第18話 真実

「……なにこれ」


 ボクの鞄が肩から滑り落ち、ドサと音を立てた。

 黒板にいたずら書きがされていた。



『遊馬双葉は乙葉莉乃に孕まされました』



「あれ?莉乃ひとりなの?」



 慌てて黒板消しで落書きを消そうとするボクの手をありさが掴んで止める。


「これ、誰が書いたの?」

「あたしに聞かれても知らないし」

「じゃあ、手を離して。消さなきゃいけないから」

「あいつが来る前に?」

「そうだよ。こんなの双葉に見せられない」


 楽しそうにありさは笑っている。


「消すの手伝ってあげようか?」

「いい。ひとりでやる」

「時間、ないのに?」


 クスクスと笑うありさにボクは息を詰める。


「……何が交換条件?」

「あいつにしたこと、あたしにもしてよ」

「好きでもないのに?」

「それは莉乃の気持ちでしょ?あたしは好きだよ、莉乃のこと」

「……冗談に付き合ってる時間はないから」


 ボクはありさを無視し、文字を消していった。


「あーぁ、簡単に消えちゃった。ま、いいか。何人かは見ただろうし」

「ありさは何が気に入らないの?昔は仲良かったじゃない」

「あいつが莉乃といるから。莉乃の隣はあたしの場所だったのに」

「先に距離を取ったのはありさでしょ」

「……あのとき、気づいちゃったのよ。あたしは莉乃のこと好きだって。まだ子どもだから親に言われたらどうにもできなくて、でも関わりたいって悩んでたとき、あいつが莉乃を奪っていったのよ!」

「じゃあ、ボクや双葉をいじめたのはありさがボクに恋をしたから?」

「……そういう関わり方しかできなかったから。莉乃に愛されてるあいつが羨ましかったから……っ!」

「……わざわざ嫌われることをしてどうするのさ。ありさにいじめられたの結構ショックだったんだよ?」



 ーーありさ、一緒に帰ろ?

 ーー親に言われたの。友達は選びなさいって。だから、莉乃とはもういられない。“ボク”って言うの気持ち悪いからやめなよ。間違ってるよ。


 ソウシタライッショニイラレルノニ。



 そのとき泣いていたのはボクだけじゃなかった。



「あ、Ωが来たぞ。子ども出来たんだって?さすがΩ。淫乱じゃん。やれれば誰でもいいんだろ?今度やらせろよ?」

「え……?」

「今の言葉、撤回して!双葉はそんな子じゃないっ!!」


 突然の言葉に双葉は困惑する。

 放たれた悪意は莉乃と双葉を容赦なく傷つけた。



 ☆


 私はあの後、結とふたりで撮った写真を待ち受け画面にしていた。

 これくらいのことならいいよねと私はスマホの画面にそっとキスをする。


「私が学生なら、なんの躊躇いも迷いもなく、“好き”と言えたのかな……?」


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