第28話 さよなら

 一度触れるともう歯止めは効かなかった。

 お互いがお互いを求め、愛し合っていた。

 ふたりの身体の境界線がわからなくなるくらいに熱く熱く溶けて、蕩けて、それが幸せでたまらなくて。


「ーー莉乃 、好き……大好き……!」


 うわ言のように[[rb:双葉 > ふたば]]はボクの名前を呼び、その声が甘く耳に響いていた。


「ーー守るから。絶対、八重から守るから」


 ボクの必死な言葉に双葉は嬉しそうに微笑んでいた。

 だから気づかなかった。双葉の思惑に。


 心も身体も満たされて、ボクは睡魔に襲われる。


「眠いなら寝ていいよ?」


 優しく双葉がボクの頬を撫でる。


「双葉も寝よ?」

「私は莉乃の寝顔見てる」

「えー、恥ずかしいよ」

「だって、とっても綺麗なんだもの。寝ちゃうのもったいない」

「そういう双葉だって、綺麗だよ?」

「……ふふ。嬉しい。莉乃に褒められた」


 心地良い眠気がボクを夢へと誘う。



「……おやすみ、莉乃。ずっと愛してるわ。……だから、ばいばい」



 目が覚めたら隣に双葉はいなかった。

 時計を見たらまだ夜中の3時をさしていた。



 けたたましくスマホが鳴る。相手を見ると八重だった。



『……こんな時間にどうしたの?』

『あんた、双葉と一緒にいるでしょ!?』

『いないよ。双葉がどうかしたの?』

『いきなり電話がかかってきて、ばいばいって言われたの。かけ直しても出ないし、私どうしたらいいか……』


 ばいばいという言葉に胸騒ぎがした。


『……1回切って、双葉にかけてみる。また折り返すから』


 ボクは震える手で双葉に電話する。が、出る気配は全くない。


『……出ない。双葉、他に何か言ってた?』

『やっぱり私を好きになることはできないって。莉乃じゃなきゃダメなんだって』


 ポツポツと雨が降り始める。

 ボクと八重は合流して、双葉の住むマンションへと向かう。

 と、ベランダに座っている双葉の姿が見えた。


「双葉!」

「危ない!そこから降りて、双葉っ!」


 ボクたちと目があった双葉はふるふると首を横に振り、手すりから手を離す。支えがなくなった身体は重力に従い、落下していく。


 一瞬が永遠のようだった。

 ぐしゃりと嫌な音で、時間は流れを取り戻す。


 雨はいつの間にか土砂降りになっていた。




 ☆



「莉乃って雨苦手?」

「え?どうして?」

「雨の日、いつも泣きそうな顔してる」

「……結は自分に正直に生きてね。自分に嘘をついちゃダメ」

「……うん」

「水無瀬先生とのこと応援してるから」


 ぎゅっとボクは結を抱き締めた。

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