04

鏡へと手を伸ばし、中へと入って出たところは洞窟の中だった。


薄暗いが、先に入っていたアグネスがたいまつを付けていたため、遠くは無理でも周囲くらいなら見ることができる。


洞窟の奥からは風が吹いてくる。


ユナは遊園地のアトラクションを思い出しながら、辺りを見回していた。


「私が前を歩く。気をつけろよ、ユナ。ここはもうすでにモンスターの巣だ。敵が出ていたら援護を頼むぞ」


「頼むぞって……もっとわかりやすくいってくれないとわからないよ」


「何を弱気なことを言っている。もっとしっかりしろ。おまえは勇者の娘だろう」


「それってアグネスさんやピピが一方的に知ってることだよね? あたしはついさっきまでそんな話を知らなかったんだから、もっとわかるようにやることを言ってくれなきゃ困る」


口の減らない子どもだと思いながら――。


アグネスは握っていたたいまつに力が入り、ピピのほうも「ユウキのほうが扱いやすかった」とため息をついていた。


男と女では、たとえ親子でこうも違うかと、彼女たちはユナの言い方にわずらわしさすら覚える。


しかし、怖がっていると言ってるわりに度胸がすわっている。


言いたいこと言い、自分のしたくないことをハッキリと口にする。


そこはさすがあいつの娘だなと、頼もしさも覚えていた。


「わかった……。具体的に言うと私が前で戦い、お前は後ろから敵を攻撃するんだ。その攻撃のやり方は……」


「やり方は?」


見つめてくるユナに対して、アグネスは顔をそらしながら言う。


「ピピが指示を出す」


「えッ!? わたし!?」


「おまえ以外に誰がいる。私は敵の攻撃を受けながら反撃するんだ。その点、ピピなら後ろから戦況を見ることができるだろう」


「それは、そうかもだけど。なんだか押しつけられた気分だよぉ……」


アグネスの言葉を聞き、ピピは渋々ながら受け入れた。


一方でユナは、いまだに自分に何ができるかわからなかったが、とりあえず指示があると聞いて安心する。


それからたいまつの光を頼りに、洞窟内を進んでいくユナたち。


奥に行くにつれて吹いていた風も強くなってくる。


今のところ聞いていたモンスターは出てきていないが、やはり出くわしたら戦わなければいけないのだろうか。


ユナは、まるでゲームのような状況に違和感を覚えていた。


彼女は昔からよくあるモンスターを倒してレベル上げたり、お金を手に入れるシステムのゲームが好きではなかった。


もちろん自分が危ない目に遭ったら、武器を持って対応するのは理解できる。


しかし、ただモンスターだからといって退治するのはおかしい。


これが現実ならなおさらだ。


モンスターにだって意思がある、感情があるはず。


きっと話してみればわかりあえるかもしれないし、無理なら無理で互いに距離を取ればいい。


けして戦うだけが解決じゃないんだと、ユナはアグネスの後ろにピタリと張りつきながら、そう考えていた。


「出てきたぞ。モンスターだ」


前を歩いていたアグネスが叫び、持っていたたいまつを壁にかけた。


そして、背にあったグレートソードを手にし、両手で構える。


暗がりからは、頭にトナカイのような角をつけたウサギと鎧を身に付けたクマ、さらには人間を丸飲みできそうな大きな蛇が現れた。


風のダンジョンに生息するモンスターたち――ホーン·バニー、アーマー·ベア、ミスト·スネークだ。


ユナは、初めて見るモンスターに驚きながらも、ピピの指示を待っていた。


彼女たちの前には、ホーン・バニーの角やアーマー・ベアの体当たりを受けながら剣を振るアグネスの姿がある。


風の音しかしなかった洞窟内に、金属音が鳴り響く。


「風のダンジョンとはいってもこの程度か。噂ほどではない。これならユウキの奴を召喚する必要もなかったか」


アグネスが鉄のかたまりのような剣を振り上げる。


「いや、間違ってユナが来てしまったから、これはこれでよかったか!」


彼女の一撃はホーン・バニーの角を折り、アーマー・ベアの鎧を砕いた。


ユナがまるで映画のようだと驚いていると、その二匹の後ろにいたミスト·スネークが全身から霧を放った。


吹いていた風に乗って、霧がユナたちを覆い始める。


ただでさえ視界が悪かった洞窟内が、霧のせいでさらに見えなくなる。


これは敵の作戦。


このままではアグネスが危ない。


ユナはそう思っていたが、目の前にいる彼女は鼻で笑っていた。


「目くらましか。フン、小細工をろうしてくる。ピピ、頼むぞ」


「はいはーい」


ピピがアグネスに応え、その小さな羽を振ると宙に魔法陣が現れ、そこから吹いていた風を押し返すように突風が吹いた。


霧はあっという間に晴れて、目の前にいる三匹のモンスターの姿が露わになる。


アグネスはグレートソードを突きつけながら、モンスターたちに言う。


「こんなことで私たちをどうにかできると思ったか? さあ、終わりのときだ、モンスターども」

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