第2話 アシスト、しちゃう?
0:時は流れ数か月後。小林が仕事終わり自宅に戻ると、見知った顔の女が飯を食っていた。
小林:ただいま~
玲奈:おかえり~
小林:また来てんのかよ
玲奈:しゃーないでしょ。母さんが近所で大根いっぱいもらったから持ってけって言うんだもん
小林:んで、なんでうちで飯まで食ってんだよ
玲奈:恵理子おばさんが「ご飯まだなら食べて行かない?」ってホカホカチャーハン出してきたから
小林:んで?母さんは?
玲奈:牛乳切れたから買いに行った
小林:…俺の飯は?
玲奈:え~そういうこと言っちゃう系男子?「俺の飯は?」ってダサオブダサワードじゃん
小林:ちげえだろ。そのチャーハン多分俺用に作ってたやつだろ
玲奈:あ~微レ存?かもかも?
小林:宇宙語を話すな。ったく
玲奈:さとにぃ、半分食べる?
小林:要らん。先に仕事する
玲奈:家にまで仕事持って帰って来たの?社畜じゃん!
小林:誰かさんたちのノート提出が遅かったんでね
玲奈:はて?なんのことでしょう?
小林:採点も持ち帰ってきてんだから、こっち見んなよ。従兄妹とは言え、絶対アウトだからな
玲奈:わかってるわよ。さとにぃも学校の人に従兄妹だって、言ってないよね?
小林:言えるわけねぇだろ。本来身内が同じ学校とかまずいんだから。校長と教頭くらいしか知らねぇよ
玲奈:よかった~ダサコバと従兄妹とか、絶対知られたくないし
小林:おい、なんだその呼び方
玲奈:知らないの?裏でさとにぃ、ダサコバって呼ばれてるよ
小林:マジか
玲奈:なんでびっくりしてんのさ。いっつも伸び伸びTシャツ着て寝癖つけて学校来てるんだから、それくらい言われてもしゃーないでしょ
小林:そんなによれてるか?一応マシなやつから選んで着ていってるつもりなんだけど
玲奈:マジか。さとにぃ一度服全部新調したら?あと毎朝鏡見てひげ剃って寝癖治すだけでも、だいぶマシになると思うよ
小林:彼女みたいなこと言わんでくれ
玲奈:え。さとにぃ彼女いるの?
小林:ノーコメント
玲奈:なにそれ。…でもさ、いるならいるで、美樹にくらいは教えてあげてもいいじゃん?あの子マジでさとにぃラブだよ。高校生活2年半、マジであんた以外アウトオブ眼中。あたしゃマジ、つらたんでぴえんマルだよ
小林:だから宇宙語をやめろって
玲奈:んで?いるの?
小林:なにが
玲奈:彼女
小林:……いねぇよ
玲奈:なぁ~んだ。だと思った
小林:お前な
玲奈:じゃあさ、美樹に可能性ある?
小林:ねーよ
玲奈:なんでよ!即答すんなよ、ちょっとは悩めよ!美樹結構可愛いじゃん?性格も明るいしポジティブだし、男子からも人気高いんだよ?割とモテるんだよ?
小林:そーですか
玲奈:そーですかって!
小林:勘弁してくれよ。俺は子供に興味ねぇよ
玲奈:じゃあ美樹が卒業したらいいの?うちらあと半年したら卒業だよ?そしたら、美樹に可能性あるの?
小林:だから!…そういう想定してる時点でアウトだろ
玲奈:は?
小林:生徒相手に、あと数年すれば~とか考えてるだけで無理だろ、常識的に考えて。子供相手に何考えてんだって引くだろ普通
玲奈:さとにぃってさ
小林:なんだよ
玲奈:クッソ真面目だよね
小林:教師なんだからこれが正解だろ
玲奈:…でも、美樹も意外
小林:なにが
玲奈:あの「さとにぃラブっ娘」は卒業したら猛烈アタックかますために、てっきり県内の大学受けると思ってたからさ。県外志望でちょっと驚いたんだよね
小林:近藤はそんなにバカじゃないだろ
玲奈:へ?
小林:あいつは自分のしたいこと、できることをちゃんと定めてるし、それに向かって努力もしてる。教師追っかけるためだけに自分の人生捨てたりしねぇよ
玲奈:……さとにぃってさ
小林:だからなんだよ
玲奈:ううん。なんでもない
小林:はぁ?なんだそれ。…とにかく、それ食ったらさっさと帰れよ。もう暗いんだから
玲奈:はぁい
小林:ったく
0:時は流れ更に3か月後。廊下を歩く小林に声を掛ける有希。
有希:あれ、小林先生
小林:伊藤さん。日直ですか?
有希:そーそー。山内君休んじゃったから、うち一人。…あ、大変だから手伝ってよ
小林:あと残り、黒板消すだけに見えますけど
有希:女子の背の高さじゃ届かんじゃん?
小林:170あるあなたが言いますか
有希:いいじゃーん。ひとりでやるの地味に寂しいんだよ~
小林:今日は近藤さんと松野さんは一緒じゃないんですね
有希:美樹は塾。玲奈はバイト
小林:バイト?うちはアルバイト禁止のはずですが
有希:あ、やば。今の無し!
小林:ったく…おばさんにチクっとくか
有希:え?
小林:いえ、なんでも
有希:あ~あ、こんなとこ、美樹が見たら羨ましがっちゃうだろうなぁ~
小林:では帰りますね
有希:ちょお、待って!夕暮れの校舎一人マジ寂しいんだって!
小林:…はぁ
0:両手で「お願いします」のポーズをとる有希に、諦めて黒板消しを手に取る小林。
0:暫くの間黙々と黒板を消す二人だったが、有希が沈黙を破る。
有希:…ねぇ、先生
小林:なんでしょう
有希:先生にとって、大人と子供の境界線ってどこだと思う?
小林:はい?
有希:いや、子供っぽい大人もいるし、めっちゃ成熟してしっかりしてる子供もいるじゃん?
有希:それをさ、18歳でばしっ!と線引いて、はいここから大人ですよ、誕生日迎えたら大人ですよ、ってなんか、感覚としてわかんないっていうか
小林:突然センチメンタルですね
有希:いや~この前家に選挙のはがき届いてさ~私が大人かよって思って
有希:しかもこの間まで二十歳から大人だったのに、それこそ大人たちの都合で大人になるの早められたじゃん?なんつーの?えっと-
小林:理不尽ですか?
有希:そう、理不尽!
小林:大人になるってことは理不尽を理不尽だなって思いながら呑み込んでいくことですよ
有希:お、先生もセンチじゃん
小林:夕焼けのせいですね
0:一旦途切れた会話を埋めるように作業を再開する小林。しかし動き出そうとしない有希。
小林:伊藤さん?サボるなら手伝いませんよ?
有希:先生はさー…うちらのこと絶対恋愛対象として見ないよね
小林:見たら負けだと思ってます
有希:それって職失うから?社会的にアウトだから?
小林:そういう質問をしてる時点で子供なんですよ。僕の恋愛対象は大人限定です
有希:先生にとって大人ってなに?
小林:成人してる人。いや、恋愛対象っていう意味の大人なら、酒の飲める二十歳から
有希:えぇ?ばっさり線引くタイプの人間?
小林:それだけが唯一、明確に線引きできる基準なんですよ。伊藤さんが言った通り、大人になり切れてない大人も、妙に悟った大人みたいな子供も、年齢は平等じゃないですか
有希:ええ?ってことはさ、美樹の恋は絶対成就しないじゃん
小林:はぁ…また近藤さんですか…
有希:あれだけ好き好き追っかけまわしてたら応援したくもなりますよ
小林:こっちの身にもなってください
有希:うっかり好きになっちゃうかもしれないから?
小林:ありえません。大体、高校生の恋心なんて、はしかみたいなものです。彼女の場合、それがちょっと長いだけ
有希:それはひどくないですか?美樹は美樹なりに、本気で先生のこと好きですよ
小林:でも僕は好きじゃない。あー…いや、生徒としてなら可愛いですよ、みんな等しく
有希:うわ。小林先生って意外に毒吐くタイプでしょ
小林:気づきましたか。…こういう一面を、僕は対等にお付き合いする女性になら見せます
有希:え。マジ?
小林:マジです
有希:じゃあ甘えたりとかは?
小林:全力で甘えるでしょうね
有希:ええ?想像できないよ
小林:しないでください
有希:でもさでもさ、燃え上がるような恋とか、禁断の愛とか、出会っちゃったら仕方ない、みたいな
小林:他の人は知りませんが、少なくとも僕は、対象外ははなから対象外のまま、恋愛感情を抱くことは決してありません。というか、そういう風にしてますし、それが教師のあるべき姿だと思ってます
有希:じゃあさ、美樹が卒業して、二十歳迎えて、もっかい会いに来たら、そんときは微レ存あるの?
小林:あなたまで宇宙語を話さないでください
有希:茶化さないでください
小林:茶化してません。………その質問、答えなきゃいけませんか?
有希:別に?先生の中に答えがあるのならそれで
小林:…今日は最期の最期までセンチなんですね。さ、さっさと帰ってください。戸締りしますから
有希:はいはい。…せんせ。…考えといてね
0:有希退場。教室で一人呟く小林。
小林:はぁ…勘弁してくれ…
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