他人の人生の上で踊る

黒守日和は瞳を瞑り深く呼吸をする。

心の内から過去の思い出を振り返る。

瞼の裏には、まるで昨日の様に鮮明に記憶に残っていた。


「(初めて出会った時の事を思い出すわ、あれは雪の日だったかしら?)」


遥か先まで続く灰色の曇り空。

淀んだ色合いから、真っ白な雪が降る。

地面は雪景色に変わり、息も凍る冷気が漂う。


「(日和は物之怪によって破壊された村を見に来て、彼は其処に居たの)」


木造の建築物は衝撃によって全損して無惨に変わり果てる。

人が住んでいた形跡は、惨状と共に消え失せていた。

黒守日和は護衛を連れて見物しに来た。


孤児が居るのであれば、引き取り、自らの駒にしようと考えていた。


「(雪の中で酷く凍えている彼の姿は、日和の目に映ったわ、それはもう、可愛らしい)」


そこで黒守日和は景井在間と邂逅した。

その出会いは正しく、運命と言うに相応しいだろう。

そう思える程の出会いであり、衝撃だった。


「(だって、震える兎の様に見えて、滑稽で、弱者の様な姿をしていた、だと言うのに)」


体は冷気によって冷えて凍えている。

血液が凍結してしまいそうな程だ。

眠ってしまえば二度と眠りから覚めないかも知れない。


体育座りで息を潜め寒さに耐える景井在間。

暖かな衣服に身を包み、遠くから見ても裕福そうな姿をしている黒守日和。

対照的であったが、だからこそ、そのみすぼらしい姿の中にある輝きに彼女は焦がれたのだろう。


「(その目は、決して弱者では無かった、折れている様子なんて一切見せていない)」


絶対に死なないと言う意思。

その鋭い視線が、彼女を釘付けにしたのだ。

それ以降、黒守日和は絶対に景井在間を手に入れる事に決めた。


「(あぁ、この子はきっと、這い上がって来る、何れ、日和と同じ場所に来ると)」


だから。


「(だから日和は、彼の為に人生を用意してあげた、何れ日和の元に来る様に)」


景井在間が、黒守日和の元に来る様に、彼の人生に介入し、手引きをした。


「(偶然を装い、暗躍術に長けた職者を置いて、彼に育てさせた)」


全ては彼女の掌の上。

彼女が作り上げた脚本に沿って演じたに過ぎない。

景井在間の人生は、黒守日和の都合の良い駒へと作り替えられたのだ。


「(そして、その職者に、日和の元へ来させる様に誘導させた、そう、全ては)」


中に向けて五指を開き掌を空に向けて腕を伸ばした。

何も無い空に向けて、五指を折り曲げて空を掴む素振りをする。


「(日和の計画した通り…、ねえ、在間、貴方の人生は、日和のものよ?)」


彼の人生は計画の内。

黒守日和の匙加減で、景井在間は生かされている。




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