第30話 雨

「……ねぇ、なっちゃん。ひとつ聞いてもいい?」


 土砂降りの雨の中、傘を忘れたわたしは千夏に車で送ってもらっていた。


「どうしたの?」

「莉乃が雨が苦手な理由知ってる?」

「……知ってはいるけど、勝手に話していいかはわからないわ」

「教えて?友達だから力になりたいの。絶対に他言はしないから」


 わたしの言葉に千夏はしばし思案する。


「無理ならいいよ?なっちゃんを困らせるつもりはないんだ」

「……話すよ。ニュースになっていたから、調べたら出てくるだろうしね」

「ニュース?」

「覚えてない?3年前、女子中学生の自殺のニュースがあったこと」

「言われてみればあったかも?」

「その自殺した子がね、乙葉さんの友達だったのよ。死んだ子はΩでαの子と乙葉さんと三角関係だったらしいの。自殺した日は酷い雨だったそうよ」

「だから莉乃はΩのわたしを気にかけてくれてるんだね。自分に正直に生きろって言われたんだ」

「Ωだから重なる部分があるんでしょうね」


 想像してみるとその状況はものすごくしんどそうだった。


「なっちゃんとの恋を応援してると言われたよ」

「……そうなのね」

「あ、なっちゃん酷い。他人事みたいな反応しないでよ」

「……たとえ運命の番でも今は恋愛出来ないでしょう?教師と生徒なんだから」

「“今は”って言ったよね!?じゃあ、卒業したら良いってこと!?」


 その言葉に千夏は答えない。だが、運転している横顔は赤く染まっていた。


「……あまり困らせないで。私、これでも我慢してるんだから。結ちゃんだからこうやって送ってるんだよ?」


 それって特別扱いってこと?

 千夏につられてわたしの顔も赤くなる。

 自惚れてもいいんだろうか。

 わたしは千夏の“特別”だって。


「……雨の日は傘を忘れてきてね。そうしたらこうやってふたりきりになれるし、送ってあげられるから」

「……うん!」


 細やかな約束がわたしを嬉しくさせる。


「……本当は私だってもっと一緒にいたいんだよ?あなたに触れたいし、触れられたい」

「ーーっ!」


 急に綺麗な顔が近づいてきてドキドキする。


(キスされる!?)


 ぎゅっとわたしは目を閉じる。

 おでこに柔らかい感触がする。


「こっちはまだダーメ」


 人差し指がわたしの唇に触れ、千夏はふわりと笑った。

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