黒守衆の姫様

簡易家屋に入る。

戸の前に立ち、戸を叩くと共に部屋に入る。


「なあに?どちら様?…あら、何か匂うかと思えば…在間じゃない」


部屋の中に居たのは一人の女性。

黒髪に黒い着物を着込んだ可憐な女性だった。

景井在間は喉を鳴らす。


「(この方が、黒守衆の棟梁、黒守日和様だ、存在感の無い俺に対して、有用だと考えた彼女は、暗躍術を買って下さった、現在では、俺の役割には黒守衆の行動を記録する事にある、既に討伐報告の役割をしている仏龍院副隊長と違い、黒守衆の討伐を記録するのではなく、黒守衆の言動を記録するのが俺の役割、何故、そんな事をするかと言えば…)」


「本日も、特に嫌な事は無かったかしら?特に、私に対して不満を言う様な不届き者は?」


黒守日和は盆の上に置かれた、お茶請けに用意されたお菓子に手を伸ばす。

餡子の入った和菓子を楊枝を使って器用に切り分けると口の中にお菓子を含めた。


「(この人の性格だ、黒守日和隊長。彼女は女王の様な方、事実、隊長と言う格である以上、偉い事は偉いのだが、しかし…彼女は絶対的な王政を築きたいと考えている。彼女は隊長になる前に、隊長候補者に奇策を仕掛け、暗殺したり買収したりと聞いている、事実、当時の俺も彼女に実力を買われていて、その様な報告を聞いていた)」


そのまま、出されたお茶を手に取る。

湯のみから湯気が出ている、適度な温度に保たれた飲み物に口をつけて飲み出した。

景井在間は、彼女に向けて札を出す。

白墨で書かれた名前と数字を彼女は視線を下ろして確認する。


「…『渦巻武郎、評点七、風間慎吾、評点六』…『伊波兵次郎。評点三』…この評価は低いけど、一体何をしたのかしら?」


更に、景井在間は懐から札を取り出して理由を書いた。

その理由を確認して、彼女は笑う。


「へぇ…『黒守日和に対する不平不満、不信感を抱いている』…そう、なら仕方が無いわ、日和を良く思わない子は要らないの、後で副隊長に話しておきましょう」


柔和な笑みを浮かべた。

表情筋が綻んで優しい顔つきをしている。

だが恐ろしいことに、その目は笑っていない。

その笑みこそ恐ろしいと景井在間は思った。


「(勿論、副隊長とは、仏龍院副隊長の方ではない、もう片方の、俺と同じ暗躍術を持つ暗殺者の事だ、俺は直接手は下さない、生きる事で精一杯だからな)」


一つの部隊に隊長は一人、副隊長は二人、と言う事になっている。


「今日も、お疲れ様、やっぱり貴方は使える子ね、在間。褒美でもあげましょうか?…さあ、こっちに来なさい」


黒守日和は自らが使用した楊枝で和菓子を切り取り、先端で突き刺して景井在間に向ける。

掌を更にして、景井在間を呼ぶ。

彼女の行動に、景井在間は喉を鳴らしていた。


「(褒美、そう言われても嬉しいとは思わない、この人に気にいられれば、気に入られる程に、俺は暗黒面に墜ちていきそうで恐ろしいと思っているからだ)」


無論、逃げる事は出来ないので近づく。


「はい、あーん」


今度は嬉しそうな顔をして、景井在間に口を開かせる。

和菓子を食べる景井在間だが、味など感じない。


「(この菓子の中に毒でも入っているんじゃないのだろうかと、勘ぐってしまう)」


舌先に異変が無いかを、景井在間は用心深く和菓子を食べていた。


「大丈夫よ、そんな顔しなくても、毒なんて入って無いわ、…良く働く可愛い子に、そんな酷い事なんて、すると思う?」


彼女の言葉に、思わずせき込んでしまいそうになる。


「(心を見透かされている、けど、やりそうなんだよな、この人は…)」


まるで妖怪を相手にしているようだと、景井在間は思った。









=========

コンテストに向けた作品の第二作目です。

復讐を終えた転生者の話『復讐のレアンカルナシオン』

聖女と敗北の歴史を覆す話『聖女再戦』

こちらの方もどうぞよろしくお願いします。


面白いと思った方は

評価、フォロー等宜しくお願い致します。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る