第11話 写真部

 人間は本当に感動したら、何も言葉が出てこないということをわたしは初めて知った。


「ふふ。ただの写真って正直バカにしてたでしょ?」


 自慢げに笑う千夏にわたしは失礼ながら頷いていた。


「なっちゃんの写真すごいでしょ?」


 わたしは先輩の言葉に頷く。

 が、“なっちゃん”とはどういうことかと千夏に目を向ける。


「水関係の写真が多いね。海とか湖が好きなの?なっちゃんは」

「そうだよ。ぜひ、ブルーアイスケイブにみんなで行きたいなと思ってるんだ。まぁ、そんな大金は部費で賄えないから夢なんだけどね」

「名前的に日本じゃないよね?」

「アイスランドだよ。冬季限定の青く輝く氷の洞窟なんだ。きれいなんだろうな。行きたいなぁ」


 楽しそうに話す千夏に思わず頬が緩む。

 この人は本当にかわいいすぎる。


「わたしが連れて行ってあげる」

「本当!?」

「うん。わたし、稼げる職業に就くつもりだし。どこでも千夏を連れて行ってあげる」


 不意にカシャッとシャッター音がする。音のした方を向くと、さっき話した先輩がカメラを構えていた。


「なっちゃん、恋してる?」

「……え?」

「だってこんな表情してる」


 そうして見せて貰った写真は、先輩の言うとおり“恋する”表情そのものだった。


「先輩、いくらでこの写真売ってくれますか!?」

「タダであげるよ。そのかわりと言ってはなんだけど、あなたのことも撮っていいかな?」

「わたしを撮って面白いですか?」

「面白いよ。人間の一瞬の感情を撮るのが私は好きだから」

ゆかりちゃんは、人物専門だもんね」


 写真に専門があるんだとわたしはふむふむと頷く。


「部員は先輩ひとりなんですか?」

「あとふたりいるよ。3年生がふたり、2年生が私ひとりなんだ」

「良かったら彼方さん、写真部に入らない?」

「んー、写真の良さはわかったけど、わたしに出来るかな?」

「別に難しく考えなくていいよ。撮りたいものを好きに撮ればいいだけで、うまく撮ろうとしなくてもいいんだよ」

「同じものをみんなで撮っても全然違うものが出来上がるしね」


 ふたりがかりの勧誘にわたしの心は揺れる。

 写真は久しぶりに興味が湧いたものだった。


「……親に聞いてみる」


 正直に言ったら親は絶対に反対するだろう。

 子どもの世界は狭い。学校と家しかないのだ。

 だから、自分のためにうまくやらなきゃいけない。


「うん。待ってるね」


 千夏の笑顔に胸がキュンとする。

 この恋も親には秘密にしなければ。

 親はわたしの“大事なもの”を“無駄なもの”として壊すから。



「あ、ちょっと遅くなっちゃったから帰りますね」



 わたしの携帯はさっきからずっと鳴りっぱなしだ。これ以上待たせるのはさすがに不味い。



「……早く大人になりたいな。自分のことを自分で決めたいよ」

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