第6話「帝都一の大商人」

 10月にしては暑い日が続いていた。屋内で渦を巻く熱気に押し出されるかのように、藤兵衛はもぞりと布団から這い出した。

(ふう。昨日は実によく飲んだわい。虫めに殴られた傷は痛むが、燃料を入れたぶん何とか耐えられそうじゃの)

 藤兵衛は大きく伸びをし、寝室を出てゆっくりと洗面台へ向かっていった。痛む身体を引きずりながら、きっちりと丁寧に顔を洗い歯を磨いた。そして握り飯を汁と一緒に一気にかっこみ、ちらりと隣の寝室の中を見渡した。色気もへったくれもない質素な部屋。そこには死んだように横たわるレイの姿があった。

「……おい。昨日は悪かったの。今日こそはちゃんと給金を貰ってくる故、貴様はしかとシャーロットを守っておれい」

 返事はなかった。よほど深く眠りについているのか、息をしている気配すら感じられなかった。

(虫め、本当に弱り切っておるのか。心底愉快じゃし絶好の好機ではあるが、シャーロットが動けんとなると……実に剣呑な事態じゃわい)

 藤兵衛は足音を殺して部屋に入ると、レイの横にそっと座り顔を覗き込んだ。人形を思わせるほどに端正な顔立は青白く染まり、何処か神秘的な輝きすらも感じられた。

(……ふうむ。改めて見ると大した美貌じゃのう。顔だけなら悪くないのじゃが、知性の欠如だけはどうにもならぬわい)

 藤兵衛は、ふとレイについて思った。この女は一体、何故こうまでしてシャーロットに仕えているのだろうかと。自分の命を投げ打って、あらゆるものを犠牲にして、それでも足りずに日々過ごしている。儂には絶対に出来ぬ、藤兵衛はふと思った。2人の間にあるものの中に、自分は一生涯入り込む事は出来ないだろう、彼はそう直感した。

「貴様は……何の為に生きておるのじゃ?」

 そうぽつりと言い残し、入って来た時のようにそっと立ち上がる藤兵衛。外の眩しい日差しに目を細めながら、彼は静かに部屋を後にした。バタン、と扉の閉まる音がすると同時に、レイはほんの少しだけ目を開いた。

「……てめえにはわかんねえよ。わかって……たまるかよ」

 ぽつりと声が落ちる。雫は集まり澱みを作る。空から届く小鳥たちの声が清々しい朝の訪れを告げていた。


 今日も労働は続く。現場監督の姿は朝から見えず、指導者不在の中、不毛な労働は続いていた。労働者たちは額に汗を流しながら、先の見えぬ作業を繰り返していた。

 一方で藤兵衛はと言えば、明らかに昨日よりは遥かに体調も良く、本来の体のキレが戻りつつあるのを感じていた。そんな彼の側に小三郎が笑顔で近付き、親しげに肩をポンと叩いた。

「お、藤吉じゃねえか! 昨日はほんと楽しかったぜ。お前さん、ほんと面白え男だな。あの子もまた会いたいってよ。よければ今日もどうだ?」

「ホッホッホ。儂の方こそ馳走になったの。本音を言えば是非とも行きたいんじゃが、流石に2日連続は殺されかねんわ。誠に心惜しいがまたの機会にの」

「なんでえ、女かよ? んなもん怖くていい仕事ができるかってんだ。んなうるせえこと言う奴には、ガツンとかましてやりゃいいんだよ」

「ふむ、確かにの(ガツンとかまされるのがオチじゃて)。実に参考になるわい。しかしお主は実に気風のよい男じゃな。久々に楽しい酒を酌み交わせたわ。儂はこの出会いに感謝するぞ」

「へっ。それ言うならこっちこそだ。藤吉、いい酒をありがとな」

 2人は顔を合わせて笑った。清々しく活気に溢れた彼らの交わりに、周囲の男たちもいつしか顔を綻ばせていた。


 日が天高く昇りきり、自然と労働者たちも昼食の時間となった。藤兵衛は小三郎のグループと一緒に日陰に座り込み、談笑しながら配給の乾飯を漁っていた。パサついた米に噛り付きながら、心底不味そうに小三郎は吐き出した。

「ペッ! 日に日に飯が不味くなってきやがるぜ。こりゃ来週はメザシ一匹だな」

「小三郎の兄貴、そりゃしかたねっすよ。帝都の大企業様からしたら、俺らなんて使い捨ての駒でしょうから」

「駒だったらまだいいぜ。もし工期に間に合わなかったらよ、どうせ俺らのせいにされちまうに決まってら。うす汚ねえ雑巾みてえなもんだっての」

「しかし困ったぜ。こんなんじゃ正月も迎えられねえや。どこぞでふんぞり返ってるバカ社長に、俺らの暮らしを一度でいいから味あわせてやりたいもんだぜ」

「……」

 皆口々に不満を表していた。藤兵衛は何も言わず、目を細めて皆の話を聞きながら、固い乾飯をゆっくりと噛み締めるだけだった。

「結局はな、世の中は理不尽なんだよ。元から持ってるやつは更に栄えるし、持ってないやつは地を這い続ける。なあ、藤吉。お前もそう思うだろ?」

 議論に白熱した小三郎が、実に親しげに藤兵衛の肩を叩いた。彼は暫し考え込んだ後に、垂れた細い目で真正面から彼の顔を見つめ、静かに口を開いた。

「……儂はそうは思わぬな」

「え?」

 不意を付いた意見に、急に静まり返る一同。驚く彼らの表情をさっと見渡し、まるでその反応を最初から予見していたかのように、藤兵衛は注意深く言葉を続けた。

「何事も“やりよう”というものがあるわ。金がないなら頭を使えばよい。頭がないなら足を使えばよい。1人でできぬなら人を使えばよい。大切なのは足掻くことじゃ。足掻いて足掻いて足掻き続け、そこにのみ突破口があろうて。『死中にこそ活あり』。秋津国の古い格言だそうじゃが、儂は常々そうだと思っておる」

「……おい! 他所モンが偉そうに抜かしやがって! 語るだけなら誰でもできらあ! そこまで言うなら、俺らが生き残れる具体的な計画を言ってみやがれ!」

 語気荒く一人の若者が突っかかった。小三郎の一団だけではなく、いつしか他の労働者たちも剣呑を増す空気を見守っていた。急変する雰囲気。敵意に変わりつつある興奮した空気。それらに全身を痛い程に包まれながらも、金蛇屋藤兵衛は動じない。この男は決して動じない。

「そう急くでないわ。一服くらいさせい。儂は逃げも隠れもせぬ故な」

 彼は懐から黒檀に金色の蛇が描かれたキセルを取り出し、ゆっくり火をつけて美味そうに深々と吸い込むと、今までとはまるで異なる鋭い目付きに変化させた。無言の迫力が蛇の如く彼らを飲み込み、否応無く続く彼の言葉に説得力を付与させた。

「儂が見るに、お主らには技術もあり、小三郎の人望も十分じゃ。欠けているのは発想と視野じゃろうて。儂ならまず……ここに集まっている各土建屋連中を説得するの」

「説得? 意味わかんねえぞ。そんでなにをするってんだ?!」

「お主らの言う通り、数は力じゃ。儂ならまず組合を作るかの。横並びの組織で、協力して各工事に当たる。賃金や待遇の交渉も、一致団結し足並みを揃えて行う。すると……何が起きるか分かるかの?」

 誰も何も答えなかった。いつしか50人ばかりの人々は、揃って若者の話に耳を奪われていた。藤兵衛はじろりと見渡してその事を確認すると、悠然とキセルをふかして更に言葉を続けた。

「如何に帝都ロンシャンの大企業と言えど、地元の業者を無視することは出来ぬ。最も尊いのは現場じゃ。規模が大きくなればなるほど、必ずや組合の協力を求めてくる。凡ゆる物事に於いて、10割を占めるは夢物語。仮に4割勝ち6割負けだとしても、お主らを決して無視出来ぬ。間違いなく有利な条件を勝ち取れようぞ」

「た、ただよ。そんなの嫌だって言われたらどうすんだよ! おまえらなんて知らねえって言われたらお終いじゃねえか!」

「惚けておれば、黙して足踏みしておれば、確かにその通りになるじゃろうな。故に、動く。先手を取る。大手との交渉を複数行いつつ、同時に地元の施工を安価で行い地盤を固める。その上で隙を見て、東のセイリュウ国に進出じゃな。今のセイリュウは、5年前の戦火の影響で荒れに荒れておる。元々産業に重きを置かぬ地域じゃ。腕さえ確かならば進出は容易い。セイリュウを拠点に、秋津国を天秤にかけるも面白いの。資源確保にスザク国に進出するという博打もあろう。何にせよ、道は無限に存在する。……以上が儂の意見じゃ。何か質問はあるかの?」

「そ、それがうまくいきゃ世話ねえぜ。そもそも俺たちは商売仇だ。言わば敵同士だろ? 今さら団結なんてできっこねえぜ」

「……儂の知る限り、この世に敵や味方という概念などは存在せぬ。在るのはただ、各々の件に限定された利害のみよ。今、お主らの尻を焼くは“害”、その為に選ぶべき道理が“利”。危機が強大であればある程、切り抜けた際の見返りは莫大ぞ。こんな時だからこそ、やる価値がある。言葉に重みが生まれる。その為には情熱が要る。知恵が要る。汗が要る。だが、それだけの価値はあるとは思わぬか?」

 返す言葉もなく聞き入り、しんと静まり返る一同。すると藤兵衛は突然ふっと全身から力を抜き、頭を掻きながら少しはにかんだ顔で立ち上がった。

「ホッホッホ。余計なことを言ってすまんの。ちと熱くなってしもうたか。便でもして頭を冷やしてくる故、お主らは気にせず続けてくれい」

 そう言ってのんびりと奥の山間に消えていく藤兵衛。それを無言で見送る一同。彼の姿がすっかり消えてから、他グループのリーダーらしき男が小三郎の側に寄ってきた。

「小三郎、あいつは何者だ? 見た目は若えくせに、話にゃ妙に説得力がありやがる。どう見てもまともなモンには見えねえが」

「……俺も詳しくは知らんよ。ただものじゃねえのは間違いなさそうだがな。けどよ、間違いなく言えんのは……藤吉はいい奴だぜ。そこだけは俺が保証する」

「はっ。親類の借金ぜんぶ被って、この世の地獄見たおめえに保証されてもな。ま、よくわからんが面白え与太話だったよ。話の上だけだけどよ」

「そうだな。確かに夢物語だ。……今のところはな」

 小三郎は考え込むように、とても小さく、だがはっきりとため息を一つだけついた。その時、街道の西側から、帝都ロンシャン方面より、けたたましい馬の足音と叫び声が響いた。

「おい、最下層の日雇い労働者共! 給金をせしめておきながら、反抗を繰り返すクズ共め! 社長、こいつらがお話しした連中です」

 現場監督の甲高い喚き声に導かれるように、1人の大男が荷馬車からのそりと降り立った。2mを遥かに超える長身、全身を覆う岩石の如き筋肉の鎧、その上を覆う分厚い脂肪、傷だらけのスキンヘッド、丸く落ち窪んだ眼窩の中で獣のように鋭く光る眼。明らかに一般市民のそれではなかった。大男はじろりと小三郎たちを一瞥すると、威圧感に満ちた低い声で彼らに告げた。

「おう。俺が今月からここの社長になったモンだ。詳しくは知らんが、どうもお前らのせいで工事が進まんらしいな」

 大男はぼそりと、頭を掻きむしりながら面倒そうに呟いた。だがその言葉の中に、慈悲の色は一片も感じられなかった。震えおののく男たちの中で、ただ1人小三郎だけは、臆することなく彼の前へと進み出た。

「社長さん。そりゃ誤解だぜ。俺たちゃ別に反抗するつもりはねえさ。ただ、そこの監督がな……」

「俺に逆らうんじゃねえ!」

 大男のさざえのような巨大な拳が、小三郎の脳天目掛けて振り下ろされた。もんどり打って吹き飛ばされる彼の姿を見て、一同は震え上がって直立し、事の成り行きを不安そうに見つめていた。

「事由なんざどうでもいい。いいからやれ! 夜も朝も関係ねえ。期日までに、全てを終わらせろ! これは命令だ!」

 しんと静まり返る一同。陰から下卑た笑みを浮かべる監督。意識を朦朧とさせながらその場に横たわる小三郎。

「ったく、赴任早々とんだ迷惑だぜ。なんでこの蔵之介様がこんなことせにゃならんのだ。ああ、早く帝都に帰りてえなあ」

 ぶつぶつと呟く大男。彼は苛立ち紛れに近くの木を蹴り倒すと、それは小枝のように簡単にへし折れた。絶望的な破壊音が周囲に響き、男たちは完全に心折られ、足取り重く現場へ戻ろうとした。だがその時!

「何を騒いでおるか!」

 現れたのは、金蛇屋藤兵衛。周囲の状況をじろりと鋭く見渡し、一瞬で状況を把握すると、ツカツカと躊躇いなく蔵之介の方に向かって行った。

「お、おい藤吉! そいつは危険だ! いいから早く戻れ!」

 小三郎の震える声を気にかけることなく、そして全く動じる事なく大男の前まで進むと、藤兵衛は腕組みをして更に鋭く目を尖らせた。

「なんだ小僧。俺に何か用か?」

 拳を鳴らしながら、好戦的な嘲笑を浮かべる大男。だが藤兵衛は動じない。彼の怒りはちゃちな脅しではびくともする事はない。彼は思いきり息を吸い込むと、天地を揺るがさん程の声量で怒鳴った。

「蔵八! 貴様こんなところで何をしておるのじゃ!」

「な、なぜその名を?! どこで仕入れたかは知らねえが、俺は金蛇屋一門の大幹部、赤蛇屋蔵之介様だぞ! お前なんぞとは立場が違う! さっさと控え……」

「控えるのは貴様じゃ蔵八! 怪我で食えぬ格闘家を拾ってやったのは何処の誰じゃ! 女に相手にされず腐っておった貴様に、器量良しの嫁を紹介してやったのは何処の誰じゃ! 貴様にそっくりの不細工な娘2人に、神明教幹部との良縁を組ませてやったのは何処の誰じゃ! 多少の人相が変わった程度で、儂の恩を忘れるなど言語道断! 先程と同じ言葉……この儂の目をしかと見て申してみよ!」

 目を真っ赤に怒らせて、キセルの煙を一気に吐き出しながら、藤兵衛は在らん限りの声量で叫んだ。地響きにも近い威圧感が周囲を圧する中、当の蔵之介も明らかに動揺の色を浮かべていた。その視線の先には藤兵衛の持つキセル。漆黒に染まる黒檀の木に、のたうつ黄金の蛇の紋様。それは間違いなく、彼の主人たる存在の証だった。

「ま、まさかお前……いや、あんたは……旦那様?! バ、バカな! そんなはずがねえ! 例の不老不死だかって与太話か? ユヅキの野郎の話は嘘だってのか? い、いや、でも……」

「何度も言わせるでない! 姿形が変わったとて、貴様が儂を忘れることなど許さぬ! あれだけ儂に迷惑をかけておいて、知らぬ存ぜぬなど通じる訳がなかろう! まだ疑うのであれば、貴様の情け無い性癖について衆目の前で話してやろうぞ。貴様、そんなでかい図体で赤ちゃ……」

「ま、待て! 分かった! 信じらんねえがあんたは旦那様だ! 間違いねえ! だから……それだけは勘弁してくれええええ!」

 その場で地面に額を擦り付け、何度も土下座を繰り返す蔵八。それを腕組みをしたまま睨みつける藤兵衛。ぽかんと成り行きを伺う労働者たち。小三郎は倒れ込んだまま、漠然とする意識の中で呟いた。

「……あ、あんたまさかあの……オウリュウの大商人の!」

「蔵八! 言いたい事は山程あるが、大体何故貴様がここにおるのじゃ! 貴様は金蛇屋運送の責任者であろう。建設部門なぞ門外漢にも不向きにも程があるわい」

「お、おう。こりゃあのクソ番頭の指図だよ。ユヅキの野郎が金蛇屋を乗っ取った瞬間に、旦那様の派閥は残らず大左遷さ。今じゃウチの花形部門は、全てあの野郎の息がかかってやがる。俺もこんな訳わかんねえとこに飛ばされてよ。ったくいい迷惑だぜ」

「戯けが! それとこれとは話が違うわ! 仮にも貴様は金蛇屋の大幹部であろう! 如何に部門が違えども、こんな意味の分からん仕事をするように躾けた覚えはないわ! 期日はあと10日と聞いておるが、このままでは天地がひっくり返っても終わらぬぞ」

 はあ、と深く大きくため息をつき、しょげ返る蔵八。屈強な大男が痩身の小柄な若者に叱り付けられる姿は、その場にいる誰にとっても衝撃的だった。蔵八は首をこきりと鳴らし、懇願するように藤兵衛の手を取った。

「……問題はそこなんだよ。終わんなきゃ終わんねえで、ユヅキのことだから容赦なく懲戒だろうぜ。……なあ、旦那様。ちっと知恵貸してくんねえか」

「ふん。お主はいつもそうじゃの。12年前のゲンブ国輸送網の件もそうじゃ。1人で突っ走って、どうにもならなくなってから儂に泣き付いてきよる。それに5年前の秋津国の海路も……」

「わ、わかった! 謝るよその件は! 反省してっからさ! だから頼むよ。俺が頭下げる相手なんざ、この世でアンタしかいねえんだぜ。な、この通りだよ」

「まったく調子のよい話じゃて。まあもう慣れたがの。よかろう。ならば儂に、この現場の指揮権を寄越せ。必ずや期日までに全てを終わらせてやるわ!」

 藤兵衛は腕組みをし、キセルの煙を深く吐き出しながら、力強くそう言い切った。下がりに下がっていた蔵八の顔が一気に跳ね上がり、豪快で暖かな笑みが顔中に咲いた。

「へへ。そう来なくっちゃな。流石は旦那様だぜ。よし、んじゃさっさとやっちまおう。……おい、お前ら全員集合だ! すぐに集まれ!」

 地鳴りのような腹の底からの声に、男たちは警戒しながらも成り行きを見守り、やがて1人、また1人と集まってきた。藤兵衛は倒れ込む小三郎の側に立つと、微笑を浮かべながら手を差し伸べた。彼は戸惑いながらも、大きな笑みを浮かべてそれに応えた。ぎゅっと熱い掌同士が結ばれると、藤兵衛は満足そうに満面の笑みに変わった。

「小三郎や。儂はまだ、お主から受けた恩を返し切ってはおらぬ。この金蛇屋藤兵衛は、受けた恩も恨みも10倍にして返す男じゃからな。儂は必ずや、お主らに“宝”を授けようぞ」

「た、宝? そりゃいってえ……」

「ケッヒョッヒョッヒョッヒョッ!! まあ黙って見ておれ。オウリュウ国一の大商人たる金蛇屋藤兵衛の仕事、貴様らにとくと見せてやるわ!!」


  数日後、ボンスンの町外れの小さな旅籠。

 その最上階の小さな部屋で、レイと藤兵衛が向かい合って座っていた。彼はここ数日間、妙に上機嫌が続いていた。今日も彼は見せたことも無いような不敵な笑みを浮かべ、満足そうに鍋をつついていた。レイはその姿を忌々しそうに、そして訝しげに見つめていた。

「いやあ、働いた後の飯の何たる美味いことよ。やはり貴様の料理は最高じゃのう。グワッハッハッハ!!」

(……毎日のようにしこたま飲んできやがって。ぶっ殺してやりてえとこだが、ふしぎと金だけは大量に持ってきやがる。もうすっかり路銀なんて足りてらあ。どうせロクでもねえことしてやがるんだろうが……)

「何じゃ、死にかけのボウフラの如き眼をしおってからに。さては金が足りぬのか? まったく仕方ない。ほれ、これで精のつく料理でも作るとよい。これだから金遣いの荒い女は困るのう」

 藤兵衛は細い目をいやらしく垂らし、口を曲げながら万札をヒラヒラとレイに突き付けた。レイは怒りでこめかみに血管を浮き出し、言葉には出さずとも不審の念で表情は一層険しくなっていった。

(絶対におかしいぜ。この金の亡者がこんなに気前いいなんてよ。こないだまでとは打って変わって、顔に余裕がありすぎるぜ。さては……強盗かなんかやりやがったか? ……いや、こんなザコに荒事なんざムリだ。となると詐欺とかそういうのか?)

「辛気臭い顔じゃのう。折角の飯が不味くなるわい。少しは儂を見習い、恵比寿の如き微笑みを見せぬか。おっと、貴様のような蝗に毛が生えた程度の生き物には難しい話じゃったか。ケッヒョッヒョッヒョッヒョ!」

(ああ、ぶん殴りてえ。だがこのクソの警戒心をなめちゃいけねえ。ここはおとなしく泳がせるか。初日っきり働いてるとこを見ちゃいねえが、どうせ仕事さぼって、クソみてえなことに手を染めているのは明らかだ。ったくよ、いつもいつもお嬢様に迷惑かけやがって。明日までは見逃してやるが、証拠を掴み次第キッチリ血の海に沈めてやるぜ)

「どうした? 食わんのなら儂が全て平らげてしまうぞ。いやあ、労働とは実に大変なものじゃな。グゥーハッハッハッハ!!」

 藤兵衛の高笑いが、静かな夜の一室に煌めいた。しかしレイの雄弁な沈黙と不審の眼差しは、彼の影にぴたりと忍び寄っていた。


 次の日の昼過ぎ。レイは昨日の残りの鍋を手際よく雑炊にして、休息中のシャーロットに振るっていた。滋養と温もりの詰まった汁を啜ると、彼女はとても美しく微笑んだ。

「本当に美味しいですね、レイ。昨晩は食べられずに申し訳ありません。どうしても体調がすぐれなかったものですから」

「へっ。んなのかまいませんや。それに鍋ってえのは一晩置いた方が味が出ますからね。ま、ほとんどあのクソが食っちまいやしたが」

「ふふ。殿方は沢山召し上がるものですからね。私たちの為に毎日働いて頂いておられますから、心からの感謝しかありません。ところで体調はどうですか、レイ?」

「9割がた問題ありやせんや。今すぐにでも戦えますぜ。ただ……しばらく敵の気配も感じません。どうやらやり過ごしたようですね」

 巨大に膨れ上がる力こぶをこれ見よがしに見せつけ、レイは不敵に微笑んだ。釣られるようにシャーロットも美しく笑い、和やかな雰囲気が場を包み込んだ。

「ふふ。どうもそのようですね。それにしても……“敵”ですか。哀しい響きですね」

「お嬢様、それは言わない約束ですよ。やるしかない……あの日2人でそう決めたでしょう?」

「ええ。その通りです。失礼しました。それはそうと、私の体はもう大丈夫ですよ。近い内に出発しましょう。あまり休み過ぎてもいけませんしね」

「本当ですか! こんなに嬉しいことはねえや。クソ商人にも伝えてきますぜ」

 待ち望んでいた朗報に、満面の笑みを浮かべてレイは立ち上がった。シャーロットはひとしきり微笑んだ後、急に俯いて弱々しく唇を開いた。

「貴女にはいつも苦労をかけっぱなしですね、レイ。本当に申し訳ありません」

「そ、そんなことを仰らないでくだせえや。俺の命は、お嬢様の為に存在してるんですぜ。お嬢様の大義の為なら俺はいつでも喜んで死ねまさあ」

「………」

 気まずい沈黙が訪れた。シャーロットは、何かを言おうとしていた。とても大切な何かを。しかしその言葉は、紡がれる前に彼女の中の虚空へと消えていった。まるで柔らかな絹のように、晩秋のうららかな時間が流れていった。

「ま、お嬢様はゆっくりお休みくだせえ。俺はクソの様子でも見てきますわ。ご出立までごゆるりと」

 バタン、と扉の閉まる音と、風の流れる涼やかな音色が聞こえた。しんと静まり返る室内。そこに、音もなくすすり泣くシャーロットの姿。

「……レイ」

 風の音にかき消された小さな小さな声。まるで夢の滴りのように、涙はここではない何処かへと消え去っていった。


「これ、3班! 手が空いたら手伝いを頼むぞ! 2班の組み木作業がやや遅れておる故、資材の運搬を援護せい」

「はい、分かりました藤兵衛様!」

「うむ。元気があってよろしい。声かけは全ての基本じゃて。儂も今日は何故かすこぶる体調がよくての。お互いよき仕事が出来そうじゃな。……おい、監督! 1班の様子は如何じゃったか?」

「は、はい。かなり進んでおります。このまま行けば今日中にはセイリュウ領に到達できるかと」

「やや行き過ぎよの。今日は日差しも強きゆえ、熱中症の恐れもある。秋の日差しは思っておるより危険ぞ。そろそろ休憩を取るように、と各班に伝令せい」

「す、すぐにですか。先程からずっと走りっぱなしで……」

「痴れ者が! 責任者の貴様が一番足を使わなくて、如何にして現場の信頼を勝ち取れるというのか! 対案あれば申してみよ!」

「そ、それは……」

「なければ直ぐに行けい! 各班の進行状況と健康管理、何より人間関係の把握を忘れるでないぞ!」

 藤兵衛の怒鳴り声が広場中に響き渡った。その1キロほど先の小高い丘から、心底の呆れ顔でその光景を見つめるレイ。

(な、なにやってんだあいつ……)

 レイがこの現場を見たのは、藤兵衛が働き出した初日だけだった。彼が逃げ出さぬよう見張りの意味も込めて、惨めに現場監督にいびられる様を腹を抱えて笑ったものだった。同時に、全く捗らない工事を目にし、滞在中は仕事にあぶれる事はないだろうと、心の中で少しだけ安堵していたことも思い出された。

(けどよ……今見ているこりゃなんだ? どうしようもねえ下っ端のはずのクソ商人は、当たり前みてえにエラそうに指揮をとってやがる。てか、工事も間も無く終わりそうだぜ。俺は……夢でも見てんのか?)

 金蛇屋藤兵衛が“仕事”に乗り出して僅か1週間。その間に彼は人の心を掴み、計画の全体像を把握した上で、不可能と思われた事業をいとも容易く成し遂げようとしていた。いかにレイとは言え、目の前に突き付けられた現実に舌を巻くばかりだった。

(これが……東大陸随一の商人の力なのか? お嬢様が仰っていた、あの男の力ってのは、つまりこういうことなのか? 俺にねえモンを、あのクソは持ってるってのか? ……認めねえ。認めねえぞ! 認めるもんかよ!)

 レイの葛藤をよそに、蔵八がふらりと奥の詰所から現れると、汗をびっしょりかきながら指揮を続ける藤兵衛に大声で叫んだ。

「おおい、旦那様! 例の件で鈴乃屋が来てるぜ!」

「遅いわ! 時は金なりじゃ! すぐに行くと伝えよ! 後は監督の貴様に任せたぞ。くれぐれも各員の作業状況から目を離すでないぞ」

「は! わかりました。私の命をかけてでも……」

「そんなものは不要じゃ! 人は生きているだけで金になるのじゃ! 死ぬくらいならその分の金を稼げい! では行くぞ、蔵八!」

 監督をどやしつけながらも、足早に歩みを進める藤兵衛。ぽりぽりと頭を掻きながら、慣れた態度で後に続く蔵八。監督はふうと一息ついてから、すぐに我に帰り現場へと小走りで戻って行った。

 詰所の中には、小柄で痩せ細った中年の商人が一人息を切らせて立ち尽くしていた。ひどく疲弊した様子で、扉を開く音にビクリと怯えていた。そんな彼の胸元を掴み、蔵八は肩を怒らせてドスの効いた声で言った。

「おい、鈴乃屋。昨日の件はどうなった?」

「も、申し訳ありません。赤蛇屋蔵之介様。やはり昨日の今日で、クラシナマツ5000本は幾らなんでも……即時に手配出来るのは1500本がやっとでして……」

「んだと! この俺に恥をかかせるってのか! こっちは一本あたり10000銭も出してんだぞ!」

 蔵八はもう一方の手で、鋼鉄の如き拳を鋭く前方へ振り抜いた。派手な破壊音と共に詰所の壁が割れ、窓が飴細工のようにへし曲がった。腰を抜かしかける鈴乃屋は、それでも最後の意地を見せて、震える声を振り絞った。

「ヒ、ヒイイ! し、しかし……どの木材商に聞いても同じ答えのはずです!」

「俺を他のボンクラと一緒にするな! そんな理屈が通るか! 命より大切な契約を破棄しやがって……金蛇屋をナメんじゃねえぞ! 今後、俺たちとの取引は一生成立しないと思え! 他に業者はいくらでもいるんだからな!」

 鬼神の表情を目と鼻の先まで近付けて、地を割るほどの蔵八の怒声が詰所を揺らした。鈴乃屋はその場に言葉なくへたり込み、がたがた震えながら失禁した。

(い、幾らなんでもムチャクチャだ! あれだけ先に用意しておくと言ったのに、整地がまだとギリギリまで引き伸ばしておいて。これが高名な金蛇屋のやり口なのか? このままじゃ殺される……だが、いくらなんでも……)

 その時、震える彼の肩にそっと手を置く者あり。1人の小柄な若い男が2人の間に割って入り、穏やかに蔵八を引き離した。すると彼は舌打ちをしながら後ろに下がり、若い男は欺瞞に満ちた笑みを顔中に浮かべて鈴乃屋に話しかけた。

「ホッホッホ。その辺にしておきなされ。話は聞かせてもらいましたぞ。お節介かもしれませぬが、この南海屋藤吉が仲裁いたしましょうぞ」

「な、南海屋? 失礼ながら、この辺りでは耳にせぬ名前ですが……」

「おお、これはこれは藤兵衛様! おい、鈴乃屋。この方はな、俺が心底世話になってる方だ。さっきみたいな失礼のねえようにな」

 丸太ほどに太い腕をがしりと組み、猛獣の如き眼光で鈴乃屋を睨み付ける蔵八。不穏な笑みを絶やさない藤兵衛。驚きと警戒の入り混じった表情の南京屋。そんな三者の会合は、当然のように藤兵衛が口火を切った。

「話は蔵之介殿から伺っておりますぞ。鈴乃屋殿……これはやってしまいましたなあ。儂ら商人にとって、契約とは全てに優先されるもの。如何に工期が延びようとも、予想し得る商品を常備するは必須ですぞ。如何にクラシナマツが、混迷極まるスザク国でしか採取出来ぬとて、そんな事は理由にはなりますまい。じゃがまあ、発注の遅延は金蛇屋側の落ち度とも言えましょうぞ。そこでじゃ、儂に一つ提案があるんじゃがの」

「え? い、一応聞きましょう。一体何でしょうか?」

「話は簡単じゃ。クラシナマツが駄目なら、カガリツガを混ぜればよい。軽くて加工も簡単、しかも素人目には絶対に分からん。発注元は無能極まる帝国交通省筋じゃ。更に問題なかろうて」

「た、確かにカガリツガならば、すぐにでも提供出来ます。しかし……それは契約違反ですぞ。万が一バレたら、私の首一つでは賄い切れません」

 その言葉を当然のように待ち構えた藤兵衛は、口角を曲げて首を左右に振りながら椅子にどかりと座り込むと、悠然とキセルに火を付けて煙を吐き出した。

「これも簡単な話じゃ。契約第五項をよく読むがよい。曰く、『甲は乙にクラシナマツ1本10000銭で提供するものとする。但し、不測の事態が生じた時は、同等の品質を担保された物資を提供する事で補填する事が可能である』との。不測の事態とは今ぞ。木材を商いとする貴様なら知っておろう? 強固なクラシナマツを表面側に、土台を軽くしなやかなカガリツガにすることで、硬軟合わせた良いところ取りの合板になると。品質は何も問題ないわ」

「!! よ、よくご存知で! しかし巨大建築物の施工でのみ使われる、大陸でも限られた者しか知らぬ最新技術を一体どうやって……」

「ホッホッホ。そんな事はどうでもよかろう。今肝要たるは、この状況を如何に乗り切るかじゃて。儂の書いた絵図はこうじゃ。まず貴様はクラシナマツ1500本、カガリツガ3500本を準備する。原価はざっと見て1000万銭といったところかの。そこに人件費と利益分を含め、貴様の取り分は3000万銭ならば上々じゃろうて。つまりじゃ、まずこの儂に3000万で木材を売れい!」

「は、はて? それは……どういう意味でありましょうか?」

「この案件において、貴様に責を負わせる積りは毛頭ない。分かり易く言わば、この南海屋藤兵衛との三者契約じゃ。貴様は儂に3000万でカガリツガを売って、危険無く2000万の大儲け。儂はそれを金蛇屋に5000万で売り付け、危険と引き換えに2000万の大儲け。金蛇屋は優れた木材が期限内に手に入り大満足。誰も損はせぬし、バレたところで咎を負うはこの儂のみ。何も問題なかろう?」

「………」

「おい、言っとくがな。俺が信じるのは南海屋さんのみだ。彼の顔を信用して、危ねえ橋にも乗ってやってるんだ。もし万が一、お前1人でくだらねえ考えしてみろ。2度とオウリュウの地を踏めねえようにしてやるぜ!」

「…………」

「何を考えようと、貴様に選択可能なのは2つじゃ。1つは下らぬ倫理観に従い、違約金を払った上でオウリュウを追放される。もう1つは幾許かの良心と引き換えに、莫大な金と輝かしい未来をその手にするか。答えは聞くまでもなかろう?」

 むわっと煙を大量に吐き出しながら、指で蔵八に合図する藤兵衛。彼は軽く頷くと、部屋の奥からごそりと箱を取り出して乱雑に開いた。そこにあったのは黄金の輝き。金子が山の様に連なり、怪しくも眩しく鈴乃屋の目を捉えた。

「ここに5000万銭ある。何も言わず3000万もってけ。お前にも家族と従業員がいるんだろ? 俺もそいつらを泣かせたくねえからよ。お前が持っていけば全て丸く収まるんだぜ」

 蔵八は打って変わって優しげな口調となり、南京屋の肩を優しくぽんと叩いた。彼はそれでも暫しの間躊躇したが、やがて手を震わせながら箱の中に手を伸ばした。

「ゲッヒャッヒャッヒャッヒャッ!! そうじゃ、それでよい。これで儂らは一蓮托生ぞ。これからも宜しく頼むわい。ケヒョーッヒョッヒョッヒョ!!」

 藤兵衛の低いダミ声による高笑いが、部屋中にいつまでもいつまでもこだましていた。


 鈴乃屋が去った室内。蔵八は残った金を数えながら、何十もの書類に目を通しつつ筆を取る藤兵衛に話し掛けた。

「ったくよ、旦那様は相変わらずだな。まさか身内からピンハネすっとはよ」

「ふん。あんな下らん契約を結ぶから、こうして付け入る隙を与えるのじゃ。やはりユヅキの仕事はまだまだ甘いの。現場を知らぬからこうなるのじゃ。彼奴には良い薬じゃて。今回の教訓を次に活かし、再度挽回すればよかろう」

「よく言うぜ。追ん出した張本人に向かってよ。アンタのそういうとこだけは、いつになっても分かんねえな。人一倍恨みがましいくせに、決して身内を突き放したりはしねえ。ほんとアンタは不思議な人だよ」

「そんな与太話など知らぬ。儂は儂でしかないわ。……ふう、書き上がったわい。これを各所に届けてくれい。礼は弾む故な」

「その辺は信じてるよ。長い付き合いだが、旦那様が金のことで嘘をついたことは一度もねえ。しかしまあ……相も変わらずマメなこって。皇帝陛下に、ムルオカ様にセイリュウの部族長……ってか、各地の有力者全部じゃねえかよ!」

「こんな状況だからの。如何なる事態にも備えねばならんじゃろうて。いつも言っておろう。危機の中にこそ莫大な宝が眠っておると。……ほれ、500万銭がお主の取り分じゃ。お互い良き芝居じゃったの」

 箱から五本の眩く輝く金塊を取り出す藤兵衛。それをニヤリと笑いながら一礼し、無造作に懐に仕舞い込む蔵八。

「ありがたくゴチになるぜ。これに加え、土やら塗料やら、幾らでも儲け口が来るからな。しかしやっぱアンタ……本当にすげえわ。俺は木の種類なんかひとっつも知らねえよ」

「戯けが! お主も今の部署に来た以上、儂以上にしっかり勉強せい! カガリツガはの、見た目はマツに似ておるし強度も申し分ないが、いかんせん経年劣化が激しいのが特徴じゃ。10年もすれば使い物にならなくなろうて。そうすればまた補強工事が要る。つまりは、また儂らの懐が潤うという寸法よ。蔵八、何度も言ったが知識は力じゃ。肝に命じておけい。力を溜めて、儂の帰還に備えよ。儂にはお前の力が必要なのじゃ」

「旦那様……わかった。俺は絶対にアンタの期待を裏切らねえ。約束するよ。だから旦那様も約束だ。必ず金蛇屋に戻って来いよ。俺は信じてるからな」

「ガッハッハ! 心配ご無用じゃ。儂を誰だと思っておる? オウリュウの覇者の中の覇者、世界の富を喰らい尽くす金色の蛇、金蛇屋藤兵衛その人ぞ! 今迄この儂が“約束”を違えた事があるか? 安心して待つと良いわ」

「へっ。ちょっと褒めるとすぐこれだぜ。これで調子乗らなきゃ最高なんだけどな」

「よく言うわい。お主だけには言われとうないわ。ビャッコ国でも調子に乗って補給線をぶち壊しおってからに」

「あ、ありゃ俺じゃねえぜ。ジョフウのバカが、やれ土地から湧き出る油がどうだのって……それにサクラの奴も偉そうにごちゃごちゃぬかすから……」

「ホッホッホ。それも含めてお主じゃな。世の中に使えぬ者など存在せぬ。要は使う側の器量ぞ。それにしてもお主には手を焼いたがの」

「へっ。そりゃお互い様だろ。俺だって偏屈で強欲なあんたのワガママには、長年苦労させられたぜ」

 2人は悪態をつきながら、顔を合わせて実に愉快そうに笑った。両者にとって、実に久方ぶりの掛け値無しの笑いだった。そのまま暫く昔話に興じる2人。ゆっくりと時間が流れ、やがて外から彼を呼ぶ声が聞こえた。

「おおい、藤兵衛様! みんな休憩で戻ってきたぜ! そろそろ飯にしようや」

「おお、もうそんな時間かの。今行くぞい」

 小三郎の明るく朗らかな大声が響くと、藤兵衛は嬉しそうに勢いよく立ち上がり、ドタドタと外に走り去った。蔵八も苦笑いをしながらそれに続いた。外の広間には、多くの労働者が集まって座り込んでいた。既に藤兵衛の席も設けられており、活気と笑顔の満ちる輪の中に彼はどかんと座り込んだ。

「ほう、美味そうなシチューじゃの。今日は何班が当番じゃ?」

「俺ら4班ですぜ。ウチは元料理人がいましてね。小三郎んとこのクソみてえなメシとは訳が違いやさあ」

「……うむ。実に美味じゃ。今日の特別班報酬は決まりじゃの。どんなに仕事は出来ても、あんなブツを作られては評価は出来んからのう」

「うるせえ! あれでも頑張ったんだよ! 誰でも得意不得意があらあ」

 小三郎と仲間たちが笑いながら、野次るように怒鳴った。笑顔の時間が過ぎて行く。誰も彼もが疲れた体を労わり合い、次なる仕事に備えていた。会話の中に次の作業への擦り合わせが行われ、親睦は日に日に深まっていった。

「しかし……あっという間に形になったな。なんだか感慨深いもんがあるぜ。流石は藤兵衛様だ」

「“様”なぞ付けんで良い。何なら元の藤吉で良いわ。儂とお主は同じ釜の飯を食った仲間じゃろう?」

 小三郎が感慨深げにぼそりと告げた。藤兵衛は美味そうにシチューをかき込みながら、垂れた目を細めてそれに返した。

「いや、本当にすげえよ。仕事の進め方もそう。班ごとに分けて競わせるのもそう。勉強になることばかりだよ」

「ホッホッホ。勉強ときたか。少しは儂も役にたったということかの。まだお主から受けた恩は返し切ってはおらぬがな」

 楽しそうに笑う藤兵衛の顔を見て小三郎は少しだけ俯くと、少しの時間を置いてから、何かを決断したように顔を上げてはっきりと告げた。

「俺よ……今までただ、何となく生きてきたんだ。地元の連中とつるんで、ただその日その日を生きるだけで満足してた。それでも毎日は楽しかったけど、それ以上にいつも閉塞感があった。ここからどこに進んでいいか分からなかったんだ。でもよ、なんか俺……アンタの姿見てよ、考え方が変わったんだ。前にアンタの言ってたこと……やってみてえなって、今はそう思ってる」

「……ほう。具体的には?」

「この辺りは昔から貧しい地方なんだ。国境でなんとなく収入はあるけどよ、ロクな作物も獲れないし、地元に残る人間も少ない。けどよ、俺らはまだここにいて、なんと言うか……ここに根を張ってしっかり生きて生きたいんだ。誰かのケツを拭くために使われるのは御免なんだ。ここ数日、ずっと他の連中とも話してた。俺たちが前を向いて生きて行くために、俺たちが十分な力を手に入れるために、皆で協力して生きていこうってよ」

 気付けば、皆が立ち上がって藤兵衛の周りを囲んでいた。誰しもが強い眼差しで、迷いの無い眼光を彼に向けていた。その曇りも衒いもない瞳に答えるように、藤兵衛は悠然とキセルに火を付けて、口の端に微笑みを浮かべながら煙を吐き出した。

「ほう。その意気は買おうて。しかしよ、それには尋常ならざる金と時間が要るぞ。何より情熱と根気もな」

「金以外はなんとでもなるさ。金だって後でなんとでもしてみせるぜ。ま、どうせ俺たちゃ暇人だしよ」

 声を上げて快活に小三郎は笑った。皆も釣られたように笑った。藤兵衛もほんの少し口の項を窄めて微笑んだ。暖かい空気が周囲に漂う中、藤兵衛は指を鳴らして蔵八を呼んだ。彼は全て了解とばかりに、椅子がわりに座り込んでいた箱を開き、巨大な金塊を10個見せ付けた。驚き腰を抜かす彼らに向かい、藤兵衛は威厳と親愛を同等だけ込めて言い放った。

「お主らの覚悟……この金蛇屋藤兵衛、しかと聞き遂げたわ。ここに1000万ある。お主らの目的には多少心許ないかもしれぬが、当座の資金にはなろう。遠慮なく持って行くがよい」

「え?! そ、そんな大金貰えねえよ! 俺たちは俺たちで独立してやってこうってんだから……」

「この金はあくまでも儂個人の金じゃ。何の遠慮も要らぬ。お主から受けた恩に対する、せめてもの礼と思えばよかろう。それにの……貸すだけじゃ。無利子で無期限に貸してやる故、後で必ず返すのじゃぞ」

「そ、それにしたって……藤吉よう。お、俺こんな大金俺持ったことねえよ! 今でも手が震えて……」

「勘違いするでない。儂はお主らの将来に投資しただけじゃ。儂は返せると信じた人間にしか金は貸さん。儂は損だけは大嫌いなのじゃ。儂の信頼を裏切りたくなければ、内臓を売ってでも金を返せ。よいな!」

 藤兵衛は厳粛に、彼ら一人一人の顔をまじまじと見つめて言い放った。暫しの沈黙、そして……天を破るような叫び声が沸き起こった。

「俺は、いや俺らは必ずやり遂げてみせる! 野郎ども、今日は俺たちの船出の日だ! さっさと仕事終わらせて決起式だ! 藤吉……いや、旦那様。俺らは絶対にアンタの思いを裏切らねえ。どうか信じてくれ!」

「ふん。この世でたった2つ、儂の信頼と自分の言葉だけは決して裏切ってはならぬぞ。期待して待っているわい」

 次々と歓声が湧き上がった。男たちは誇りに満ちた顔を浮かべて、明日の希望を夢見ていた。藤兵衛は満足そうに頷くと、キセルの最後の煙を吐き出して大きく笑った。だが、その時!

「おい。ずいぶんと人気者じゃねえか、モヤシ野郎」

  突如として響く冷たい声。はっと振り向いた先には、巨大な筋肉質の女の姿。藤兵衛は昂ぶった熱を一気に氷点下まで下げて、煙にむせながら大声で言い返した。

「き、貴様は虫! 何故ここにおるのじゃ!?」

「あ? てめえが調子に乗ってるみてえだからよ、俺が直々に釘を刺しにきたんだ。ありがたく思えや!」

「グェポ!!」

 無慈悲に藤兵衛の背中を蹴り上げるレイ。一向にどよめきが走る中、藤兵衛は苦痛を耐えながら指を鳴らした。

「この……脳の足りぬ下等生物めが! 今日という今日は許さぬぞ! おい、蔵八! この忌まわしき虫めを血祭りに上げるのじゃ!」

 命令を受けて、蔵八はふらりと立ち上がった。見れば見るほど逞しい筋肉、レイより頭一つ抜け出た巨体を見せつけるように、彼は頭をぽりぽりと掻きながら藤兵衛に視線を送った。

「旦那様。別にやんのは構わねえけどよ、たぶん……加減するのは難しいぜ。万が一殺っちまっても勘弁しろよ」

「構わぬ! 此奴は殺しても死ぬような者ではないわ! 全力でかかるのじゃ! ……おい、虫よ。覚悟することじゃな。貴様の泣き面を存分に楽しんでから、見世物小屋で晒し者にしてくれるわ! グワッハッハッハ!」

 高笑いを浮かべる藤兵衛。深く大きくため息をつくレイ。そして、拳を鳴らしながらゆっくりと近づく蔵八。

(蔵八と言えば、かつて東大陸格闘界の無差別級王者だった男じゃ。如何に虫が強かろうが、闇の力が制限された上に、深手を負った今なら十分に勝ち目ありじゃ。今までの恨み、存分に晴らしてくれようぞ!)

 徐々に近づきつつある2人を中心に、緊迫した雰囲気が場を包み込んだ。ザッと一歩先に踏み込んだのは蔵八だった。彼は錬磨された強力な拳の一撃を、最短距離でレイの胸元に見舞った。レイは防御もせずに正面からまともに食らい、衝撃で体勢を崩した。その隙を逃さず、素早く蔵八は踏み込み連打の嵐を見舞った。止まらない連発機の如く、彼はこれでもかとレイの全身を叩き続けた。

(よし! いける! その調子じゃ蔵八! 儂も隙を見て加勢せねば……む? 待てい。あの虫の目……あれは……い、いかん!)

 不意にレイの目が大きく見開かれ、全身から炎のように闘気が湧き上がった。蔵八の放つ素早く重い連撃の中で、いよいよ仕留めんと大振りとなった右拳に合わせ、レイは真っ直ぐに拳を突き出し、最小限の動きで彼の顎を鋭く貫いた。グシャリと鈍い音を立ててその場に崩れ落ちる蔵八の身体。完全に気を失いピクリとも動かぬ彼を見て、藤兵衛は慌てふためき駆け寄って彼の頬を張った。

「く、蔵八! 立ち上がらぬか! お主があんな原始人に負ける道理はあるまい!」

「ふああ、遅すぎて眠くなっちまうぜ。おい、クソ商人。まずは伝達事項だ。さっきお嬢様が復活なされた。すぐに出んぞ。その前に……てめえにはもう一度教えとかねえとな。羽を伸ばしすぎて忘れちまってたみてえだが、この俺が……いったい誰かっていうことをな!」

 レイはバキバキと拳を鳴らしながら、憤怒を全身から撒き散らして藤兵衛に近近付いていった。彼は腰砕けで後退りしながら、半泣きで地面の小石を投げ付けていた。

「ヒ、ヒイイイ! お、お助けあれ……」

「もう遅え!」

 その時だった。バッと2人の間に入った小三郎が手を広げ、藤兵衛の盾となるべく立ち塞がった。彼の真剣な眼差しを目にし、とどめを刺そうとしたレイの動きがピクリと止まった。

「あ? なんだてめえ? 巻き込まれたくなかったらそこをどけ!」

「俺はこの方に恩がある。どんな事情かは知らねえが、やるなら俺からやれ」

「そうだそうだ! 藤兵衛様を殺させはせんぞ!」

「ふざけんな大女! 俺たちの力見せてやるぜ!」

 口々に騒ぎ出す人々。周囲の混乱を受けてレイの顔は分かりやすく曇り、心底めんどくさそうに頭を掻きながら、深く大きくため息をついた。

「あのな、こりゃ本気じゃなくてな。なんつうかよ、遊びってか教育ってか……ああ、マジめんどくせえ!」

(何たる重畳! 無辜の一般人に手を上げたとシャーロットに知れたら、此奴は八つ裂きにされるに違いない! ここじゃ! 儂が生き残るには此奴らを使うしかあるまい)

 暫しの間続いたレイと小三郎たちの押し問答。藤兵衛は頃合いを見てそっと立ち上がり、大仰にばっと手を広げて周囲を制した。

「待つのじゃ皆の衆! そこの虫が殺したいのは儂だけであろう! 其奴らは儂の大切な仲間じゃ! 手を出すなら儂だけにせい!」

 藤兵衛の大見得に沸き立つ群衆。人々の声は止まらず大きくなり、やがて彼らはレイを囲んで口々に攻め立てた。

「いや、俺たちが引き受けます! 来い、女! 俺から先に殺せ!」

「そうだそうだ! 綺麗なねえちゃんだからって調子に乗るなよ! かかって来い!」

「確かにとんでもねえ美人だが、だからって手加減する俺らじゃねえぞ!」

「え?! び、美人だ? この俺が……」

 不意の言葉に立ち尽くし、きょとんとした表情を浮かべるレイ。そんなレイにとどめとばかりに、小三郎がツカツカと押しよった。

「おい。アンタ名前は?」

「あ? 俺はレイだ。それがどうした?」

「俺はアンタみてえな美人に初めて会った。そんなアンタに殺しなんてして欲しくねえ。ここは俺に免じて、どうか拳を納めてくれねえか? 頼む、この通りだ!」

 深々と頭を下げて小三郎は言った。それに次々と従う男たち。レイはあからさまに挙動不審な視線をあちこちに向け、顔を赤くしながら大声で吐き捨てた。

「ちっ。そこまで言われちゃしかたねえ。今日だけはカンベンしてやらあ。おら、さっさと行くぞクソ商人!」

「グェェェェ! も、もそっと丁寧に……グェポ!!」

 レイは藤兵衛の首筋を無造作に掴んで引き摺り、尻に痛烈な蹴りを見舞った。痛みと恐怖に震えて屈み込む彼の側に、小三郎が悲痛な面持ちで駆け寄って来た。

「旦那様……行っちまうのか? もうすぐ完成だってのに、せめて最後まで見守ってくれよ」

「甘えるでない! お主らは自分たちの力で生きると決めたのじゃろう? もう儂がおらんでも問題なかろうて。上手くいかぬ時にだけ偉そうに現れ、平時には傲慢に踏ん反り返る。長とはそういうものじゃ。……おい、エビス。近う寄れい!」

 輪の外からオドオドと此方を伺っていた現場監督エビスは、藤兵衛の呼び声にびくんと反応すると、七三の分け目を急ぎ正して彼の方に寄った。彼はふんと鼻を鳴らし、キセルをふかしながら尊大に述べた。

「後は貴様に任せたぞ。蔵八を補佐し、小三郎らと協力しながら、何としてでもこの現場をまとめてみせよ」

「し、しかし私では……余りにも能力不足でして……」

「黙れい! 貴様、この数日間儂の側で何を見たのじゃ! 声を荒げんでも、鞭を振るわんでも、人を使うことは出来ると知ったであろう! 貴様も金蛇屋の一員であるなら、目にしたものをしかと胸に秘め、思考を重ね、結果を示せい! 異論あらば即座に辞表を出しこの場を去れい!」

「で、ですが……私には自信がありません。本当に私に出来るのでしょうか?」

「儂はの、出来ると思うた人間にしか仕事は任せぬ。今が貴様の人生の踏ん張り時ぞ。変わるのは今しかないわ。儂の期待に応え、見事やり通して見せよ。これは……金蛇屋一門総帥としての業務命令じゃ!」

「わ、分かりました! 全力で……全力で頑張ります! 必ずやり遂げてみせます!」

 顔をぐしゃぐしゃにして泣き崩れるエビス。それを見た藤兵衛はにやりと笑うと、キセルの煙を一気に吐き出した。

「ふん。男が簡単に泣くでないわ。別れの時こそ豪快に笑うものぞ。……では皆の衆、儂の分まで頼むわい。暫しさらばじゃ!」

「旦那様! お達者で!」

「必ず、必ず俺らは強くなってみせるぜ! また会おう、旦那様」

「へへ。どうせアンタのことだ。俺は何も心配してねえよ。いつも通り好きにやんな」

 去りゆく藤兵衛の背に、皆の声が聞こえて来た。だが藤兵衛はレイに引き摺られたまま、振り返る事なくニヤリと笑った。遠ざかる声を一身で浴びながら、彼は心の中で深く内省していった。

(儂も……強くならねばのう。このまま流されるのみではいかんわい。そんなものは儂の流儀ではあらぬ。どれ、少しばかり策を練ってみるかのう)

「おい、ちょっといいか?  ……聞いてんのか、おい!」

 ぼんやりと思考にくれる藤兵衛の耳に刺さるレイの叫び。藤兵衛はめんどくさそうに首だけ曲げて、全身で不快感を表現した。

「何じゃ、小煩いのう。折角の良い気分が台無しじゃわい。用があるなら早うせぬか」

「お、おう。あのよ……実は……なんつうかよ……」

「だから何じゃ! はっきり申せ! よく見れば貴様、随分と顔が赤いが、具合でも悪いのかの(ケッヒョッヒョ! いい気味じゃ)」

「ええと……その……あいつらよ、俺のこと……ほら、び、美人とかぬかしてやがったろ? ま、んなの冗談だろうけどさ、テキトーなんだろうけどよ、そんなこと言われたの……初めてだからよ。ちょっとビックリしたっていうかさ。てめえはその……どう思う?」

「蓼食う虫も好き好きと言うからの。貴様の野獣の如き太い手足も、無駄に整いはするも一際間の抜けた顔も、乾いた流砂の如き筋肉だけの胸も、誠に信じ難いが好む者は好むのであろう。まあ儂からすれば吐瀉物の方がまだ……」

「うるせえ! てめえに聞いたのがそもそもの間違いだ! ああ、ほんと損したぜ! このクソの中のクソ男が!」

「な、何を怒って……グエパァァァァ!

 藤兵衛の地獄の様な呻き声が街中に響き渡った。これはある意味では狼煙。人と人の出会いと別れを告げる幕間の物語。この短い時間がもたらしたもの、それは小三郎とこの街の運命を大きく変えることになるが、それはまた別の、もっと先の話。

 こうしてまた長い旅が始まる。過酷で拠る術のない荒野の道。だが彼らは絶望はしていなかった。築き、進み、前を向くことが出来るのだから。それは、人として生きることの道を示す標に他ならなかった。

 金蛇屋藤兵衛の進む道は、闇の中を切り裂く一筋の光となり、彼の周囲の人々を照らしていた。今迄も、恐らくこれからもずっと。


 神代歴1278年10月。

 金蛇屋藤兵衛と愉快な仲間たちの旅は、再び輝きを放ち始めた。

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