第7話 10月、ハロウィンにキスマーク
0:10月、有希の家
有希:お~いい感じに膨れてるね
美樹:ほんと、美味しそう!
玲奈:シュークリームって初めて作ったけど、ほんとに家で作れるんだねぇ
有希:あ、焼きあがってもいきなりオーブン開けちゃダメよ、せっかく膨れたのがしぼんじゃうから
美樹:はーい
玲奈:有希ってホント、なんでもできるよね
美樹:そうそう。高校の時も、よく自分でお弁当作ってきてたし。有希の卵焼き、甘くて好きだったなぁ
有希:あんたらが持ってくからいつも多めに作ってたわよ
玲奈:おかげであの頃、あたし太っちゃったよ
有希:それは私のお弁当つまんだせいじゃなくて、いつもお菓子食べてたせいでしょ
玲奈:そーだっけ?
有希:ったく
美樹:でも、いいのかなぁ
玲奈:なにが?
美樹:いや…明日、ほんとに高校行ってもいいのかなって
有希:またそれ?卒業生が母校の文化祭行っちゃダメなわけないでしょ。毎年OBOG来てたじゃない
玲奈:そーそー!演劇部の後輩にも「劇見に来てくださいね!」って言われてるし
美樹:でも、先生に「ここには二度と来るな」って言われてるし
有希:それ、卒業式の日の言葉でしょ?卒業したのに生徒として何度も訪問するな、って意味しかないわよ
玲奈:文化祭は別でしょ。卒業生として訪問していい日に堂々と訪問するのに、元担任にギャーギャー言われるわけないじゃん!
玲奈:それに、久しぶりに見たくない?先生として振舞ってる彼氏の姿とかさぁ!
美樹:それは見たい…見たいけど…
有希:それに明日はハロウィン!せっかく作ったシュークリーム、先生に食べさせてあげなきゃ
美樹:うん…そうだね
有希:皮が冷めるの待つ間に、カスタード仕上げちゃうよ
玲奈:私、生クリームも入れたい!
有希:って言うと思って、準備してありまーす
玲奈:さすが有希っ!天才っ!!
美樹:ほんとに、いいのかなぁ…
0:次の日。高校の文化祭にて
有希:あ~いたー!!
玲奈:コバセンはっけーん!
小林:えぇ?お前らどうして…ってまあ、そうか
有希:OGが母校の文化祭に来ちゃいけない理由はないでしょ
小林:そりゃそうだ
有希:だってさ、美樹
0:玲奈の後ろから顔を出す美樹
美樹:こ、こんにちわ~
小林:近藤さんも来たんですね
美樹:来ちゃいました…やっぱり、ダメでした?
小林:なんでですか?
美樹:いや、卒業式の日、来るなって言ったから
小林:気にしてたんですか
美樹:はい…
小林:ほんとに、あなたはバカですね
美樹:バ…バカじゃないです…
有希:ちょっと~二人の世界作らないでもらえますー?
玲奈:校内でラブラブしないでくださーい
小林:しませんよそんなこと
有希:でも美樹相手にだけ、声が優しいんですけどー?
小林:気のせいです。あんまり他の生徒にべらべら余計なこと話さないでくださいね
有希:余計なことって?先生の彼女が来てることとか~元教え子ってこととか~?
小林:わかってるなら黙っててください
有希:あ、せんせーも一緒に見て回ります?
小林:仕事があります
有希:って言うと思った~
美樹:あ、あの、先生
小林:なんでしょう
美樹:今日、ハロウィンなので、シュークリーム作ってみました。その…初めて作ったので美味しくないかもしれないんですけど
小林:…あとでいただきます
有希:先生嬉しそうだねぇ~意外にポーカーフェイス苦手~?
小林:伊藤さん
有希:あ、先生、トリックオアトリート!
小林:なんですかいきなり
有希:だから、ハロウィンだって!お菓子をくれなきゃイタズラするわよ~?
玲奈:べらべらいろんなこと喋っちゃうよ~?
小林:お前まで…ったく…………ほら
有希:え?
玲奈:これって
小林:生徒からもらった、模擬店のチケット。これで勘弁しろ
有希:まじ?やったぁ!先生神!
小林:安い神だなぁ
玲奈:んじゃ、あたし先行ってるね!後輩の劇、今回はリキ入ってるんだって。場所取りしとく
有希:じゃあ私トイレ寄ってから行くわ。コバセン、チケットありがとね~
小林:はいはい
0:玲奈・有希退場
美樹:あ、あの先生
小林:…なに?
美樹:ほんとに来ても、よかった?
小林:…いいよ。ひと月ぶりに顔見れて嬉しい。シュークリームも、ありがと
美樹:玲奈から、好物だって聞いたから。ハロウィンっぽくないんだけど
小林:いいよ、ハロウィンの存在自体忘れてたし…ああ、だから、渡せるお菓子とか用意してないんだけど
美樹:そんなのいいよ!なんにも言わずに押しかけたんだもん、気にしないで
小林:美樹にならいいよ?悪戯されても
美樹:えっ
小林:お菓子用意してないから、お好きにどうぞ?ただし、校舎から出た後でお願いしますね、近藤さん
美樹:は、はい…
小林:楽しみにしてます
美樹:ひえっ
0:2時間後
玲奈:ん~周った周った~楽しかった~もうこれでほとんど見て回ったよね
有希:だね。でも、卒業してまだ1年しか経ってないのに、懐かしさよりもお客さん感ない?もうここはうちらの学校じゃないんだな~って
玲奈:わかる。来客用の入り口から入って緑のスリッパ履いたときに、ああもうここは「ただいま」っていうか「お邪魔します」なんだなーって思った
有希:やっぱり?……美樹
美樹:え?
有希:どうしたの?ぼーっとして
美樹:あ、いや
玲奈:さっきからずっと無反応なんだけど
有希:さては小林先生となんかあったでしょ~?
美樹:ええ!?
有希:その反応、図星か
玲奈:もー、私の可愛い後輩の劇、ちゃんと頭に入ってたでしょうねー?
美樹:そ、それはもちろん
有希:コバセンに何言われたの?
美樹:え?ええと
玲奈:吐け吐け
美樹:…お菓子用意してないから、悪戯してくださいって
玲奈:えぇ!?
有希:そうきましたか
美樹:ねぇどうしよう?悪戯ってなにしたらいいの!?
有希:真面目か。あんたそれでさっきからぼーっとしてたの?
美樹:だ、だって!悪戯ってなにしたらいいの!?脇くすぐるとか!?
玲奈:あいつくすぐり攻撃効かないよ
有希:なんであんたがそんなこと知ってんのよ
美樹:じゃ、じゃあブーブークッションとか買ってくればいいのかな!?
有希:なんでそうなるの
美樹:だってぇ!全然思いつかないんだもん!!
有希:そうねぇ…
玲奈:有希だったらどんな悪戯する?
有希:私?
玲奈:そう。いっつもアイディア出すのは有希じゃん
有希:そうねぇ…恋人相手の悪戯でしょ?私だったら……つけるかな
玲奈:何を?
有希:キスマーク
美樹:キスマーク!?
有希:うん。こう、服で隠れるか隠れないかのギリギリのところにチュッ…って。あんまり見えるところにつけてほんとに困らせるのもかわいそうだし
玲奈:有希って、ほんとに私らと同い年?10人以上と経験あるでしょ
有希:ないわよっ
美樹:キスマークって、どうやってつけるの?
玲奈:つける気なの!?
有希:皮膚の薄いとこ軽く吸い上げるのよ
玲奈:有希やっぱり経験者だよね!?
美樹:皮膚の、薄いとこ
有希:首筋とか鎖骨の上とかが、狙い目かな?
美樹:でも、痛くない?キスマークって、要は皮膚赤くするんだよね?
有希:ん?じゃあ、美樹、ちょっとこっちおいで
美樹:え?
有希:こうやって、唇で首筋の皮膚ちょっとだけつまんで
美樹:え?え?
玲奈:ちょお!
有希:…はい、できた。どう?痛かった?
美樹:え?ついたの?見えない
有希:気になるなら鏡で見ておいで。薄っすらとしかつけてないから、明日には消えてるよ
美樹:う、うん
有希:あれ?玲奈、どうしたの?
玲奈:なんか、見ちゃいけないものを見た気がする
有希:ええ~?玲奈にもつけてあげようか?キスマーク
玲奈:やめて!なんか孕みそう!
有希:孕むってなに
美樹:あたし、鏡見てくる
有希:いってら~
0:美樹退場
有希:あ。私今、ものすごく怖いことに気づいちゃったんだけど
玲奈:なに?
有希:美樹って、この後小林先生に会うんだよね
玲奈:そうなんじゃない?悪戯の方法聞いてきたんだから
有希:つけた私が言うのも何なんだけど…いくら薄いって言ってもさ…あの跡、2、3時間じゃ消えないよね、多分
玲奈:あー…多分?
有希:次先生に会ったら、私殺される?
玲奈:あー…女子はノーカン……してくれるかなぁ?いやぁ…さとにぃのあの性格じゃあなぁ
有希:だ、大丈夫だよね!ね!
玲奈:しーらない
有希:ええ?玲奈ぁ!
0:2時間後。駅で待つ美樹を車で迎えに来た小林
小林:お待たせ
美樹:お仕事お疲れ様です
小林:ありがと。お腹空いてるでしょ?何食べたい?
美樹:なんでもいいよ!せんせ…あ、さとるの食べたいもので
小林:あいつらといるといっつも呼び方戻るね
美樹:さっきまで学校にいたのもあるかも。ああ、この体育館で眠そうな先生のこと見てたなぁって
小林:校長先生の話長いんだよなぁ
美樹:わかる!だからずっと、先生の顔ばっかり見てたんだよね
小林:眠気覚ましになってましたか?近藤さん
美樹:そ、その!近藤さんは…卑怯です
小林:なんで?
美樹:わ、私の青春全部持ってった人がそばにいるなって思って…
小林:(小さく)未来も全部持ってくつもりなんだけど
美樹:え?
小林:なんでも。それより、美樹
美樹:あ、はい
小林:悪戯考えてくれた?
美樹:う…
小林:学校からここまでの間にコンビニあったから、なんかお菓子買ってきてもよかったんだけど…せっかくなので、悪戯してもらおうかなと手ぶらで来ました。今飴の一つも持ってないよ?
美樹:さとる、楽しそう
小林:ハロウィンなんて縁遠いイベントだと思ってたからね。まさか手作りのシュークリームもらえるなんて
美樹:お、美味しかった?
小林:最高に
美樹:ホント?
小林:ほんとほんと。ごちそうさまでした
美樹:よかった~
小林:それで?俺は何をお返ししたらいい?
美樹:えぇ~?
小林:って、これじゃ俺が悪戯仕掛けてるか。じゃあ美樹が食べたいもの決めていいよ
美樹:うー……
小林:美樹?
美樹:…さとる、車停めて
小林:え?あ、ああ。
0:車停車。美樹、シートベルトを外す。
美樹:……今から、さとるに悪戯します
小林:ええ?
美樹:トリックオアトリート!
小林:…残念、お菓子はありません
美樹:…じゃあ、悪戯します
小林:どうぞ?何してくれるんですか?
美樹:シートベルト外してください
小林:はいはい。…次はどうしましょうか
美樹:…黙っててください
小林:え?ちょ、美樹!?
美樹:えっと…首筋の…ギリギリ…
小林:ま、え、ちょ、タンマ
美樹:軽く…吸う
小林:んっ…
美樹:……あれ
小林:美樹…?
美樹:おかしいなぁ…つかない
小林:えっと…
美樹:もっかい
小林:ま、待って
美樹:ん…んん……
小林:ちょっと、待って!
美樹:え?も、もしかして痛かった!?ごめん!
小林:いや、痛みはない…んだけど…えっと…?
美樹:え、ええと…
小林:もしかして、キスマーク、つけようとしてた?
美樹:…ばれた?
小林:なんっ…なんでそんな発想に
美樹:だ、だって有希がぁ!
小林:伊藤さん…!
美樹:おかしいなぁ…なんでつかないの?
小林:まあ、最初は結構コツがいるから
美樹:ええ?でも有希はつけてくれたよ?ほら
小林:え?……なにこれ
美樹:有希がね!ついさっきチュって
小林:美樹
0:強引に美樹を抱きしめる小林
美樹:え?わあっ…!?え、さとっ
小林:んっ…(リップ音)
美樹:きゃあ!く、首筋舐めないでっ…くすぐったっ
小林:へぇ?敏感なんだ
美樹:ちょ、待って待って待って、ひゃぁ
小林:なんで人が必死に我慢してるのにこんな跡つけられて来るかなぁ?
美樹:さとる、まっ
小林:待たない
美樹:あ、ちょ、耳はダメっ
小林:耳も、でしょ
美樹:そこでしゃべっちゃ嫌ぁ、あ、噛んじゃだめっ
小林:全部否定しないでよ、美樹
美樹:ひっ…!待って、ほんと待って、先生っ
小林:っ…今その呼び方は反則でしょ
美樹:ほんと、ほんとだめ、なんか変になるから!
小林:美樹はさぁ…(首筋撫でて)ずるいよね
美樹:な、撫でるのもだめぇ!
小林:キスマーク、だっけ?つけ方、教えてあげるよ
美樹:え?や、やぁ
小林:(リップ音)…ほら、ついた
美樹:ゆ、有希のやり方と全然違う…
小林:もし一緒だって言われたらこのまま家まで連れて帰るよ
美樹:見えてないんだけど、その、結構跡、ついた…?
小林:しばらくはストール巻いて過ごしてね
美樹:ええ!?そんなに!?
小林:美樹、今回だけは止まってあげる
美樹:え?
小林:次また他の誰かにつけられたら、その助手席のシート倒して全部もらうから
美樹:ええ…!?
小林:俺が優しい大人でよかったね
美樹:どこが優しいのよぉ…
小林:さ、さっさと服直して。目の毒
美樹:勝手すぎる!
小林:この件に関しては完全に美樹が悪い
美樹:ええ!?…なんか、私のほうが悪戯された気がする…
小林:さ、美味しいごはん食べに行くよ。ご飯になりたくなかったら、大人しくシートベルトつけてくださいね、近藤さん
美樹:せ、先生のバカ~!
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