第3話 勘弁しろよな…


0:更に時は流れて卒業式。

0:教室で黒板を眺めている小林を見つけた美樹が、勢いよく教室に入ってきた。


美樹:せんせー!いたー!!

小林:まだ残ってたんですか、近藤さん

美樹:だってまだ先生と写真撮ってないんだもん!

小林:さっきクラスの集合写真撮りましたよね

美樹:そうじゃなくて、ツーショット!

小林:こっそり隠し撮りされたの知ってますが

美樹:あ、ばれてた?

小林:アングルに収まるよう伊藤さんとつきまとってましたよね

美樹:あちゃーばれてないと思ってたんだけどなぁ

小林:…黒板、消してしまいますね

美樹:この黒板アート、めっちゃできてるよね~だれが書いたんだろ

小林:……僕ですが

美樹:へ?

小林:だから、僕です

美樹:えええ!?この桜先生が書いたの!?めっちゃリアルでみんな撮りまくってたよ

小林:知ってますよ

美樹:そりゃそっか。すごい。先生絵、得意だったんだね。知らなかったよ

小林:そりゃどうも

美樹:…ねえ。もう一枚、撮っていい?

小林:え?もう半分以上消しちゃいましたよ

美樹:ううん。黒板じゃなくて。先生のこと

小林:僕ですか

美樹:そう。先生。単体で

小林:単体ですか

美樹:あ、一緒に自撮りしてくれるならそれでも

小林:お断りします

美樹:ちぇ。先生、そこの窓のそば行って

小林:はいはい


0:言われた通り窓のそばに移動する小林。

0:美樹は携帯を取り出し、構えるが…シャッターを切る音はなかなか聞こえてこない。


小林:近藤さん?

美樹:……ねえ先生

小林:なんですか

美樹:好きだよ

小林:…知ってます

美樹:好きだよ。ほんと、大好きだよ

小林:…95回目……いや、96回目かな

美樹:やだ、数えてたの?

小林:最初は動揺しましたね。あなためちゃくちゃ震えてたし、さてどうしたものかと。困ったなと

美樹:や、私そんなだった?

小林:ええ。でもあなたは…付き合ってくれとは言わなかった。僕からノーを言われないよう、ただただ言葉を口にした

美樹:ばれてたんだ

小林:そりゃ、まあ

美樹:…今までの告白全部、本気だったよ

小林:知ってますよ

美樹:私ら女子はさ、気が変わるの早いからさ。特に怖いものなしのJKはさ、もう朝と昼で言ってること違ったりするじゃん?だからさ…先生も、そう思うと思ってさ

小林:知ってます

美樹:私っ…言える時に言おうって…先生のこと、昨日も大好き。今日も大好き。明日も多分、まだ大好きっ

小林:多分ですか

美樹:そうだよ。未来なんて誰にもわかんないもん!

美樹:明日の朝、すっごくかっこいいイケメンの…ほら、ドラマ出てる大石君とか美神君とか、そういうイケメンにばったり出会ってあっさり乗り換えるかもしれないじゃん

小林:そうかもしれませんね

美樹:だからさ…だけどさ…

小林:はい

美樹:だけど、多分、ずっと先生のこと好きだよ

小林:はい

美樹:私なんで先生と10個も離れてるんだろうね。なんで私は子供で、先生は大人なんだろうね

小林:なんででしょうね

美樹:……ねぇ、先生

小林:はい

美樹:卒業しても、時々、会いに来ていいかな?ほら、私県外の大学だからしょっちゅう来るのは難しいんだけどさ、連休とかさ、学校、来たらダメかな

小林:ダメですね

美樹:…っ…そう、そうだよね!ごめんねっ、変なこと言って…

小林:連休にこんなところに来たって、閉まってますよ

美樹:…へ?

小林:あなた、やっぱりバカですね

美樹:せ、せんせい?

小林:僕は…俺は、ガキと恋愛する気なんかないですよ

美樹:はい…ごめんなさい…(泣き笑いで)今までたくさん、迷惑かけて、本当に

小林:だからっ…だからバカだって言ったんだよ!

美樹:へっ?

小林:近藤さん

美樹:は、はい!

小林:誕生日いつですか

美樹:え

小林:誕生日

美樹:じゅ、12月28日です

小林:まじかよ。おっそ

美樹:え?えっ?

小林:とりあえず、もうあなたは学校から卒業してください

美樹:えっ

小林:二度とここに来ないでください

美樹:はい

小林:…それと

美樹:はい

小林:…これ、ラインに追加してください

美樹:え……これって


0:ぶっきらぼうに渡された小さな紙。そこに書かれた10ケタのアルファベットの羅列に、美樹の呼吸が止まった。


美樹:せ…先生これって!

小林:俺は!ガキと恋愛する気はない!行間の読めないガキも土足で踏み込んでくるガキもお断りだ。18歳なりたての乳臭いガキなんか抱く気になれないし、宇宙語羅列されてもわかんねえ!

美樹:は、はい

小林:学校で見せてる顔とそうじゃない顔は全然違うし、連絡も遅いし…従兄妹曰く服は伸び伸びらしい

美樹:あ、はい、それは知ってます

小林:知らない顔見て幻滅するなら好きにしたらいい。俺だって、ねーよと思ったら普通に切る

美樹:先生、それって

小林:…手ぇ出すのは二十歳になってからだから

美樹:っ…!!はいぃぃぃ……!!!先生!…好きですっ…!

小林:……知ってるよ、バカ。(優しく笑って)勘弁しろよな…

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