寿様の日がな一日

藤咲 みつき

第1話 寿様の日がな一日。

1話 寿様の日がな一日。

 大きな千年桜がある湖のほとり、そこにポニーテールの良く似合う女性が、女子高生の制服姿で、樹の幹のちょっとしたくぼみのところに、フワフワの羽毛の様な白い綿で包まれたとても柔らかそうなところで寝息を立てていた。

 木々から漏れるこぼれ日が彼女の純白の白い肌に当たり、その白さを際立たせる。

 スタイルの良いその少女の名は寿、館宮の天御神、その上司であり生みの親でもある神だ。

 彼女に居るこの泉には、年中咲き乱れ、決して消える事のない桜の花びらが絶えず舞、その泉の水は青くというよりも、周辺の色の緑や、桃色の桜で彩られたピンクで、白と緑と桃色を混ぜ合わせたような、所々で泉の色が異なっている、鮮やかな光景を醸し出していた。

 石や木の根っこや枝には周辺の湿気のためか青々とした緑の苔が規制しており、濃い緑を強調していた。

 空気が凛と張り詰め、静かな時間の中でゆっくりとその女性が目を覚ます。

「ふぁ~、えっとぉ、ああ」

 起き上がり大きくあくびを一つした後、おもむろに泉を見れば、指先をちょろっと動かす、すると、泉の水が白く光、次に青くなり、次第にその色が最初の透明さを取り戻していく。

 彼女、寿の日課は、娘である館宮の天御神こと、未菜の眷属(仮)である信久が毎朝持ってくる穢れ、それを泉に流されたものを浄化し、自然の流れへと戻す作業から始まる。

 寿は神であるが故に、食事などはしなくても生きていけるため、今日も起きぬけに寝ぼけ眼で、空を見ながら、今日も良い天気になりそうだと一人満足そうに空を見る。

 しかし、この場所自体が年中気候や天候が変わらないため、今日も出はなくいつも天気が良いと言えたが、彼女は見通す目で外の世界、現実社会を見る事も出来るので、外側を見て言ったともいえた。

「う~ん、どうしようかなぁ。今日の仕事はもう終わりだし、たまには日がな一日を外で過ごしてみるのもいいかなぁ」

 寿にしては珍しく、一人誰に言うでもなくそう言いながら柏手を打つ。

 すると目の前に赤い鳥居が現れ、その先に館宮神社の境内が現れた。

 門をくぐり、現代へと降り立つ。

 制服姿の美少女が、8時過ぎの境内で何をしているのだろうか、と思われることもなく、境内は静かで、鳥の鳴き声しか聞こえてこない。

「未菜はどこだ?」

 自身の部下でもあり、娘でもある神を探しつつ、境内を彷徨うも、それらしい人物は見つける事は出来ず、ふと、未菜と信久の住む家に目が行く。

「あそこか?」

 普段2人がそこで寝食を共にしている事は知ってはいるが、寿としてはけっしてそこに足を踏み入れてみようという気は起きなかった。

 寿としては、極力2人の絆の構築や、男女の付き合いに口を出したくなかった、というのがあり、2人の生活圏内に入らないように心掛けていた。

 しかし、探している人物が見当たらないのだから仕方がない、そう自分に言い聞かせ、玄関の戸を開ける。

 現代式の開閉ドアを開け中に入れば、真新しいヒノキの香りと、艶の良い廊下が見える、寿ははいていた靴を脱ぎ室内へ、リビングへ行くも、未菜は留守なのか、姿が見当たらない。

 さてどうしたものかと思ったので、仕方が無いと、神力の力を使って彼女の居場所を探り始めた。

「何をしているんだうちの娘は・・・」

 額に掌を当て、天を仰ぎ見る寿。

 彼女の瞳に映った光景は、江の島で、江の島の手前で男女の縁を結んでしまった未菜が苦悩している姿だった。

 江の島と言えば弁財天様がおり、恋愛成就や、美や縁結びとして有名である。

 特に江の島の弁財天は財を成すというよりも、恋愛面での縁を結ぶに近い性質があり、未菜がその目の前で、恋愛面での縁を結んでしまったとなれば、それはそれで大事になりそうであった。

「知らぬ。私は見ておらぬ・・・」

 そう言って、リビングを後にする、そこでふと思った。

「未菜の嫁入りさせた、信久の部屋って確か・・・」

 何を思ったのだろうか、寿の足が信久の部屋へと向かう。

 部屋の前に付くと、ドアを開け、そのまま中へと侵入。

 そこで悪知恵と言えばよいだろうか。

「エッチい女子の本はどこかねぇ」

 そう言いながら、切れながらの目をきょろきょろと周囲を見つつ、本棚へと視線を移せば、タイトルに、「甘神さんちの縁結び」というタイトルが目に留まり、手に取りおもむろにその本を読み始めた。

 そこには絵で描かれた物語が連なっており、寿は最初は興味本位だったのだが、とても分かりやすくキャラクターが動き、セリフ自体は少ないまでも、一コマ一コマに意味があり、動きがあったため、気が付けば読みふけり始めてしまっていた。

「なにこれ、面白いなぁ」

 思わず声が漏れる。

 寿は自分では全く自覚をしていないが、ページを読み進めるたびに寿の顔が笑顔になったり険しくなったりと、コロコロと百面相をしているかのように変わっていることに自身ではきずかぬままに読みふけってしまっていたのだった。

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

寿様の日がな一日 藤咲 みつき @mituki735

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ