第31話 姉妹

「あら?結 、なんかいいことあった?」


 雨の中を帰ってきたわりにご機嫌な妹に私はそう尋ねた。普段は濡れてご機嫌ナナメなのに珍しいこともあるもんだ。


「……わたし、雨が好きになりそう」

「おー?妹よ、何があったんだ?」

「千夏にね、雨の日は傘を忘れてきてねって言われたの。ふたりきりになる口実なんだよ」

「なかなかいい感じだね?」

「まーね。おでこだったけどキスもされたし」

「よかったじゃん」

「うん。生徒のうちはダメだとは言われたけど、その先なら恋愛出来るって言ってくれたの。わたしと千夏にはちゃんと未来があるんだよ。そうやって考えてくれてたことが嬉しいの」

「……自分以外を見ろとは言わないんだね。教師なら言いそうなもんだけど」

「言われてみればそうだね」

「あくまでも結は自分のものって感じ。意外と独占欲強いのかも?六花にそっくりよ」

「お姉ちゃん、本気でそう思う!?」


 食い気味の妹に私はコクコクと頷く。


「あれだね、6月が楽しみだね」

「6月?」

「梅雨じゃん。雨降りまくるよ?」

「……朝から雨の場合はどうなるんだろ?さすがに傘、いるよね?」

「折りたたみ傘で行って、鞄に傘を隠しとく?それか私が行きだけ送ってあげよっか?早い時間でいいならだけど」

「ぜひお願いします、お姉様」

「現金な奴め。ま、恋する気持ちわからなくないし、協力してあげるよ。でも、くれぐれもお母さんに気づかれないようにしなよ。ただでさえ、私が六花と同棲してるから反対される可能性が多いにあるからね」


 私は小さい頃から我が強く、自分の好きなように生きてきた。だから、結が生まれ、結はお母さんの期待を一身に受けて育てられてきた。私はそのことに罪悪感を抱いている。

 恨まれても文句は言えないのに、結は私のことを慕ってくれる。本当にかわいい妹だ。


「今回は2週間だっけ?」

「うん。結の話聞いたら六花に会いたくなっちゃった」


 六花は私の番で若手の弁護士だ。六花の仕事が忙しく、まともに家に帰れない期間は私は実家に帰るようにしている。それでなんとかお母さんの機嫌を取っている。


「……ふたりとも俺の前で話していいのかよ」

「お母さんに言うつもりならもうとっくに言ってるでしょ、あんたなら」

「……まぁ、恋愛の邪魔されたくない気持ちはわかるし」

「ならいいじゃない。うまく隠してよね、瑠希。まぁ、私はあんたの恋愛は大反対だけど」

「なんでだよ、実 」

「同級生を“お父さん”と呼びたくはないわよ」

「わたしは応援してるよ、瑠希」

「結様はお優しいですね。実と姉妹とは思えませんね」

「るーきー!」

「暴力反対……っと、いけないいけない仕事しなきゃ」


 瑠希は笑いながら私から逃げていった。

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