第8話 12月、クリスマスプレゼント

0:玲奈と美樹、通話中


美樹:もしもし?今時間大丈夫?

玲奈:おー美樹?珍しいねー美樹から掛けてくるの。どしたー?

美樹:玲奈~!お願い!先生の欲しいもの教えてっ!

玲奈:欲しいもの?

美樹:ほら、もうすぐクリスマスでしょ?

玲奈:もうすぐって、12月入ったばっかじゃん

美樹:付き合って初めてのクリスマス!プレゼントは絶対喜んでもらえるものを贈りたいのっ

玲奈:って言ってもねぇ…

美樹:先生、何が欲しいと思う?

玲奈:わかんないよ、最近顔合わせてないし。美樹のほうが、さとにぃとよく連絡とってるはずでしょ?

美樹:ラインは結構やりとりしてるけど、最近先生が忙しそうで、文化祭終わってからまだ一度もデートできてないの

玲奈:ありゃりゃ。もう一か月くらい経つよね?

美樹:入試の準備とか、行事重なると結構会えなくてさ。私も大学とバイト結構忙しいし

玲奈:地味に遠距離だもんねぇ。美樹、しょっちゅうこっち帰ってくるから忘れてたわ

美樹:今期、必修科目ばっかり取ってるから絶対落とせないんだよね、単位

玲奈:あ~もうすぐテスト…やだなぁ…

美樹:って、話逸れた!ねぇ!先生って何が欲しいと思う!?

玲奈:えぇ…?んじゃあ、ちょっと探り入れてみよっか?もし聞き出せたら教えるわ

美樹:ほんとに!?ありがとう!助かる!

玲奈:期待しないで待ってて


0:通話終了


玲奈:はぁ…さて、どーすっかな。…あ、そだ


0:玲奈、小林に電話


小林:もしもし

玲奈:あ、もしもし?さとにぃ?

小林:玲奈か。電話なんて珍しいな

玲奈:ちょっとさとにぃに聞きたいことあって~

小林:なに?

玲奈:今さ、貰ったら一番嬉しいものって何?

小林:なんだ、唐突に

玲奈:いいから答えてよ

小林:…休み

玲奈:はぁ?

小林:今年度のカリキュラム改正、マジえぐいんだよ。土日もなんやかんや部活動の監督とかテストの問題作成とかでなくなってくし

玲奈:わー教師にだけはなりたくなーい

小林:おう、なるななるな。安月給でこき使われるぞー

玲奈:うげ

小林:んで?この質問は何だったんだ?

玲奈:えー?あー…ほら、一か月後にはクリスマスじゃない?あたし彼氏できたからさ~プレゼント、何あげよっかなーって

小林:へぇ、お前に彼氏、ねぇ

玲奈:ちょっと、バカにしてない?

小林:いや別に。じゃあお前、クリスマス予定あるのか?

玲奈:へ?まぁ?多分?

小林:なんでふわっとしてんだ

玲奈:ま、まだ決めてないっていうか?

小林:ふぅん

玲奈:なんでそんなこと聞くのよ

小林:いや、空いてるなら伊藤さん達とまたクリスマス会でもやるのかなって。だったらいいなって

玲奈:はぁ?どういうこと?

小林:俺今年、クリスマスの取り締まり当たっちまったんだよ

玲奈:取り締まり?

小林:お前らは知らなかっただろうが、夏休みとかクリスマスとか、高校生が浮かれて羽目を外すとロクなことが起こらないから、そういう日は午後8時以降、先生方で手分けしてパトロールすんだよ

玲奈:げ。そんなことしてたの?

小林:サビ残でな。労基に訴えよっかなってマジで思うわ

玲奈:じゃあ今年は美樹、独りぼっち?美樹はそれ知ってるの?

小林:いや、予定発表されたのつい昨日、まだ言ってねぇんだよ…くそっ

玲奈:ありゃま

小林:とりあえず仕事できるだけ捌いて美樹のプレゼントくらいは選んでやりたいんだが…あ、そだ玲奈

玲奈:なによ

小林:あいつって、何が欲しいんだ?

玲奈:え?

小林:お前ら仲良いから欲しいものくらいわかるだろ?10も下の女が何を欲しがってるか、まるで見当つかねぇ

玲奈:うーん…美樹なら多分

小林:多分?

玲奈:あんたと会える時間じゃない?

小林:…俺も欲しいって…お前用件それだけならそろそろいいか?今作ってる書類、提出明日なんだわ

玲奈:あ、うん、ありがとね…


0:通話終了


玲奈:逆質問してくるなっつの。全然参考になんないじゃない、ったく


0:数日後、喫茶店にて


有希:あ

小林:あ

有希:…また会いましたね。先生、結構ズタバ好きなんですか?

小林:ここら辺でWI-FIが入る喫茶店がここぐらいしかないので

有希:なるほど。…あのぅ、また相席いいですか?席無くて

小林:どうぞ。…ああそれと、この間はどうも。よくも人の彼女にキスマークなんてつけてくれましたね

有希:あ~…まだ怒ってます?

小林:そりゃまあ。伊藤さんが女性でなければ手が出てたかもしれません

有希:ガチギレじゃないですか!

小林:二度目はないと思ってください

有希:ほんと先生キャラ変わったよね

小林:そうですか?…ところで、今年はやっぱりあなた方は集まらないんですか?

有希:え?

小林:クリスマスですよ。まあ、松野さんに彼氏ができたんじゃ、クリスマス会なんてやらないか

有希:えええ!?玲奈に彼氏!?

小林:あれ、聞いてないんですか?

有希:聞いてませんよ!初耳ですよ!え?玲奈に彼氏!?マジで!?

小林:だそうですよ

有希:先生、誰からそれ聞いたんですか?美樹?

小林:いや、本人から直接

有希:えええええ!?どゆこと

小林:声が大きいです、伊藤さん

有希:ええ~?できたんなら言ってよぉ~なんで教えてくれないのよ~

小林:ところで伊藤さん

有希:なんですかっ!

小林:やつ当たらないでください。伊藤さん、今欲しいものありますか?

有希:はぁ?クリスマスプレゼントの参考にしたいなら本人に直接聞いてください

小林:察しのいいことで

有希:まぁ?付き合って9か月くらい経つ彼氏から貰いたいものなんて、一つしかないですけどねぇ

小林:なんでしょう

有希:指輪ですよ、指輪!

小林:…早すぎませんか?

有希:そんな重たいもの想像しないでくださいよ。プラチナ素材渡されたら重すぎて引きますって。シルバー素材の安いやつで考えてください

小林:でも、そう遠くない将来、プラチナを贈るつもりなんですけど

有希:え?小林先生って、そこまで考えて美樹と付き合ってるんですか?

小林:むしろ、そこまで考えずに元教え子と関係を持つと思ってたんですか?

有希:いや、もし結婚したら面白いな~とは思ってましたが

小林:僕は本気の恋愛しかできません。もちろん、付き合っていくうえでどうしてもすり合わせができなかったり、嫌われてしまったらそれまでですが

有希:先生っていい男だったんだね

小林:普通だと思いますが。なので伊藤さん、僕の彼女に二度と変なことしないでくださいね

有希:わ~怒りが未だにやばたにえーん


0:クリスマス当日。玲奈の家


玲奈:それではっ!聖夜の夜に、乾杯っ!

美樹:乾杯っ

有希:かんぱ~い

玲奈:いや~今年も三人でクリパするとはねぇ~

有希:ほんとよ。小林先生から玲奈に彼氏ができたって聞いたときは、あ~今年はないわな~って腹括ったんだから

美樹:え!?玲奈、彼氏できたの!?

玲奈:違う違う!有希には訂正したけど、あれは話の流れでそーなっただけ

有希:どんな話の流れでそーなるのよ。…そう言えば美樹、小林先生にプレゼント買ったんだよね?何にしたの?

美樹:マフラー。先生、今使ってるマフラーボロボロだったから。3年間ずっと同じのつけてたし

有希:おーおー、よく見てんな

玲奈:さすが元小林フリーク

有希:マジでストーカー一歩手前だったかも

美樹:もー!そんなんじゃないよっ!……でもほんと、夢みたい

玲奈:え?

美樹:あんなに大好きで、ずっとずっと想ってた人が、まさか私の彼氏になってくれるなんて

有希:美樹…

美樹:今でもね、時々夢なんじゃないかなって思うんだよ。すっごく自分に都合のいい甘い夢を見続けてる気がするの

有希:美樹…コバセンは、ちゃんとあんたのこと好きだよ

美樹:だったら嬉しいな。私の気持ちのほんの10分の1でも好きって思っててくれたら…すごく嬉しいなぁ

玲奈:はいはい、そういうことは本人に直接聞いて!ほら、コップ貸して、コーラ注いだげるから

美樹:わーい、ありがと

有希:…私に牽制する暇があるなら、大事な彼女不安にさせるなっつの…


0:3時間後


美樹:あ

玲奈:どした?

美樹:着信来た、先生から。…ちょっと出ていい?

有希:どうぞどうぞ

美樹:ありがと!…もしもし先生?……ええ!?

玲奈:どしたの?

美樹:えと、先生、近くに来てるんだって。出てこれる?って

玲奈:へぇ?

有希:行っといで行っといで。そんで文句の一つもぶつけてらっしゃい

美樹:有希ったら。…ごめん、ちょっと行ってくるね


0:美樹退出


有希:あー…あたしも彼氏欲しい…

玲奈:お、有希が言うなんて珍しい

有希:…玲奈、彼氏出来たら一番に報告してね?コバセンから聞いたとき、地味に傷ついたんだからね?

玲奈:わかったわかった。じゃあ有希も、彼氏出来たら一番に報告してね。約束

有希:はーい


0:玲奈の家のすぐ近くのコンビニにて


美樹:先生!

小林:ごめんね、こんな夜遅くに呼び出して。まだ玲奈の家にいるかなって思って

美樹:終電で帰ろうと思ってたから、もうちょっと平気

小林:家まで送っていきたいところなんだけど、すぐ戻らなきゃいけないから

美樹:見回りだよね?

小林:そ。少しだけ抜けてきた。なんでこんな日に当たるかなぁ。…まあ、田口先生のとこは新婚だし、稲垣先生のとこは子供生まれたばっかだし、仕方ないんだけど

美樹:あ、稲垣先生お子さん産まれたんだ

小林:うん、最近はひたすら子供写真見せてきて「可愛いだろー」って親バカ全開

美樹:へぇ

小林:ああ、それで…はい、これ

美樹:え?

小林:クリスマスプレゼント

美樹:えっ!?プレゼント!?

小林:なんでそんなに驚くの

美樹:いや、てっきり無いかなって思ってたから

小林:イブの夜に、わざわざ時間作って彼女に会いに来たのに手ぶらはないよ

美樹:…開けていい?

小林:どうぞ

美樹:先生、これって…

小林:美樹に似合うかなって思って。安物だけど

美樹:指輪…つけていいの?

小林:むしろつけてくれないと泣きます

美樹:泣くの!?

小林:泣くよ。めっちゃ泣く

美樹:もう!薬指、つけていい?

小林:お願いします

美樹:……えっと、どっちの手につけたらいい?

小林:右、かな

美樹:そ、そっか、右、だよね

小林:左は、もっとちゃんとしたやつ渡すまで空けといて

美樹:え…それって

小林:なに?

美樹:えと、先生は、その

小林:…さっきから、呼び方が先生になってますよ、近藤さん?

美樹:こ……近藤さんはずるいです

小林:じゃあ美樹も戻して?

美樹:…さとるは、その、私のこと好き?

小林:今更?

美樹:…私、4日後19歳になります

小林:そうだね

美樹:クリスマスプレゼントと誕生日プレゼントは、一緒にされたくありません

小林:ほう?

美樹:さとるに、誕生日プレゼントを要求しますっ!

小林:…どうぞ?

美樹:私のこと、好き?

小林:そうきたか

美樹:私が思ってる気持ちの、ほんの少しだけでもいいからっ……好き、ですか?

小林:好きですよ

美樹:っ…!

小林:多分、美樹が想像してる100倍以上、好きだよ

美樹:ほんとに?ほんとに?

小林:なんで疑うかなぁ

美樹:だって…だってぇ…今まで一度も言ってくれなかったから…

小林:言ったことあるよ?

美樹:嘘!?いつ!?

小林:内緒

美樹:ひどいっ

小林:…不安だったの?

美樹:…先生は、憧れの存在だったから。可愛くてかっこよくて眠たげで冷静で大人で優しくて…そんな先生が、名前で呼んでくれて、手つないで、可愛いって言ってくれて…

美樹:私、全然想像できなかったから。だから、今でも私ばっかりが好きなんじゃないかな、これは夢なんじゃないかな…先生は私の夢に気まぐれに付き合ってくれてるだけなんじゃないのかな…って

小林:俺、そんな不誠実な付き合い方しないよ?言わなくても伝わると思ってたんだけどなぁ

美樹:…言葉にするのって、大事だと思います

小林:ぐうの音も出ません

美樹:好きだよ

小林:知ってる

美樹:ほんとに好きなんだよ

小林:だから知ってるって

美樹:…知ってるだけ?

小林:どうにも言わせたいんだ?

美樹:…うん。私あの頃よりずっと、わがままになっちゃったから

小林:美樹?

美樹:ずっと、見てるだけでよかったのに、今はもうだめ。さとるに好きって言われたい、同じだけ好きって思われたい。…ね?随分、わがままになっちゃったでしょ?

小林:そうだね

美樹:嫌になった?

小林:……困ったことに、全く嫌じゃないんだよなぁ、これが

美樹:え?

小林:好きだよ、美樹。…あんまり言葉にすると、なんか安っぽくなる気がして言えなくて

美樹:なにそれ!じゃあ今までの私の告白、すっごい安っぽいじゃん!

小林:…だよね。そんなことないって、知ってるのにね

美樹:プレゼント、ください

小林:はい。…好きだよ、美樹

美樹:もっとください

小林:大好きだよ。不安にさせてごめん

美樹:もっと!

小林:えー?欲張りだなぁ

美樹:…キス、やっぱりまだ、だめ?

小林:…だめ

美樹:えぇぇぇ!?やっぱり二十歳までおあずけなの!?

小林:…俺、戻んなきゃいけないのよ、見回り

美樹:え?うん

小林:ほんとに、今したら多分、速攻ホテル連れてく自信しかないから…だから、今は待って

美樹:ふぇっ!?…さとるって、えっち?

小林:多分、美樹の想像の100倍は

美樹:ひゃ

小林:あと一つ訂正しておくと、誕生日プレゼントは4日後のデートで選んでもらうつもりなので。ごっちゃにはしてないからね?

美樹:あ、でも、プレゼントもうもらっちゃった

小林:欲しいもの、考えておいて

美樹:私はさとるの唇がほしいんだけどなぁ

小林:黙って

美樹:ちゅーしてくれたら静かになるよ?

小林:ほんと…勘弁してくれ

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