第25話 入部

「ちゃんと別れてきたんでしょうね?」


 険しい表情をしている八重に私はしっかりと頷いた。


「もう関らないでって言ってきたよ。でもね、そもそも私と莉乃は付き合ってないんだよ」

「そう思ってるのはふたりだけよ。みんな付き合ってると思ってる。双葉が莉乃を好きなのは事実でしょ?」


 私は違うと否定できなかった。

 否定してしまったら、莉乃との思い出を全て偽りにするように思えたからだ。


 今更後悔が押し寄せてくる。

 もっと違う言葉があったのではないかと。

 あんなナイフのような言葉じゃなくてよかったんじゃないかと。


「まぁ、とりあえずはこれでいいか。別に双葉をいじめたいわけじゃないしね」


 ぽんぽんと八重が私の頭を撫でる。


「好きよ、双葉」


 優しく八重は笑ってくれたが、思っていたのは莉乃のことだった。



 ーー好きだよ、双葉。

 ーー私も好きだよ、莉乃。



 関係が変わることを恐れて、曖昧なままにしていた“好き”という言葉の意味。

 あの日にはもう戻れない。


 ☆


「はい。確かに入部届受け取りました。写真部へようこそ」

「ありがと、千夏先生。部活したことないから、すごく楽しみなんだ」


 わたしはなんとか保護者の欄にサインをもらい、無事に入部することができた。尽力してくれた瑠希には感謝しかない。


「中学では何かしなかったの?あ、もう写真部だからみんなと同じようになっちゃんって呼んでね」

「わかった。あのね、お母さんが厳しい人で許してくれなかったの。時間があるなら勉強しなさいって。勉強は裏切らないからって」

「確かに勉強も大切だけど、それだけならひとりでできてしまうわ。いろいろな行事や部活が学生生活ならではないかしら。よくそれで許可を貰えたわね。苦労したんじゃない?」

「なっちゃんといたくて頑張ったの。あ、写真ってコンテストとかあるよね?成績を下げないことと、コンテストで賞を取ることが入部にあたっての条件なの」

「1番の理由は私、なのね」

「そうだよ。本当のことなんだから仕方ないでしょ?」


 わたしの言葉に千夏は少し顔を赤くする。


「あとは賞、か。2年生に賞を狙ってる子がいるから相談相手にいいかも」

「なっちゃんは賞、応募しないの?」

「したいとは思うんだけど、納得いくのが撮れなくてそのまま締め切り過ぎちゃうの。それに私は賞よりは“楽しさ”を優先したいから、向いてないのかもしれないわね」

「何かをやり遂げた証は欲しくないの?」

「あったらいいなとは思うけど、何もかもに結果を求めるのは苦しくない?息抜きも大事だと私は思うよ」


 思いがけない言葉にわたしはパチパチと瞬きをした。

「写真部がどうか[[rb:彼方 > おちかた]]さんの安らぎの場であることを願ってるよ」


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