第3話

「(こんな、美人に、急に襲われるなんて、男冥利に尽きるが…だが、これは違うッ)」


景井在間は危惧した。

彼女たちが物之怪と同じように景井在間を狙っているのだとしたら。


「(そうだ、決して、これは素晴らしい事じゃない…ッ)」


その膨らんだ青い瞳を見る。

その瞳は明らかに発情している。


「(目だ、この目、この顔、俺が、襲われてきたあの目に似ている…ッ)」


その彼女たちの表情を見て景井在間は自らの体質によってやってきた物之怪たちの姿を想像した。


「(そうだ、最初こそ、仲良くなれるかも知れないと思っていた、だがそれは大きな間違いでしかない、全ては、俺を喰らう為に行動しているに過ぎないッ)」


自分を狙う物之怪の姿と彼女の姿が重なってしまったのだ。

途端に恐怖を覚えた景井在間。


「(くッ!逃げるしかない!!)」


「ぁ…」


自身を抱き止める腕を振り払い景井在間は地面を蹴って走り出した。


「…っ!」


後ろから追いかけてくる涼玄白涼。


「(何故だ、何故追ってくるッ!くそ、俺の心の中にある恐怖が、呼び起こされそうだ!考えるな、今は、涼玄隊長と、とにかく距離を取るんだ!!)」


普通に考えれば化け物の能力を持つ涼玄白涼の方が数段も身体能力が高い。


「(心を無にしろ、暗躍術は気配を消す事から始まる。死んだ様に気配を断つんだッ!平常心、心を消し去れ…俺なら出来る!!)」


だが景井在間は即座に自らの姿を自然と同化させる。

先程口から漏らしていた生気は命の危険と判断して特に集中力が増していた。


「(…走れ、ただ、走るんだ)」


自らの姿を確実に自然と同化して自分の痕跡と世界を確実に遮断する。

こうなるといくら隊長としての能力を持つ涼玄白涼であろうと完全に追跡するのは不可能だった。


「(よし…後ろから追ってこない、逃げ切れた、よし、よし…ッ!)」


無我夢中で走り続ける景井在間。

そうして景井在間が走り続けた結果怪我人が多く横たわっている休憩所へと戻ってこれた。


「く、うぅ…」

「大丈夫か?怪我の具合は」

「俺はまだマシだよ、それよりもアイツ…顎が無くなって満足に喋る事も出来ないらしいぞ」

「惨いなあ…」


周辺に居る隊士たちは会話をしていた。

此処は、物之怪が来ない安息の地。

例え物之怪がやって来ようとも、他の武之士が迎撃するので、安全地帯としての役割を果たしていた。

景井在間は口を閉ざしながら必死になって呼吸を整える。


「(よし…戻って来れた、はあ、疲れた)」


景井在間は、地面に座る。

そして少し油断した時だった。

景井在間が伸ばした足に躓く武之士が、地面に倒れたのだ。

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