え?

美代:そんな顔させる相手なら、素敵な人に決まってるわ。お母さん、それだけで十分よ

美樹:お母さん

美代:あ、いざって時に無かったら困るからゴムは買っときなさい。避妊は大事よ、お母さんに言えるのはそれだけ♪

美樹:お母さん!


0:数日後、電話にて


玲奈:有希どうしよう

有希:どうしたの

玲奈:あたし、見ちゃったの

有希:ん?

玲奈:この間、たまたま県境のドラッグストア入ったら美樹がいてね

有希:え、すごい偶然だね

玲奈:声掛けようとしたんだけど、その美樹がね…ゴムのコーナーにいたのよ

有希:…?ヘアゴム買いに来てたの?

玲奈:違う…あっちのゴムのコーナー

有希:おっとぉ。見間違いじゃない?それか、欲しかったの商品が近くにあったか

玲奈:ううん、私気になって近づいてみたの、そしたら…0.02って書かれた箱見てぶつくさ言ってたの…!

有希:あらぁ

玲奈:これってそういう事だよね?

有希:まあ付き合って10カ月以上経つし、そういうことなんじゃない?コバセンもよく耐えた方でしょ

玲奈:…彼氏欲しい

有希:まーた始まった

玲奈:私も彼氏欲しい~!いちゃいちゃしたい~!

有希:はいはい

玲奈:有希は置いてかない?大人への階段、一足(いっそく)飛びで駆け上がらない?

有希:さぁ、どうかしら?【女子、三日会わざれば刮目(かつもく)して見よ】なんてことわざもあるし~?

玲奈:それ男子!


0:数日後、電話にて


美樹:もうすぐ、バレンタインだよね

小林:ああ、そう言えば

美樹:さとる、忘れてた?

小林:この時期は合否の連絡待ってる記憶しかないからな

美樹:そっか、教員にとっての2月3月ってそうだもんね

小林:お前の合否も、結構ハラハラ待ってたんだぞ

美樹:ありがと。じゃあそんな疲れた先生には甘いものが要りますね?

小林:え?

美樹:21時の時間指定だったら家に帰ってる?チョコ送っていいかな?14日、授業あるから会いに行けないし

小林:そんなの、また今度会った時でいいのに

美樹:だってバレンタインだもん、その日に受け取ってほしいの

小林:分かった、受け取れるようにするよ。ありがとな

美樹:あ、あとね…おまけも一緒に送るね

小林:え?

美樹:じゃ、おやすみ!

小林:…?


0:バレンタインデー当日


小林:届いたな。…随分デカいな。えっと…

美樹:さとるへ、ハッピーバレンタイン!

小林:(笑う)

美樹:どんな味が好きかわからなかったからアソートにしたよ!気に入ってくれると嬉しいな

小林:ありがと、美樹

美樹:追伸

小林:ん?

美樹:いつかのために、送っておきます。…私はいつでもいいんだからね

小林:ん?なんのことだ?(同封された箱を発見して崩れ落ちる)……勘弁してくれ…

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