第4話 5月、初デート

0:遊園地エントランスにて


小林:近藤さん

美樹:あっ先生!

小林:お久しぶりです

美樹:お久しぶりです…

小林:卒業式から…2か月ぶりですか。髪、伸びましたね。それに巻いてる

美樹:はい…おしゃれしてみました…変ですか?

小林:可愛いと思いますよ

美樹:かわっ

小林:なんです?変な声出して

美樹:だ、だってだって!可愛いなんて、そんなの今まで一度も

小林:言えるわけないでしょう、生徒相手に

美樹:そりゃそうですけど!でも!

小林:言われたかったんですか

美樹:はい

小林:じゃあこれからたくさん言います

美樹:ええ!?

小林:なんで驚いてるんですか

美樹:だ、だってだってだって!今までなら絶対

小林:だから。今までと違うんですから。さっさと慣れてください

美樹:は、はい…

小林:ラインじゃいつもテンション高いのに。…もしかして緊張してますか?

美樹:だってぇ…2か月ぶりのナマ小林先生ですよ?それになんか、いつもと違ってピシッとしてるし

小林:玲奈に服を総とっかえさせられました。Tシャツもズボンもジャケットもみんな買い直せと

美樹:玲奈め

小林:どうしましたか。似合いませんか?

美樹:似合うに決まってるじゃないですか!!

小林:なんで喧嘩腰なんですか

美樹:…あの

小林:なんでしょう

美樹:こんなにかっこよくなっちゃったら、人気出たりしてませんか?

小林:はい?

美樹:先生昔っからモテてたのに…あんまりかっこよくならないでほしいです

小林:モテた記憶なんてありません。僕に言い寄ってきたのは、物好きなあなたぐらいです

美樹:それは先生が鈍感だからです!

小林:…あの

美樹:なんですか?

小林:それ、そろそろやめませんか?

美樹:それ?

小林:先生って呼ぶの

美樹:あ…

小林:あなたはとっくに僕の生徒じゃありません。今日僕は、彼女との初デートに来たつもりなんですが

美樹:はい…

小林:…近藤さん

美樹:はい…

小林:顔、真っ赤ですよ。可愛い


0:そのころ、エントランスを覗く人影が。


有希:ちょっと、あいつらいつまで入り口にいるつもりなの?

玲奈:見て見て!美樹の顔、真っ赤!

有希:あんた目いいわね。ったく…さっさと遊園地入ればいいのに。何しに来たんだか。

玲奈:あ、顔覆っちゃった。もう!小学生か!

有希:んで、なんであたしらまで遊園地来てるのさ

玲奈:だって遊園地なんて中学以来来てないし?遊園地行くって話聞いてからさ、あたしも来たくなっちゃって。有希にも久々に会いたかったし!

有希:まさか、しょっぱな二人を見つけるとは思わなかったけどね

玲奈:あ、動いた。行くよ、有希

有希:行くよって、あんたまさかつけるつもり?やめときなよ、初デートなんでしょ?ほっときなよ

玲奈:だって他のどんなアトラクションより面白そうじゃない!

有希:わー悪い顔してるー

玲奈:それに、美樹たちの行く方向、有希が乗りたがってたジェットコースターの方だよ!ついでだよ、ついで!

有希:はいはい


0:美樹サイド。


美樹:あの

小林:なんでしょう

美樹:せんせ…あ、えと…

小林:呼ばないんですか?

美樹:え?

小林:友人の前では呼んでたでしょ。僕の名前。さとるって

美樹:そ!れは、その

小林:近藤さん、涙目になってますよ

美樹:からかってますよね!

小林:ばれましたか

美樹:じゃあ、じゃあ先生だってその、近藤さんっていう呼び方おかしいです!

小林:…確かに

美樹:そ、それに!敬語も!

小林:…そうだな。じゃ、美樹って呼ぶから

美樹:えぇ!?あっさり変えた!

小林:大人だから、これくらいは臨機応変に行かないと

美樹:…今日の先生、別人みたい

小林:美樹?

美樹:顔覗きこまないでください!

小林:だったら先生呼びは封印して

美樹:うう…善処します

小林:敬語も取って

美樹:はいっ…あー……わかった

小林:よくできました


0:玲奈サイド。


玲奈:ねぇ、なにあのさとにぃの顔!今まで見たことない顔してるんだけど!

有希:さとにぃ?

玲奈:えー美樹めっちゃ乙女の顔してるじゃん!いいなぁいいなぁ!私も好きな人とデート行きたいなぁ

有希:悪かったわね、相手が私で

玲奈:んなことないよ!昨日の今日で連絡して来てくれる有希大好き!愛してる!ちゅーしたげる!

有希:いらないわよ。ってか、さすが日曜日の遊園地。ジェットコースターめっちゃ並んでんね

玲奈:入口の待ち時間60分って書いてあったよ

有希:え、マジ?じゃあ空いてるところから回ろうよ

玲奈:えー?でもそしたら美樹たちのデート見れないじゃーん

有希:あんたはデートの尾行をするために遊園地に来たの?それとも2か月ぶりに会う私とデートしたくて遊園地に誘ったの?

玲奈:有希、怒ってる?

有希:怒ってないわよ。拗ねてんのよ

玲奈:ああん!ごめん有希!大好き!愛してる!じゃああっちのバイキング行こっ

有希:ジュースも奢って

玲奈:もちろん


0:美樹サイド。


小林:はぁ…行ったか

美樹:え?

小林:なんでも。美樹

美樹:は、はい!

小林:声、上ずってる

美樹:う…慣れません

小林:早めに慣れて。今日出かけること、誰かに話した?

美樹:え?えっと、昨日、玲奈にちらっと

小林:やっぱり

美樹:ま、まずかったですか?

小林:別に。もう大丈夫。

美樹:あ、あの、お願いがあるんですけど

小林:敬語

美樹:え、あ、あの、お願いが、あって

小林:なに?

美樹:その……手を

小林:ん?

美樹:手を、繋いでも、いい…?

小林:まあ…手だけなら

美樹:え

小林:美樹。俺は、知ってると思うけど、生徒に対して必ず一線引いて立ち振る舞ってる。なんでだと思う?

美樹:え?ま、真面目だから?

小林:違う。いや、それもあるけど

美樹:……子供に言い寄られても困るから?

小林:言いながら自分で傷つかないで。確かに子供は対象外だけど、美樹はもう例外だから

美樹:じゃあ、どうして引いてるの?

小林:一回タガが外れると、止まれなくなる性質(たち)だから

美樹:え?

小林:結構執着がすごいし、大人の恋愛を要求する。多分、美樹が想像してる以上のことを普通にする

美樹:えっと…アダルティな

小林:そ、アダルティな。…二十歳まで、手は出したくないんだ。ほんとに。子供だって思ってるのも少しあるけど、大事にしたいって思いもあるから

美樹:はい

小林:…だからさ、あんまり煽らないでね。自信ないから

美樹:…はい。あの、先生

小林:呼び方

美樹:さ、さとる

小林:なに?

美樹:早く二十歳になるから、そしたら、ちゅーしてね

小林:……そういうとこだって

美樹:え?

小林:俺…まじで自信ないわ。さっさと歳取ってくれな

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