第19話 差別

「ご機嫌ですね、お嬢様」

「まーね。聞いてくれる、瑠希?」

「今日の勉強を終わらせてからなら、いくらでも聞きますよ?」

「ちぇー、ケチ」

「ケチも何も日課でしょう?」


 文句を言いながら、わたしは教科書を開く。

 成績でトップであることは義務だ。

 1番でないと意味はない。

 Ωである自分は人一番努力しなければ、対等にさえなれないのだ。


「瑠希はαだもんね。いいなぁ」

「αもαでいろいろ大変なんですよ?」

「まー、瑠希は綺麗だし、優しいし、さぞかしモテたんだろうなー。お母さまにはもったいない」

「もったいなくなんてありませんよ。奥様はとても魅力的です。今は旦那様のことで傷ついているだけです。厳しいかもしれませんが、奥様は間違ったことは仰らないでしょう?自分と同じ思いをしてほしくないから、お嬢様に厳しくなさるんですよ」

「……わかってるよ。でも、もっと自由が欲しいよ」

「ーーひょっとして、恋でもしてるんですか?今までのお嬢様は自分のためだからと文句ひとつも言いませんでした。誰かを想う気持ちが芽生えたのではないですか?」


 瑠希の言葉にわたしは顔を真っ赤にする。


「……瑠希は“運命の番”って信じる?」

「信じますよ。俺と奥様がそうですから」

「えぇっ!?嘘でしょ!?」

「本当です。あの感覚は体験した者にしかわかりませんよ。さ、話の続きは勉強が終わってからです」


 驚きの新事実発覚にわたしはものすごく驚いていた。


 ☆


「ーー双葉に謝れ!!双葉はそんな子じゃないっ!」

「莉乃 、落ちていて?私は大丈夫。Ωだからこんなのには慣れてるよ。でも、莉乃を巻き込んだことに私は怒ってるよ」


 双葉がからかってきたやつらに近づいて、平手で顔を殴った。


「情けない男たち。莉乃のほうがもっとずっとかっこいいわよ。どんなに発情期ヒートが辛くても、あんたたちに頼るわけないじゃない」

「お前、Ωのクセに生意気なんだよ!?」

「Ωのクセにって何?法律で平等と決められてるのも知らないくらいバカなの!?」

「は?βの俺に歯向かうのか?」

「たかがβがうるさいな!いばるくらいならαを連れてきなさいよ!?」 


 喧嘩はヒートアップしていく。


「ーー双葉。落ち着いて」


 ボクは双葉を優しく後ろから抱き締める。


「ーーわたしが一番怒ってるのはね、性別に悩んでる莉乃のことを笑い者にしたことよ!!」

「……あの落書き見たの?」

「……画像が送られてきたの。誰があんなこと書いたの!?莉乃に謝ってよ!?」


 悲鳴に似た叫びが聞こえる。

 騒ぎを聞きつけた担任が教室にやってきて、わざと大きくため息をついた。


「またお前か、遊馬 。まったく、Ωは問題ばかり起こして困る」


 法律で決められても、染みついてしまったΩ差別はなかなか消えはしない。それが現実だ。


「ーー遊馬さんも、乙葉さんも悪くありませんよ。これ、黒板のいたずら書きの写真です」


 そして、αが一番強い。


「αの大和が言うならそうなんだろうな」

「えー!俺、Ωにぶたれたのに!」

「そうなのか、大和?」

「いいえ。どちらも暴力を振るってはいません」

「なら問題ないな」


 しれっと嘘をつく大和の表情からは感情はわからないが、どうやらボクたちの敵ではないらしい。


「……女の子らしくしてみようかな。双葉のためにも」


 そう小さくボクは呟いていた。


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