第10話 出会い

「……ん……ぁ……そこ……すごくイイ……」

「こっちはどう?」

「……気持ちイイ……」


 私は八尋先生のテクニックに翻弄されていた。


「……気持ちよすぎです。八尋先生のマッサージ」

「それはよかった。してほしかったらいつでも言ってね」

「はい。ありがとうございます」

「水無瀬先生がいいなら、もっとイイコトしちゃう?」


 ふわりといい匂いがくらくらと私の脳を惑わせる。


「……もしかして八尋先生って、Ω……?」

「ふふ。そう思う?でも、違うのよ。私はβなの。フェロモンが普通のβより多いらしいんだけどね」


 そっと唇を細くてきれいな指に撫でられる。



「さ、ご飯食べちゃいましょうか?」



 ☆



「ふむふむ。それはやっぱり“運命の番”の可能性が高いと思うわ。本能が反応してるわね」

「私は“運命の番”以外とは恋愛できないんですか?」

「そんなことはないわ。αだからってΩとしか恋愛できないわけじゃなくて、α同士でもβとも恋愛できるわ。ただ、やっぱりΩと番になるのが多いけどね」

「生徒はさすがにヤバいですよね……」

「好きなの?彼方さんのこと」

「……確証はないんですけど、好きだと思います。それが身体の反応なのか、気持ちなのかわからないんですけど」

「じゃあ、私にもまだチャンスはあるわけね」


 軽く八尋先生の唇が私に触れる。


「私を好きになって?千夏先生。絶対に大切にするから」


 ☆


「ーー離してください!」

「そう嫌がるなよ?こんなにフェロモン振りまいて、誘ってるだろ?なぁ、Ωちゃん♪」

「私はΩじゃありません!」

「ま、遊べたらΩでもαでもなんでもいいんだけとね」


 ぐいと八尋は無理矢理連れていかれそうになる。



「ーー私の友達をどこに連れていくつもり?」



 八尋を引っ張り返して、私が抱きしめるとおそらく怖かったのだろう。ぽろぽろと彼女は泣き出した。



「お、あんたαだな。超美人じゃん!この子見逃すから、かわりにあんたが俺らと遊んでよ?」

「お断りするわ。バカの相手をする気はないの」


 私の簡単な挑発に男が拳を振り上げる。これで正当防衛が成立する。あっと言う間に男たちを気絶させ、私はふうとため息をついた。



「後始末は私に任せて、あなたは逃げて」

「え、でも……」

「大丈夫!私、強いから」

「じゃあせめて名前を教えてください」

「水無瀬千夏」



 これが八尋と千夏の出会いだった。

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