第4話 いい歳して魔法少女って……

 「ここは……」


 鏡は目を覚ますと、見知らぬ空間にいることに気づいた。


 真っ白で何もない、果てしなく白い空間が続くだけの場所。


 「何だここ……確か、あたしは車ン中で……急に眠たくなって……まさか!?あの誘拐犯!あたしを眠らせてこんなわけわかんねぇとこに監禁しやがったな!?事件だ!誰かー!助けてくれー!」


 「なになに、どうしたのよ」


 「!?」


 何もない空間からレイラが突然現れ、鏡は驚いて飛び起きた。


 「誘拐犯!あたしをどうするつもりだ」


 鏡は慌てて距離を取りながらいつでも戦えるように拳を構えた。


 「……元気ね、あんなに爆睡してたのに」


 レイラは呆れたようにため息を吐きながらポケットからタブレットを取り出す。


 「あんなに急に眠くなるなんておかしいだろ!絶対何か仕込んだな!?」


 「あら察しがいいのね、こっそり睡眠薬を打ち込んだのよ」


 「お、お前……!?」


 「貴女には魔力の流れを乱すだけじゃ、無力化はできないし、ベルトで拘束しても魔法に目覚めて脱出されるかもしれないじゃない?いざというときのための睡眠薬よ。幸いにも貴女が救世主になってくれると承諾してくれたけど」


 「……やっぱ辞める、出せ」


 「どうして?」


 「こんなやべー女といるぐらいなら魔物の記憶持ったまま普通に暮らした方がマシだろうが!」


 言い終えると鏡は走り出した。この空間の出口を探すために。


 「……いってらっしゃい」


 その背中を見つめながら、レイラはいつの間にか出現していた椅子に腰をかけてタブレットに視線を落とす。


 一時間後


 「はぁ……はぁ……何だここ、何にもねぇし広すぎるだろ!」


 鏡はレイラのもとに戻るとその場で仰向けに倒れ込んで大きく呼吸を繰り返す。


 「ここは無限に何もない空間がひろがっているのよ。でも、望めばある程度のものは再現できる。この椅子や、テーブルとか」


 レイラは自らの座っている椅子とテーブルを指差した。


 「な、あ?え?何?ここ」


 鏡は視線だけを椅子やテーブルに向けた。飾り気のない背もたれのある椅子とテーブルだ。


 「貴女も何か望んでみたら?」


 「……出ねぇじゃねぇか!虚言女!」


 「……どうせここの出口とか望んだんでしょ?ある程度のものって言ったわよ。何でも出るわけじゃないの」


 図星なのか、鏡は望んだものに対しては何も答えずに、レイラに問う。


 「……おい、あたしをここに連れてきた目的は何だ?」


 「救世主、いや魔法少女になるためのトレーニングをしてもらうためよ」


 「ま、まほーしょーじょ?」


 鏡は唖然としながら言い終わった後も口を開けっ放しにしていた。


 「救世主とか言った方が貴女みたいなタイプは食いつくかと思って魔法少女とは言わなかったのだけれど、実際には魔法少女になってもらうわ」


 「……ぷ、ぷぷ、ぐ、ぐふっ……ま、魔法少女って……子供かよ」


 鏡は肩を震わせ、今にも吹き出しそうに頬を膨らませて、心底馬鹿にしたように言った。


 「……そうなると思ったわ」


 「……いや、まぁ、人の嗜好というのは様々ですから、あたしは悪いとは思わないよ?でも、大人の女性があんまり大々的に言うことではないというか……」


 「その理解者面やめなさい、本当に魔法少女になってもらうのよ」


 「OK、OK、お嬢さんはおままごとの相手が欲しくてあたしを誘拐したんだな?で?何やればいいの?敵役?終わったら自首してくれよ」


 クスクスと笑い交じりにここぞとばかりに馬鹿にして畳みかける鏡。


 「……魔法少女、というほどだから変身してもらわないといけないの」


 鏡の煽りにも表情一つ変えずにレイラは話を始める。手には先程とは違う紫色のタブレットが握られていた。


 「仕事がよっぽど辛かったのかな、心が疲れて魔法少女ごっこなんて始めてしまって……」


 鏡はいつの間にか出現させていたハンカチを目に当てて泣き真似をしており、話を全く聞いていない。


 「……」


 「お母さん悲しいわ」


 しくしくと泣き真似を続ける鏡目掛けて、レイラはナイフを出現させて投げつけた。


 鏡は予想していたかのように、地面を後ろに蹴って避ける。


 「あれれ?効いちゃったかな?」


 ニヤニヤと笑いながら、鏡は再び煽る。


 「このタブレットで魔法の国と契約してもらって、魔法少女の衣装をもらうの。それに変身することで魔力を上手く操れるようになるのよ。逆を言えば、それを着ないとまともに魔力は操れないということね」


 「ほお、よく設定が練られてるな。で、そんな言い訳はいいからさ、あたしにどんなコスプレさせたいわけ?お嬢さん」


 「……これを持って」


 タブレットが顔面目掛けて投げつけられる。鏡は悠々とそれを片手でキャッチして、画面を見る。


 そこにはディフォルメされたホワイトライオンのキャラクターが映っている。


 「何だ?」


 『やあ!僕は魔法の国の精霊、レオーガ!さあ!契約して魔物をやっつけよう!』


 すると画面に『はい』のパネルが出てきた。


 「手が込んでんなぁ……この熱意をまともな方に向ければよかったものを」


 鏡はクオリティの高さに鼻で笑いながらパネルを押した。


 すると鏡の体が紫色の光に包まれる。


 「うお!?何だ!?」


 光のせいで目を細めながら、その様子を見ている。


 段々と光が弱くなっていき消えると全身が紫色をベースとしたドレスが自身の身体を包んでいることに気づく。


 「な、何だこれ!?」


 袖と裾はフリフリとした装飾がされており、動きやすいようになっているのか袖は半袖、スカートも膝が見えるくらいの長さだ。


 「魔法少女の正装よ。これで魔法が使えるはず、えっと貴女のは……【魔法少女ブレイブ】武器は素手、『魔力による圧倒的な身体能力強化はシンプルが故に強い。マジックアンドバイオレンスで魔物を葬れ!』らしいわ」


 「マジックアンドバイオレンスって何なんだよ」


 着慣れない衣装を何度も見ながら鏡はタブレットを見つめる。そこには先程のホワイトライオンのレオーガが座り込んで眠っていた。


 「今から魔物をこの空間に出現させるから戦ってみて。大丈夫、危なくなったら私が助けるから。じゃ」


 そう言うとレイラの姿が一瞬で消えた。そして現れたのは鏡の身長をゆうに越える大きな熊が現れた。


 その熊は全身が赤く、体毛が針のように鋭く尖っている。手は人間の手で、指は異様に引き伸ばされており、皮膚は裂けて骨や肉が見えていて指先が黒ずんでいる。


 「随分と……悪趣味なおままごとだな」


 

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